中華の足跡・改

中国から帰り、北海道に暮らしつつ、台湾とつながる生活。

マジメな話からくだらないネタまで、国籍・ジャンル・多種多様。

いざ、情報発信~!


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花火大会にふさわしい、綺麗に晴れ上がった空。

やや風が強い日ではあるが、まだ暑さの厳しい時期だけに、それは涼しく吹き渡っていた。

集合場所は、北柏駅。

手賀沼花火大会の三会場のうち、柏会場が目的地である。

徹司が到着したのは、集合時間の5分ほど前。

改札を出ると、既に数人の姿が見える。

上山、西崎、紗千子が、おしゃべりに興じている。

近づいていく徹司にまず気付いたのが西崎。

そのまま西崎は、徹司の背後に視線をやる。

それにつられて徹司も振り向くと、朋子と麻弥が改札から出てきたところだった。

どうやら同じ電車だったらしい。

さらに数分待つ間に、涼子、後藤、古兼が到着し、最後に来たのは普段から遅刻の多い横石だった。

「全員そろったみたいだし、行こうか」

出発の合図を出したのは、北柏が地元の上山だった。

みんなでぞろぞろと歩き出す。

学校の外で、これだけの人数で集まるのは初めてのことだったせいか、みんなどことなくテンションが高めである。

その中でも一番のハイテンションの人物を挙げるとすると、後藤だろうか。

後藤の興奮度は、きっとアレだろうな、と、徹司は前方を歩く朋子を見やった。

朋子は、花火大会らしく、浴衣姿だった。

同学年の女の子の浴衣姿などまず目にする機会もないので、徹司の目には実に新鮮に映る。

後藤が興奮するのも無理はない。

一方で徹司は、自分でも意外なほど、冷静な目で朋子の姿を観察できていた。

先日の古兼と朋子との会話が、思った以上に自分自身の気持ちに影響をもたらしたようだ。

迷いのような気持ちが晴れている。

そして、その分――

徹司は、紗千子と並んで話しながら歩いている、涼子の後姿を視界にとらえた。

涼子は、私服である。

普段から私服登校の大金高校だから、私服姿は目新しいものではなかったが。

涼子の着ている服は、徹司の記憶の中には無いものだった。

私服の中でも、通学用と、それ以外のプライベート用とで分けているのか。

それとも、普段あまり服装に興味のない徹司が見落としていただけなのか。

或いは――この日の為に新調したものなのか。

そんなことを考えた途端、徹司はなんだか急に恥ずかしくなった。

いかん、調子に乗るなよ――と、自分に言い聞かせる。

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違う、と即答できないくらいまでは整理がついてきているものの、かといって「実はそうなんだ」と朋子に話すのもためらわれる。

仕方なく、徹司は答えた。

「違うことはないんだけど……、だけど、その、……付き合いたいとか、そういうことは考えてなくて」

「どうして?」

「どうしてって……だって、うまくいくはずもないし」

我ながら情けない内容だと思うので、声も小さくなっている。

「モモちゃん、さ」

「うん?」

「もっと、自信持ちなよ。持っていいよ」

力強く、朋子が断言した。

「自信……」

「そうよ。モモちゃん、すごいんだから。演劇だって、そう思うよ?セリフもすぐ覚えちゃったし、演技もしっかりできてるし」

ストレートな朋子の誉め言葉は、まっすぐに徹司の胸に突き刺さった。

そうなのか?

いや、信じていいのか?

お世辞……という可能性は?

