2014冬コミ販促 | 雑記帳

雑記帳

こちらは「くじういんぐ」(http://kuji-wing.com)の雑記帳です。

 冬コミ販促です。


 Kanon小説本新刊 『雪兎の円舞曲』
 64ページ 500円で配布予定
 12/30(3日目) 西 む-30b くいういんぐ



表紙




口絵1




口絵2





 例によって例のごとく、名雪メインのぐだぐだしたお話。


 あと、影さんとこにも艦これ小説のゲスト原稿書いてます。
 そっちの販促はぴくしぶに。
 http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4687097



 以下、うちの新刊サンプル。



「寒っ! イヤ! ヤメて!」
 扉を開けた玄関から吹き込んでくる身を切るような寒風に、思わず叫んでしまった。
「ヤメてってなに……?」
 後ろの名雪はドン引きだ。とりあえず寒いので扉は閉めた。
「ちょっとなに閉めているんだよ、これじゃ学校行けないよ」
「何が学校だこの学歴社会に囚われた哀れなティーンエイジャーめ! あんまりワガママ言うと蒲焼きにして食っちまうぞ!」
「もうワケが解らないよ、ほら早く行かないと遅刻しちゃうってば」
 俺を押しのけるようにして扉を開ける。途端に氷点下の冷気が俺の全身を撫でた。
「ぎゃあ寒いぃ! やだぼくもうおうちかえゆ!」
「はいはい、じゃあ行くよほら」
 やめろ制服の首の後ろを掴むな、連行されるスネオみたいになってるじゃねーか!
「うーん、確かに寒いね今朝は、今年一番の寒さかも」
「やべぇよこれ、マジぱねぇよ……」
「なして九十年代、ほら立ち止まってるときっともっと寒いよ、歩こ」
 そう急かされて、渋々歩き始める、確かに立ち止まっているよりはマシだが、それでもむき出しの顔が切れるように寒い。というか痛い。俺は首に巻いたマフラーで口元から頬にかけてを覆った。
 つーか前々から疑問だったんだが、このありえないほどのクソ寒さのなか、どうしてこいつはコートも羽織らず薄手の制服だけなんだ? ビョウキなのか? こいつ実は妖怪雪ん子じゃないのか?
「せめて雪女とかさぁ…… でもこの制服、実はこれでいてかなり暖かいんだよ?」
「なに? そうなのか?」
「ほら、このケープとか、ひらひらしているけど実は結構厚手素材だし」
 やめろ、ほらほら触ってみなよーとか言いながら身体を押し付けてくるな、恐喝されるスネオみたいになってるじゃねーか!
「祐一はドラえもんを何か誤解しているんじゃないかな……」
「む、確かに結構厚手なんだなこれ」
「でしょでしょ?」
「だがそれで上半身はカバーできても、下半身はどうにもならないだろ」
 つかなんでこの制服はこんなに非現実的なほどスカート丈が短いんだ? ありえないだろ、デザインしたヤツなに考えてんだよ。もう本当にありがとうございます。
「まあねえ、それはまあ仕方ないよ、女子の嗜みってやつ?」
 マジかよ、女子ぱねえな。俺、男に生まれてよかったぜ。
「あ、でも大丈夫、今日は毛糸のぱんつ穿いているから」
「……お前それは女子としていいのか、何か思うところは無いのか」
 つか隠居したお婆ちゃんかよ、女子力低すぎだろ、女子の嗜みとやらはどこ行ったんだよ。
「あの子はもう死んだ」
「死んだのかよ。つうかかお前、いつまでくっついてんだよ、歩き辛いんだよ」
「うわ、なにそれ、祐一が寒い寒い言うから少しでも暖かくなるようにしてあげてるのに」
 やかましい離れろコラ、と、首筋に冷え切った手を当ててやる。
「きゃっ、冷たっ! あはは、やめて、やめてってば」
「おお暖かいぞこれ、お前あれだな、小動物並に体温高いな」
「冷たい、冷たいってば、あとくすぐったい、あはは、あははは!」
「朝っぱらから往来でイチャついてんじゃないわよこのバカッポーども」
 うおっヤベェ、美坂の姉御のお通りだ、登場と同時に道端にペッ、と唾をお吐きになられたぞ。ほらほらお前たち道を空けなさい空けなさい、さもないとカービンで蜂の巣にされますよ。
「おはよう相沢君、相変わらず脳が腐れてるわね。あんまりナメたこと抜かしてると泣いたり笑ったりできないようにするわよ」
「おはようございます美坂さんごめんなさい勘弁してください」
「おっはよー、香里」
「おはよう名雪、寒いわね今日も」
 おいおい実は俺、美坂さんに嫌われてるんじゃないですかね?
「出会いがしらでバカみたいなこと言ってるからよ」
 出会いがしらで道に唾を吐いたひとに言われてもなぁ……
「そういえば名雪、あなた今朝日直じゃなかったの?」
「……あ」
 どうやら綺麗さっぱり忘れていた模様。
 こいつこれでいてかなり忘れっぽいからな。まあ俺が言うなって話だが。
「どどどどうしよう、忘れてたよ!」
