2012年、8月11日、土曜日。
お盆休みを故郷で過ごす人の帰省ラッシュは、今日ピークを迎えた。
【Date】8/11 19:17
【To】茜
【Sub】(non title)
今から下通りで遊ばない?
牛丼屋でお前の好きな牛丼大盛りを食べた後、
いつものゲームセンターのクレーンゲームでお前の好きなキャラ『牛丼くん』を取ってあげるよ。
【Date】8/11 22:50
【From】茜
【Sub】Re:
メンドイ
……。
…。
このカップルの関係も、ピークを迎えた。
(空白の時間に、茜ちゃんは他の男と遊んでたよwww。女なんてそんなもんそんなもん^^;現実現実……)
サラリーマンも、故郷である熊本県熊本市に帰郷していた。
今日は、最大レベルの楽しさ、東北大震災発生から17ヶ月目でもある。
今日も上通り下通りには、『表面的』には幸せそうな人が大勢歩いているが、
サラリーマンはふと、道行く全員が全員、
(東北の人達の不幸と死で、楽しんだ自分自身と向き合って折り合い付けた人たちなんだよなあ……)と思うと、なんだかいたたまれない気持ちに苛まれ、楽しめなくなる……。
一流の学者、一流の弁護士、一流の行政書士、一流の錬金術師、一流の魔法少女、一流のサイヤ人が束になってかかっても絶対に論破不可能と言われた、
「東北以外の人は、東北の人達の不幸で、死で、楽しんだ分募金すればいいだけ。
津波の映像とかで散々楽しんだでしょ。
『別に楽しんでないもん><』って開き直る人が出現するって?
東北以外の『人』はって、言ったはずだけど???」
という圧倒的な正論も気がかりだ。
この正論の奥深い点は、
1円でも10円でも「それだけしか楽しんでないですよ><」と開き直ってしまえば逃げられる、人間の醜悪さを看破している所だろう。
放射能は全国に蔓延し、あの日以降『認めたら発作が起こって死亡する難病』に苦しむ日本国民が急激に増えた。
このサラリーマンは、1万円程度募金して、「はい東北の人達に楽しませて貰った恩返した><」と開き直り、お盆休みを謳歌してもいいのだろうか……?と悩み苦しんでいた。
――もう人の事なんて気にすんな。自分が決めた事ならそれでいいだろ。みんな違うんだからさ……。
不意に、機動戦士ガンダムSEEDの主人公、サイ・アーガルの名言が脳裏を過ぎった。
(だが、ここでこの名言は違わないか……?)と自問自答するサラリーマン。
(つまり、『他人の不幸で楽しんだ事を認められる、自分自身と向き合える、心が広い人』は広い人で、人は人なんだから、別に自分まで認める必要ないじゃん?、って開き直れっていうのか……)
激しい葛藤の末に、
「そうだ。電車に轢かれて死ねば、全国ニュースで報道されて、東北の人たちを楽しませられる、つまり恩返し出来るじゃないか!」
と、建設的な結論に辿りつくサラリーマンは微塵も躊躇わず電車に飛び込み、
ハンバーグの基本レシピには欠かせない食材、
ピーマンの肉詰めに入ってる食材へと変わり果てた。
しかし、熊本県内でだけ報道され、
県内の人気ローカル情報番組『夕方いちばん』の人気コーナー、
『ちゃちゃっとクッキング』の今日の料理、肉ダンゴに使われただけだった。
サラリーマンの死はRKKと熊本県人たちを楽しませただけで、
東北の人たちへの恩返しにはならなかった……。
今思えば、サラリーマンには、
『素直に認めて金額で恩返しする』という選択肢はなかったのだろうか……。
(追い詰められ切羽詰った人間の心理状態は得てしてそういうものだが)