一体今日一日で、徹司は何度絶句させられたことだろう。

我ながらおかしくなり、徹司は思わず吹き出してしまった。

その徹司の笑い声を、朋子は自分の言葉を冗談と思われた、と思ったようだ。

「モモちゃん、ホントの話だよ?もっと、自分を信じていいんだってば!」

やや語気を強めて、言う。

ここまで自分のことを全面的に肯定されたのは、徹司にとっても初めてのことだった。

あたたかいものが、胸の中にじわっと広がっていく。

自分を、信じていいんだ。

そんなちっぽけな結論が、ここまで徹司の胸を騒がせる。

「ありがとう、トッコ」

万感の想いを込めて、徹司は感謝の言葉を口にした。

その夜の電話は、長くなった。

おそらくは――いや間違いなく、今までの徹司の人生の中での最長記録を更新した。

徹司自身、随分と気分が高揚していたのだろう。

そして、そのテンションは電話の向こうの朋子にも伝染したのだろうか。

演劇のこと。

クラスのこと。

大学進学のこと。

将来のこと。

はては、朋子の片想いの相手のことにまで、話は展開して行き。

終わりの見えないおしゃべりに終止符を打ったのは、徹司の父・征司だった。

深夜にまで及ぶ長電話に、さすがに堪忍袋の緒が切れたのだろう。

居間のドアをものすごい勢いで開き、つかつかと電話口に歩み寄る。

そして、一応電話の相手に遠慮をしたのだろう、『さっさと寝ろ!』と大きく殴り書きしたメモを、徹司の目の前に叩き付けた。

迫力に負けて、徹司は言葉を失った。

征司は、そのまま背を向けて、居間に帰っていく。

朋子も、なにやら不穏な気配を察したらしい。

明らかな小声で、

「モモちゃん?どうかしたの?」

と、訊いてきた。

徹司も小声で返した。

「ああ、ごめん。ちょっと長くなったせいで、親父がだいぶ頭にきたみたい」

「え、大丈夫?」

「うん、大丈夫。だけど、今夜はもう無理かな」

朋子を安心させようと、徹司は笑って言った。

「ん、わかった。じゃあ、また学校でね」

「了解。……あ、トッコ?」

「なあに?」

「ありがとうね」

うふふ、と、朋子は嬉しそうに笑って、どういたしまして、と答えた。

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結婚式の出席は、今年三度目。

今回は三連休の真ん中の日曜日。

ウチの会社は祝日は休みじゃないのだけど、せっかくだからと、月曜日は休みをもらって、東京に乗り込んだ。


主賓は、サークルの先輩。

先輩兼、友達・・・のような。

今も仲のいいグループは、同級生の男がほとんどと、唯一の一コ上の先輩(つまり今回の新郎)、それに二コ下の後輩の女の子数名、というちょっといびつな構成になっている。


我がサークルの結婚式ともなれば、もはや当然のように余興がある。

そして今回は、二次会の幹事もグループで請け負ったので、いつもよりもタスクは多い。

とはいえ、実務的なことはほとんどが関東組数名がやらなくてはならないわけで、俺のような地方組はできることが限られているのだった。


今回の余興ネタは、「事業仕訳」をテーマに。

新郎の小遣いやら趣味のゴルフやらを勝手に俎上に載せ、会話を重ねて「削減」だの「継続」だのと結論を出していって、最終的には鉄板ネタの「マブダチ」につなげるというもの。

結果から言うなら、当日しかセリフ合わせができなかったことや蓮舫マスクが思った以上に声がこもってしまったことなどもあって、大爆笑とまではいかなかったが、はずしたというほどの事もなく。

後程新郎の先輩が言うには、出席した上司から「こんなに手の込んだ余興は見たことがない。良い友達を持ったな!」と熱っぽく語っていただいた、とのこと。

俺らとしては、最大級の褒め言葉だ。


二次会も、タイムスケジュールとの必死の戦いという側面を持ちつつも、どうにかこうにかまとめあげ。

三次会にて、ようやくほっと一息。心地よい疲れだ。

その三次会では、ある一人が来年の結婚を発表し、また別の一人は第一子の誕生を予告し、そしてもう一人は二人目のお子様の発表を。

なんだなんだ。

おめでたラッシュか。





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そのままの姿勢で、うとうとしてしまったらしい。

徹司はぼんやりと、階下で鳴る電話のベルの音を聞いていた。

電話には、朝子が出たらしい。

そして、朝子が階段を上がってくる音。

「徹司?鈴本朋子さんから電話よ」

徹司は飛び起きた。

できるだけ落ち着いた風情で、階段を下りて玄関口の電話の受話器をとった。

「もしもし、トッコ?」

「あ、モモちゃん。ごめんね、夜遅く」

「いやいや、全然大丈夫。ていうか、今何時?」

「9時過ぎだけど……あれー、もしかしてモモちゃん寝てた?」

「えーと、いや、ちょっとウトウトしてて」

「あはは。ごめんね。えっと、それでまず用件なんだけど、今度の手賀沼花火大会のこと、モモちゃん聞いてる?」

「あ、ちょうど今日剛志ともちらっと話したな。みんなで行こうっていう話かな?」

「うん。まあみんなって言っても、さすがにクラス全員というわけにはいかないんだけどね。せっかくの機会だし、みんな練習頑張ってるから、息抜きっていうか、お疲れ会っていうか」