「今日は珍しく早いから、今から走ればなんとか間に合うんじゃない?」
「そ、そっか、そうだよね、じゃあごめんね祐一、香里、わたし先に行ってるから」
 俺も一緒に走れといわれるかと思ったが、どうやらそうではないようだ……って速っ! なんだあの加速、奥歯に加速装置でも仕込んでんのか。
「転ばないようにねー!」
 香里の声が届いたかどうか、もう角を曲がって見えなくなりやがった。どうやら俺と一緒に走ると全力が出せないから、足手まといとして置いていかれたというわけらしかった。
「まーいいけどな、ほら行こうぜ香里」
「不本意だけれど、まあいいわ、しばらく我慢してあげる」
 このアマ、俺と一緒に登校するのがそんなに嫌か。
「相沢君と一緒に登校したら、妊娠しそうじゃない?」
 人を色情魔みたいに言うんじゃねえよくそっ、どういう扱いなんだよ俺。
「そういや香里も下に毛糸のぱんつ穿いてるのか?」
「……ノータイムでセクハラとは恐れ入ったわ、あたしはまだまだ相沢祐一を甘く見ていたようね」
 しまった、ふと思ったことをそのまま口に出しちまった。寒さで脳がうまく働いてねえ。
「違うんだ、これは誤解だ」
「誤解も何もないわよね、いきなり下着の色を聞いたわよねいま」
「微妙に捏造するな、色なんて聞いてない。俺がさっき聞いたのはあくまで下着の有無であって色じゃない」
「なお悪いわ!」
 さすがは美坂の姐御や、ボケだけでなくツッコミまで的確にこなしはる。
「はぁ、まあいいわ、どうせ名雪でしょ? あの子この時期はいつだってあれ穿いてるものね」
 さらりと語られる衝撃の事実。マジかよ知らなかった。
「でもそんなの穿いてるところ、一度も見たこと……」
 しまったこれは罠だ。香里のやろうすげぇニヤニヤして俺のこと見てやがる。
「そりゃ『そのとき』はちゃんと可愛いの穿くでしょうよ、はあやれやれ、独り身には酷な話よね」
 くっそ、俺がそういう話ニガテなの知っててあえて突っ込んできやがって、嫌がらせの天才だなこの女。
「まぁ、名雪がいつも毛糸のあれ穿いてるのは本当よ、あの子運動やってて代謝高いくせして寒がりなのよね」
「あれでか、なんつーかこっちの人の言う寒がりってのは俺とはレベルが違うな」
「何がこっちの人、よ、相沢君だってもう十分に『こっちの人』じゃないの」
「……そ、そうか」
「うん? なに赤くなってるの?」
「い、いや、別に何でも」
 くそ、さらっとさも当たり前のように言いやがって。
こいつ転校とかしたこと無いんだろうな、ちょっと嬉しいとか思っちまったじゃねえかクソ。
「そ、そう言えば、栞は元気か?」
「ああ? なにあんた栞に手ぇ出したら割れたグラス噛ましてぶん殴るわよ」
 やべぇ、照れ隠しに振った話題が見事に地雷だった。というか恫喝が具体的過ぎて怖ぇ。
どんだけ過保護なんだよ、いい加減にしろよこのシスコン姉ちゃん。
「バカ、そんなんじゃねーよ、ここんとこ寒いから、身体大丈夫かって聞いてんだよ」
「ふん、まあいいわ。そうね、あの子は名雪と違って寒いの強いから平気よ」
「そうか、ならいんだけどな。せっかく身体よくなったんだ、風邪なんかひいちゃつまらんからな」
「ふふ、そうね。相沢君が心配してたって伝えておくわ」
 香里の妹の栞は、少し前に大きな手術をした。
 どのような病気だったのかまでは知らない、だが命にかかわるものだったのだと、手術後に香里から聞いた。手術自体も失敗する可能性のあるものだったらしく、当時の香里は学校でも精神的にかなり不安定だったのだが、すべてを聞いたのは手術が無事終わってからのことだった。
「何かあったらちゃんと話すわよ、もう名雪に引っ叩かれたくないもの」
 楽しげに話す内容じゃないだろう、と思いつつも、なんとなくその心情は解る気がした。
 すべてが終わって香里が俺たちに妹の事情を説明したとき、名雪は問答無用で香里の頬を引っ叩いたのだ。
 どうして話してくれなかったのかと。わたしは香里の友達でしょう、と、泣きじゃなくりながら。
 叩かれた香里もすぐに泣き出した。ごめん、ごめんね名雪、あたしが間違ってた、ごめんね、と。
 別段どちらに嫉妬したというわけでもなかったのだけれど、俺はそんな二人を見てひどく羨ましいと思ったのをよく覚えている。こんな風にぶん殴ってまで叱ってくれたり、それに対して素直にごめんなさいと言えるような友達は、そうそう持てるもんじゃないからだ。
 とにかく、そんなことがあってから、香里は名雪に対して隠し事をしないようになった。俺に対してそうしてくれているのも、俺が名雪の友人だからだろう。
「栞ったら、まだダメだと言っているのに早く学校に行きたいって聞かないのよ、今朝だって――」
 まあ、今まで抑えていた分、シスコンっぷりがヤバイことになってるんだけどな。
 結局そのまま学校に着くまで、俺は香里の妹惚気を聞かされ続けたのだった。



