高度経済成長の秘密(その11): ストックの存在形態 | 気力・体力・原子力 そして 政治経済

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 (旧有閑爺いのブログ)

 
第2部 経済成長のメカニズム
 
 第1部の最後で、「経済成長のメカニズム」を原理を示しましたが、それを少し厳密な形で提示するとともに、高度経済成長期にそのメカニズムがどう作動したかを説明します。
 
第1章 ストックの活用
 
第1節 ストックの存在形態
 
 所得に加えて、ストックされている資金を需要に換えれば、経済が成長することは既に説明しました。つまりストックを活用すれば経済成長するわけです。
 
 ストックを活用するにはストックの性質や存在形態を知る必要があります。
 
 第1部ではストックの基本的性質として、時相を持たない静的存在であることを説明しました。平たく言うと財布の中にある通貨が10年前から使わずにとっておいたものか、昨日給与として得たものなのかは区別はつけられないし、金庫にしまっておけば動くことはないといった性質です。
 
 次に重要な性質として、ストックには所有者があるということが挙げられます。日本にはトータルとして巨大な金融資産がありますが、それらは無数ともいえる個人や法人が区分して所有しています。つまりストックの存在形態は区分所有の集合体であるのです。
 また、フローを作り出すにはストックを移動させなければなりません。すなわちストックの区分所有者が所有しているストックを手放せばフローが生まれるのです。もちろん手放したストックは違う人が区分所有することになります。
 この性質は、経済を縮小させる要因を内包しています。ストックは静的存在であるので変質などは起こらず、生活や企業経営が成り立つ限り、ストックを手放すことを先延ばしにすることが可能だからです。このことはフロー生成の阻害要因であり、経済縮小につながることです。
 すなわち、ストックをどう処分するかは、人の選択によるものであり、その選択結果によって経済の拡大縮小が決定するのです。
 
 しかし、最大の性質として挙げられるのは「通貨ストックは無限に存在する」です。なぜ無限なのかというと、市中銀行が日銀に融資申し込みを行えば日銀は基本的には通貨を発行して貸し出しを行うからです。すなわち通貨ストックは日銀が生成可能な存在である、つまり作れるので、無限であるといえるのです。
 高度経済成長期には日銀は市中銀行の要求にこたえて、通貨を増刷してそれを貸し出すということを繰り返して行っていました。日銀の融資は、市中銀行から当時の基幹産業あるいは育成すべきと考えられた産業に又貸しされて、設備投資つまり需要の資金となり経済が拡大を続けたのです。
 しかし、当時は日銀の貸し出しが経済成長の原資であるとの認識はなく、景気は循環するものとの考えで、景気過熱しすぎると金融引き締め(貸し出し制限)が政策として取られていました。
 その指標になったのが外貨準備です。高度経済成長期の貿易収支はほとんどの期間を通して赤字でしたので、景気過熱により外貨準備が急速に減少する状況でした。従って外貨が減りすぎると金融を引き締めにより景気を減速させ、原材料やエネルギー輸入を抑え込むといった政策が行われたのです。
 このように、通貨ストックは理屈の上では無限ですが、高度成長期には現実の景気の状態を見ながら貸し出し制限を行っており、結果として供給能力とのバランスが保たれていました。
 
 現在の日本には民間に巨額の貸し出し可能な金融資産がありますので、日銀に有効な金融政策が行える状況ではありません。すなわち日銀が通貨ストックを生成しなければならない状況ではないということです。このことはある意味危険な状態であり、戦争や暴動等の社会不安が起きれば、通貨ストックを物品に換えようとする換物の動きが出るおそれがあります。そうした場合に換物の動きの止めようがなくなる可能性があり、極端な物価上昇が起きるおそれがあります。
 民間の保有する貸し出し可能な金融資産を誰かが借り入れて計画的に需要に換えていけば、すなわちストック活用を計画し、その実施を図れば民間の貸し出し可能な金融資産は漸減し、かつ経済は成長するとともに、日銀の金融政策が有効となる状況が生まれます。
 なお、昨今日銀が行っている金融緩和なるものは高度経済成長期の金融(貸し出し)とは全く異なり、単なる国債という資産の売買であり、経済にとっては全く無意味な行いで、肝心のストックを需要に換えるということに対する施策が抜け落ちた間抜けた政策です。
 
 結局、経済成長を支えるためのストックは、個人法人が区分所有する金融資産の有無にかかわらず、日銀が無限に生成可能でありますので、限度額は存在しません。
 限度が存在するのは供給能力つまり生産力ですが、これは需要拡大とともに増強されていきます。このことは歴史的事実であり、長いスパンで見れば経済成長に限界はなく、需要として通貨を投じ続ける限り、成長は続きます。煎じ詰めると借用書一つで需要を作ることができ、経済成長できるということです。
 通貨ストックとは借用証をため込んだものという存在であり、これをいかに使うかが最初にあり、なくなれば作って使うことが出来る、ということさえ理解できれば経済成長できます。