「お疲れ会っていったら、なんか終わった後みたいだね」

と、徹司はくだらない感想を挟んでしまった。

朋子はさして気にした風も無い。

「あは、そうだね。で、とにかく、そういう話があって。でもまあ、せいぜい花火を見る程度のことだから、企画ってほどのことでもないしね。で、そういえばモモちゃんに直接話してなかったなーと思ったから、電話したんだけど。来るでしょ?」

「えーと、うん、行くつもり。花火、好きだしね。音を聞くのが、特に」

なんだかとってつけたような理由を言ってしまってから、余計なことだったかな、と徹司は自分で思う。

行くよ、と、さらっと言えばいいのに。

「そう、よかったー」

朋子は、一旦言葉を切って、何故だか少し声を低めて、言った。

「あのね、モモちゃん。余計なことかもしれないけど……涼ちゃんも来るよ」

徹司は、絶句した。

何故、朋子の口から涼子の名前が出てくるのだ?

しかも、この口ぶりは……。

反応に詰まった徹司は、思わず、

「トッコ……剛志から何か言われた?」

と、返した。

「古兼くん?ううん、何も。どうして?」

「いや……やっぱり似たようなことを言われたもんだから」

「そうなんだ。あは、モモちゃん、幸せ者だね」

「え?」

「周りの人が気にかけてくれてるからねー。大丈夫、ちゃんとお膳立てしてあげるから」

「ちょ……ちょっと待った!なんか、話が勝手に進んでるような気がするんだけど」

徹司はあせった。

展開の速さについていけない。

お膳立てとは、なんだ?

そもそも、朋子の頭の中では、どういうストーリーが作られているんだ?