「あー、終わった終わった、おい北川、学食行こうぜ」
 四時限の授業が終わり、いい加減空きっ腹が限界だった俺は後ろの席の北川にそう声をかける。
 先日席替えをしてから、こいつが俺の後ろだ。名雪のやつは少し離れた席になり、香里もまた少し離れた席だ。
「聞いてくれ相沢、俺はお前を見込んで折り入って相談したいことがあるんだ」
「なんだ、金なら貸さないぞ」
「……えー」
「本当に金の無心だったのかよ! どんだけステレオタイプなんだよお前」
「仕方ないだろう、金無いんだから」
「なんでそんなに金無いんだよ、親から昼飯代もらってないのか?」
「月初めにまとめてもらって、すべて使い切った」
「どうしようもねぇなお前」
 ここまで同情の余地がないのも珍しい。無計画にもほどがあんだろ。
「というか今月まだ二十日じゃねぇか、あと十日どうすんだよ」
「どうしよう?」
 知らねえよ、俺に聞くな。
「いったい何に使ったんだ?」
「ケッコン資金」
「……は?」
「だからケッコン資金」
 ……いったいぜんたい、何を言っているんだろうかコイツは、童貞こじらせて脳がやられてしまったんだろうか。
「どどどどど童貞ちゃうわ!」
「ドモりすぎだろ、だいたい何だよケッコン資金て、結婚どころか彼女もいないくせに」
「くくく、叢雲さんから長門まで、よりどりみどりだぜ!」
「……まぁあえて突っ込むまい。で、いくら使ったんだ?」
「一万九千八百円」
「お前バカだろ」
「もうすぐ潜水艦二セット目が九九なんだよなぁ、どうするかな」
「OK、お前もう喋るな」
 まったく、どんだけハマってんだよ。
「まぁそういうわけで……お願いしますお金貸してくださいぃっ!」
 なんという見事なジャンピング土下座。誇りでメシが食えるんですかねえ、と言わんばかり。
「わかったわかった、貸してやるからそんな真似するなよ北川。俺たち、友達だろ?」
「土下座する俺の頭を踏みつけながら言う台詞じゃないですよねそれ!」
 やべぇ靴底から伝わる感触がなんか癖になりそうだ。
「いつまで踏んでんだキサマー!」
「貸すの一万でいいか?」
「ポチとお呼びくださいご主人様」
「……なにやってんのよあんたら……」
 香里がドン引きしながら声をかけてきた、いつもの面子で学食に行こうというのだろう。
「こいつが組の金に手ぇ付けやがったんでさぁ! でも安心してくだせぇ、姉御の代わりにきっちり俺がシメておきやしたかr(カクン)」
「馬鹿なことばっかり言ってんじゃないわよ」
「すげぇ、顎先に右フック一閃だ、相沢がまるで糸の切れたマリオネットのようじゃないか」
「解説しながら祐一の懐の財布をまさぐる北川君も大概だよね……」
「ふぅ、付き合いきれないわ、学食に行きましょう名雪」
「おい待ってくれ、俺も行くって」
「じゃあ早くしなさいな、相変わらず北川君は愚図ね」
「あひぃ、もっと罵ってくれ」
「北川君その恍惚の表情ちょっとキモい……」
 結局、俺が眼を覚ましたのは昼休みが終わり、五時限目の最中だった。
 ちくしょう、昼飯食い損ねた。というか教室のど真ん中でひと一人倒れているのに普通に授業始めてんじゃねーよ、どうなってんだようちの学校。



