「流し」という立場で歌を歌い始めて

 

とても自分の性に合ってると感じることが多い。

 

お客さんからしてみたら、呑んでいる時に突然席に現れ

 

「歌を歌うからチップをくれ」と強気な営業をかけられるわけだ。

 

なんと傲慢な!

 

流しからしてみたら、自分のことを露ほども知らず、

 

いい気分で談笑している人たちに突撃し

 

「歌を歌うからチップをくれ」と強気に営業をかけないといけない。

 

この状況では、お客さんから嫌がられたり、叱られたりすることも覚悟しないといけない。

 

だけどね、いままで一度だって叱られたことはない。

 

困った顔をされたり、煙たがられることはもちろんあるけれど、

 

たいていの場合、とても丁寧に

 

「ごめんなさいね。いま話してるから。」

 

とか

 

「また今度ね。ありがとう。がんばってね。」

 

とか、優しい言葉をかけてくださる。

 

寛容で優しく、その場の雰囲気を壊さないような反応をしてくださる方がほとんど。

 

 

そして、お酒が入った場では人の感情はすこ~し裸になる。

 

そんな時にかけてもらえる言葉や、優しい態度には心が打たれる。

 

 

だから、運よく「歌って欲しい」と言ってもらえるととても嬉しい。

 

楽しい歌、悲しい歌、がんばろうという気持ちになる歌。色んな歌がある。

 

私は聞いてくださる方の気持ちに少しでも触れられるよう、

 

この短い歌の時間が「あって良かった」と感じてもらえるように歌いたい。

 

嬉しそうに一緒に歌う人、

 

好きな歌手の歌を聞いて喜ぶ人、

 

涙を流してしまう人、

 

昔を懐かしんでほっこりする人。

 

人それぞれ、選んだ曲が歌われる時間に期待することがあって

 

人それぞれ、流しが奏でる音楽に思いをはせてくれる。

 

この時間、なんて素敵な時間なんだろう。

 

目の前のその人、その人たち、その場所のために

 

その人たちの表情やその場の空気を感じながら歌える。

 

 

私は商売人だから、歌を歌うことを職業にしているから

 

強引な押し売り営業をした「歌の時間」に対して

 

最後に「ありがとう」という言葉と共に差し出してくださるお代は

 

とてもとても大切です。

 

ありがたいなぁ。