「えーとトッコ、とりあえずその、栗橋さんがどうのこうのっていう話は、どこから来たのさ?」

苦し紛れの徹司の質問に対し、

「なんとなく、見ればわかるよ。違うの?」

朋子はさらりと聞き返してくる。

徹司は頭を抱えた。

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「徹司、あんた聞いてるの?」

朝子の声がとがってきた。

そろそろ母親が本気で怒るかも、と察した徹司は、ゲームの手を止めて振り返った。

対戦格闘も好きだが、家ではもっぱらRPG系統を好んでプレイする。

ここしばらくは、『バハムートラグーン』というタイトルに挑んでいた。

「聞いてるよ、旅行でしょ?」

「そうよ。前にも聞いたけど、部活とか、あと文化祭の練習とか、無いのよね?」

「うーん……それが、どうも……」

「は?何言ってんのよ、旅行の日はだいぶ前から決まってるのよ?一日二日くらい、休めるでしょ?」

「そりゃあまあ……そうなんだけどさ」

徹司は、左手で頭をガシガシとかいた。

正直なところ、徹司はすでに家族旅行に行く気持ちはほとんど残っていなかった。

ただそれを正直に親に言い出せずにいたため、出発まで残り数日というタイミングで親に詰問されることになってしまったのである。

「あんたねえ、冗談やめてよ?お金だって、全部はらってあるのよ?」

朝子は朝子で、次男の煮え切らない態度から、真意を悟ったのかもしれない。

だんだんと語気がするどくなってきた。

「ごめん……でも、やっぱり俺、旅行キャンセルする。練習が、今すごく大事なところで、みんなに迷惑かけたくないし」

「それならそうと、何でさっさとそう言わないのよ?キャンセル料とかだって、全然違うのよ」

全くその通りなので、徹司はだまってうなだれた。

どう考えても、徹司が悪い。

朝子は大きくため息をついて、あきらめたように言った。

「あんたが演劇にそこまで夢中になるなんてねえ。想像もしなかったわ」

「そうか?」

「そうよ。昔っから目立つタイプじゃなかったし、人前で話すのも好きじゃなかったでしょ?その辺は、お兄ちゃんとは違ってたものね」

徹司の一つ違いの兄、建司(けんじ)とは、確かに性格は全く違っている。

小学校の頃からスポーツができて何かと目立っていた建司とは違い、徹司はひっそりと図書館に通うようなところがあった。

それは徹司のコンプレックスでもあり、その後の進路にも様々な影響を与えたのだが、さすがに親にそのようなことは言えるものではない。

もう一度ごめんと謝り、徹司はそそくさと二階の自分の部屋へと退却した。

これは親父にも怒られるかなぁ、と、徹司は少しびくびくしている。

父親の征司(せいじ)は、普段はあまり小言を言うタイプではないのだが、やはり徹司としては、征司を本格的に怒らせるのは避けたいところだった。

その征司は、まだ仕事から帰ってきていない。

できれば今日は征司と顔を合わせたくない徹司だったので、しばらくは部屋にこもって台本を眺めることにした。

机の上に置いてあるCDラジカセの再生ボタンを押す。

流れ出したのは、最近お気に入りの「JUDY AND MARY」で、「ドキドキ」というタイトルだった。

このバンドのことを知ったのは実はつい最近で、朋子や古兼、後藤といったあたりのクラスメートが話題にしているところから興味を持ったのだが。

カラリとして力強いボーカルも、前向きになれそうな楽曲も、すぐに徹司にヒットしたのだった。

曲に合わせて鼻歌を歌いながら、徹司は、シーン12を開いた。

雷太と徳造が嵐の海に投げ出される場面である。

長いセリフが入るが、間違えるわけにはいかない。

徹司は、暗唱を始めた。

「気づいた時には、海の中だった。俺は必死に泳いで、海面に出た。右も左も上も下も真っ黒。しかし、遠くに白い点が見えた。徳造のジャンパーだ。徳造!俺は必死で泳いだ。白い点は見えたり見えなくなったり。なかなか近づかない。しかり、俺には約束がある」

ここで、語り役の人間から『徳造のことは任せておけ』のセリフが挟まれる。

徹司は、呼吸を整えた。

「何分泳いだか、わからない。俺の右手は徳造のジャンパーをつかんだ。徳造!頬を叩くと、目を開けた。泳げ、徳造!どっちが陸かわからんが、とにかく泳ぐんだ!」

ふう、と、徹司は軽く息をついた。

ここからは、徳造役のナオ……つまり朋子との二人芝居。

演技上の実力差が歴然と見えてしまっては、主役失格である。

徹司は目を閉じて、ぶつぶつと暗唱を続けた。

やがて、徳造は力尽き、雷太もまた意識を失う。

「目を開けると、俺は海の上に浮かんでいた。空は真っ青に晴れていた。嵐はとうの昔に過ぎ去ったのだ。俺は一人だった。徳造の姿はどこにもなかった。水平線まで見渡しても、ヤツの白いジャンパーはなかった。俺は泣いた。俺はヤツを死なせてしまった。俺も一緒に死にたかった。しかし、また死ねなかった」

やり場の無い悔しさや無念。

うまく表現するには、どうしたらいいのか。

考えながら、徹司は布団に寝転がった。

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ハンドボールの地区大会の会場が、今年は大金高校だったのだ。

グラウンドは教室棟に面しているので、各教室の窓からは試合が良く見える。

徹司たちとしても、休み時間になって観衆が増えると、普段はあまりやらないような派手なプレーを狙ったり、いつも以上に声を出したりと、そんなことをやっていたものだが。

「その試合を見てるときに、なんかモモがうまいプレーをやったらしいな?いや、俺は覚えてないけどさ。『あの2番の人、上手だったね』『あ、あの人、ウチのクラスの桃井くんよ』みたいな具合になったようで、ね」

徹司にとっては嬉しい話ではあるが、鵜呑みにするには少々都合が良すぎる話のようにも聞こえる。

「正直、俺、そんなにうまいプレーをした記憶はないぜ?」

「知らないけどさ。まあなんかたまたま印象に残ったんじゃないの?」

「なんか無責任な話だな」

「ま、俺の彼女の話はいいさ。栗橋さんが、けっこうモモの話に乗ってきた、って方が大事なわけで」

「それもなんだか、疑わしいんだがな」

「なあ、モモ」

古兼が、体ごと徹司に向き直った。

「マジメな話。俺もあんまり無責任なことはいえないから、アレだけど。チャンスは、あると思うぜ?」

徹司は、返答に詰まった。

何と答えるべきか、言葉が全く浮かばない。

心の乱れが収まらず、自分自身の真意さえわからなくなっていた。

ただ、最終的には――期待しそうになる心を、押しとどめた。

朋子であれ涼子であれ、自分のような男とどうにかなるはずも、ない。

少なくとも徹司は自分の容姿には全く自信のようなものを持っていなかったし、流行にも疎かったし、服装に興味もなかったし、会話のセンスも持ち合わせていない――つまりは、女の子受けする要素を持ち合わせていない……と、ずっと思ってきていた。

それでも、幸いなことに周囲には男友達は多く、いい人間に囲まれていたので、そのことを気に病んだことはほとんど無かった。

だから、それを変えようとの努力もしてこなかったのだ。

その、ツケ――と、言えなくもない。

ならば、仕方のないことではないか。

徹司は、首を振って両手を上げた。

「やめよう、剛志。ゲームでもしねえか?」

古兼もあっさりと追求をやめて、いいぜ、と応じて席を立った。

先ほどまでの暗い思考を振り払うべく、徹司はあえてゲームの話題に集中した。

ダイエーの中のエスカレーターに乗りながら、『ファイティングバイパーズ』の話を続ける。

「この前、いい感じの連続技ができてな」

「ほう、誰の?」

「ジェーン」

「ははあ、モモはやっぱりジェーンに戻ったか」

「やっぱ使いやすいんでね。で、壁際に相手を追い込んだ時に、膝蹴りで相手を壁に叩きつける投げ技があってさ。そっから、もう一発ヒザを叩き込む投げに派生できて」

「ほう」

「そのヒザの後、相手が崩れ落ちるんだけど、その間に実は打撃が入る。なので、アッパーを入れて浮かせることもできる」

古兼は黙ったまま宙を睨み、映像をイメージしている。

「で、相手が崩れかけた状態でのアッパーだから、あまり高くは浮かない。だから相手も受身が取りにくくて、こっちとしては空中コンボをつなげやすい。といってもジェーンだからあまりたいした連続技もないけど、とりあえずPPKコンボを入れて、ついでに追い討ちもしっかりと入れとく。これ全部で、アーマーが無ければ、8割くらいの体力持っていけるぜ」

「なるほど。壁がらみならそのくらいいくかもね」

そんなくだらない会話を交わしながら、二人の高校三年生はゲームセンターへと姿を消していった。
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まだ整理が付かない徹司は、ふと本筋とは関係ない思いが浮かんだ。

「そういえば、俊のヤツは、知ってんのかい?アイツは、本気でトッコに惚れてるんじゃないの?」

古兼は、苦笑いだ。

「や、どうなんだろう。たぶん知らないと思うけど。あそこまで行っちゃったら、外野から『やめとけ』とか言いにくいじゃん?たぶん玉砕すると思うけど、まあ仕方ないかな、と」

「仕方ないね」

徹司も、同じような苦笑いを浮かべた。

「この前も俊は、なんかムダに気合入れてたなあ。花火大会、あるっしょ?その時に、なんとかいい雰囲気を作りたいとか、言ってたよ」

「花火大会?手賀沼の?」

「そうそう。あれ、モモ、聞いてない?なんか、クラスのみんな――ああもちろん全員じゃないけど、見に行こうって話があったけど」

「そういえば、ちらっと聞いた。忘れてたよ」

手賀沼という沼は、ちょうど柏市・我孫子(あびこ)市・沼南町(しょうなんまち)の三市町に取り囲まれる位置にある。

この沼は実は、化学的酸素要求量――平たく言えば、水質の汚染度が、1974年から毎年連続で日本全国ワーストワンという、いささか不名誉な記録を保っている沼なのだが。

夕暮れどきなどは、案外に綺麗な顔を見せたりもするのだった。

その手賀沼において、毎年夏になると、恒例の花火大会が開催される。

隣接の柏市・我孫子市・沼南町が、それぞれの会場から競うように花火を打ち上げるのだ。

3地点の花火の競演を鑑賞できるということで、近隣の住民からはなかなかの人気を誇っている。

その花火大会を見に行こうという話――確かに徹司は、数日前に聞いたような気がする。

その話をしたのは、さて上山だったか横石だったか。

その機会を狙って、後藤は朋子との距離を縮めるべく、燃えているというわけである。

古兼が、コーヒーのお代わりを淹れて、席に戻ってきた。

ごく当然のように徹司はカップに手を伸ばす。

いつものことだったから、古兼も何も言わない。

「剛志、花火大会っていつだっけ?」

「次の土曜日」

そっか、と応じて、徹司は慎重にコーヒーを啜る。猫舌の徹司は、淹れたてのコーヒーをぐいっと飲むことはできないのだ。

「ああ、そうだモモ。栗橋さんも来るってさ」

徹司の手が止まる。

古兼の表情を見ても、この男の真意は読み取れない。

「……で?」

「いや、別に」

古兼はうそぶくように言って、徹司の手からコーヒーカップを奪い取った。

そのままくいっと、コーヒーを飲む。

徹司の斜め後方の窓の外を、ぼんやり眺める。

そして、しばらくの沈黙。

こうなると、先に音をあげるのは徹司である。

「剛志……」

徹司が口を挟むのを待っていたかのように、古兼が話し出した。

「俺の彼女――たぶんモモは直接知らないと思うけど。栗橋さんと前、クラスが同じで、結構仲がいいんだな、これが」

「ふうん」

気のなさそうな相槌。

だが――徹司の脳内は、フル稼働状態となっていた。

――剛志は一体、何を言い出すつもりなんだ?

構わず、古兼は淡々と続けた。

「結構いろんな話をしてるみたいだね。まあ、女の子同士だし。……モモの名前が挙がることも、あるみたいだよ」

「何でさ?俺はその、剛志の彼女とは面識ないんだろ?」

徹司はことさらに興味のなさそうな口ぶりを作ってみたが、成功しているかどうか。

「彼女はモモのこと、知ってるぜ。いや、話したこととかは無いらしいけど。いつだか、ハンドボールの大会、ウチの高校でやったろ?休み時間なんかに、けっこうみんな窓から見ててたけど」

そういえばそんなこともあったな、と、徹司は懐かしく思い出した。

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家のパソコンは大体5年前くらいのシロモノである。

当時でさえ、値段重視で購入したから、最新版ではなかったということで。

多少のメモリ増設等の処置はほどこしてあるものの、今やかなりの時代遅れ感は否めない。


とはいえ、世の中の人がそうそう買い替えばっかりしているとは思えず、5年前くらいのモデルなら十分許容範囲、とも思えるだろう。

俺もそう思って、だましだまし使い続けているわけで。


ところが、だ。

このところ、不調が際立ってきた。

起動してしばらくの動きがアホみたいに遅いのはともかくとして。

前触れも無く、突然シャットダウンして再起動が始まるという、嫌がらせのような動作が起こるようになってきた。

困る。


そして、先週末。

またも、突然画面が真っ暗に。

そして再起動が始まらずに、ビービーと無機質な電子音が。

何事だ?


首をひねりつつ、とりあえず強制的に電源を落とす。

そして、再度スイッチを入れると。


画面は暗いまま、またもやビービー。

適当にキーをたたいても無反応。

ひたすらビービー。

バカにしてんのか。


いったん電源を切り、30分位してからリトライ。

さあどうだ。

・・・ビービー。


どうする。

これじゃ手の打ちようがない。

こんなタイミングで買い替えを強制されるとは。

最近バックアップとかしてなかったんだがなぁ・・・。


ガックリして、その日は不貞寝。


そんな時は、都合のいい夢を見る。

別の人に電源を入れてもらったら元通り起動した、というような夢を、3回くらい見たような気がする。

あんまり夢がしつこいので、起きだして、えいやっと電源を入れてみたら。

普通に起動した。


・・・で、あれ以来突然落ちることはなくなったのだが。

やはり不安だ。

早急に買い替えを検討しよう。

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「なあモモ、ちょっと気になってるんだけどさ」

古兼が、砂糖を入れたコーヒーを混ぜながら、言った。

「いや、気のせいだったらいいんだけどね」

「何だよ?思わせぶりだな」

徹司は、何も注文をしていないので、目の前のテーブルには何も置かれていない。

後で古兼のお代わりコーヒーをわけてもらおうという魂胆なのだが、このドムドムバーガーに来る時はいつものことなので、二人とも気にも留めていない。

古兼は、使い捨てのプラスチックのマドラーをトレイの上にぽんと投げ出すと、コーヒーを軽くすすった。

「トッコは……やめといた方がいいと思うぞ」

徹司は、ドキリとした。

反射的に、何のことだ、ととぼけようとしたのだが。

あきらめた。

どうにも、この古兼という男を騙せる気が、しない。

とはいえ。

「剛志、いちおう、勘違いないように言っとくけどな。別に、すごく好きになったとか、そんなことはないぜ?いやホントに」

「や、まあ、そういうことにしておいてもいいけどね。念のため、忠告」

「で、それ……やめておけってどういう意味さ?」

「わからないかい?」

古兼の静かな問いかけ。

頭で考えるよりも先に、ぼんやりと回答の想像が浮かぶ。

徹司の鼓動が、やや早くなってきた。

「惚れるのはやめとけ、ってことだろ?100%フラれるから、ってか?そういうことなら、気にしなくていいぜ。ハナっから、うまくいくなんて思っちゃいないし」

「いやいやいや、それはまた別問題なんだけどね。モモがどうのこうのじゃなくて……まあつまり、トッコの目が別の方を向いてるから、ということで、ね」

徹司の心に、驚愕やら失望感やら納得の気持ちやら、そして何故だかわからない安堵感のようなもの、そういったものがないまぜになって満ち始めていた。

「……そうなのか?」

「ああ、やっぱモモ、知らなかったか」

古兼は、そこでコーヒーを音をたててすすった。

ちょっと考えるような表情になった。

「俺から話していいのか、ちょっと迷ったんだけどね。まあ、極秘情報というわけでもないし、トッコ自身もそれほど隠してるわけじゃなさそうだし。……相手は、たぶんモモは知らない人だと思うけどね」

「あれ、そういえばいつだか、トッコは付き合ってる人はいないとか、剛志が言ってなかったっけ?最近の話なの?」

「ん?ああ、いや、付き合ってるわけじゃないみたい。簡単に言えば、トッコの片想い、ってやつかな」

これには、徹司は正直驚いた。

何となく、朋子のような魅力的な人間に、『片想い』という単語は似合わないような気がした。

「へえ?全然知らなかったな」
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×月×日

雷太役で一番の難所は、なんといってもシーン12だ。

下関での回想シーンである。

雷太とナオの出会い、徳造との友情・事故・約束、ナオの葛藤。

だんだんと魅かれ合う二人――そして、別れ。

ストーリー的にも非常に重要な部分だし、主役級の二人が長時間サシで芝居をする大事な場面でもある。

なにしろセリフが多いから、正直まだ全然演じきれてないのだけど。

でも、相手のナオをやるのは、トッコだ。

すごく、うまい。

本来のおばあちゃん役ではなく、若い男の漁師役をその場だけ演じるわけだから、難しさは俺の比じゃないはずなのに。

俺がヘタだったら、ぶちこわしだ。足を引っ張るわけにはいかないじゃないか。

ここはちょっと、根性入れてやるべし。

――と、気合を込めるのはいいとして。

劇の構成上、嵐の海に投げ出された場面で徳造を演じるのは、ナオ役のトッコである。

雷太は徳造と二人、嵐の中を苦闘するのだが。

漁師の親友である徳造を絶対に助けてやる、という場面であるから、力尽きかけた徳造の肩を抱えたり、至近距離で顔を近づけて叫んだりするわけだ。

……が、そこにいるのはトッコだ。

正直、なんかこう、不謹慎だけど、ドキドキする。

女の子の、肩なんか抱いたことないし。

手をつないだことだってないし。

こんなゼロ距離で話すことだってないし。

別の意味で汗をかいてしまうぞ。

……こういう気持ち、バレてなきゃいいけど。



×月×日

今日は、めちゃくちゃ暑かった。

真夏だから仕方ないか。

当日は、もう少し涼しくなってるはずだけど。

いや、俺は寒いよりは暑いほうが好きなタイプなんだけど、なにしろ芝居がクリスマスの設定で、ジャンパーを着て演じなきゃならないシーンがあるので、さすがに汗だくになりそうだ。

しかも、スポットライトって、ずっと浴びてるとけっこう暑いとかなんとか、そんな噂も。

どうなんだろう?



×月×日

そういえば、俊のヤツは、トッコのことが好きだと。

いつだか剛志に教えてもらってから、何となく気にしてみていると、なるほど確かにそのようだ。

まあ本人も隠すつもりはなさそうだけど。

トッコの誕生日が八月の後半らしく、そこで何かアクションを起こすとか起こさないとか、悩んでるらしい。

おもしろいヤツだ。

んで今日は、その俊に、「いいなぁモモ、劇でトッコの肩とか抱けて」などといいやがる。

まあ冗談だろうけどサ。

役得役得……なんて、俺が言っちゃマズいよな、やっぱり。



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