「貸した金ちゃんと返せよ?」
 放課後、北川に念のため釘を刺しておく。まぁこいつはこれでいて意外と律儀なやつなので、実はあまり心配してないんだけどな。
「おう、月末にバイト代入るから、そしたら返すよ」
「何だお前、バイトしてんのかよ」
 うちの学校はちゃんと許可とればバイトも自由だ。割と自由な校風なところが俺の肌に合ってる。ここに来る前に通ってたところは、厳しかったからなぁ。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「初耳だよ、何のバイトだ?」
「駅前のピザ屋の配達」
「あー、そういやお前、原付の免許持ってるもんな」
 免許もそうだしバイトにしても、北川は何気にかなりバイタリティあるんだよな、部活でもやりゃいいのにとも思うが、それはまあ人のこと言えた義理じゃないか。
「そういや相沢は小遣いとかどうしてんだ? ご両親いま海外だろ?」
 そう、うちの両親はいま海外にいる、ストックホルムだったか。
「食費とかと一緒に秋子さん宛に毎月振り込んでるらしい、だから小遣いは秋子さんからもらってるよ」
「へえ、いいな、秋子さん優しそうだから、お願いすれば追加でくれたりするんじゃないか?」
「ふふ、ふふふふ、北川君それは甘い考えだよ」
 いつから話を聞いていたのか、いつの間にか名雪が傍に来て話に加わってきた。
「お母さんあれでお金にはすごい厳しいんだよ」
「えっ、そうなの? 意外だな」
「この間なんて、お小遣いの前借りをお願いしたら、にっこり笑って断られたよ」
「ははは、なんかそれは秋子さんらしいかも」
「笑い事じゃないよ、祐一にお願いしても貸してくれないしさ」
 ふてくされたように唇を突き出して名雪。北川君には貸してもわたしには貸してくれないんだね、と拗ねている。
「そうは言ってもなぁ、秋子さんから言われてんだよ、名雪には貸したらダメだって」
「えっ、そうなの?」
「今からちゃんとお金の使い方を学んでおかないと、大人になったら苦労するからだってさ」
「ははは、水瀬さん諦めなよ、正論だよそれ」
「むー」
「だいたいお前、毎日部活してて金なんて使う暇ないだろ、何に使ってんだよ」
「え? 山城さんとか阿賀野ちゃんとか」
「OKわかったお前ももう口を開くな」
 どうも最近、夜は部屋に篭りがちだと思ったら……北川だけじゃなくお前も提督だったのかよ。
「つーか確かアレって十八歳未満はプレイ禁止じゃないかったか?」
 俺の何気の無い一言に、名雪と北川の動きがぴたりと止まる。
 そしてそのまま、ぎぎぎぎと首だけこちらに向ける。すげぇ怖いんだけど。
「ははははは何をいっているんだ相沢、俺たちは全員十八歳以上です」
「あははははそうだよ祐一、わたしも、祐一も、北川君も香里も、全員十八歳以上です」
 ……そうだったのか。
「栞ちゃんも、あゆちゃんも、真琴も、美汐ちゃんも、全員十八歳以上です」
「おいちょっと待て、あゆや真琴はともかく、栞と美汐は一年生だろ」
「一年生だろうと二年生だろうと、全員十八歳以上なの!」
「どうなってんだよこの高校……」
「オラァ!」
「げふっ!」
 え、なんでいきなり殴られてんの俺。
「学園」
「は? 何だって?」
「祐一、この学校は高校じゃなくて学園だから」
 そ、そうだったのか、知らなかった……
「学園だから何の問題もありません。一年生だろうと二年生だろうと、この作品の登場人物は全員十八歳以上です。いいね?」
「ア、ハイ」
「相変わらず馬鹿な話ばかりしてるんじゃないの、ほら名雪、そろそろ部活行かなくていいの?」
 またお前らかよ的な溜息と共に、かばんを持って歩み寄ってきた香里がそう名雪に注意を促す。
「あ、いっけない、じゃあわたし行くね」
「はい、頑張ってね」
「また明日なー。じゃあ俺もそろそろバイト行くか」
「事故るんじゃないわよ」
「お、美坂に心配されるとは」
「別に心配なんてしてないわ、汚いものをぶちまけて道を汚すなって言ってんの」
「あひぃ」
 なんであいつはいつも罵られて恍惚の表情なんだ?
「香里はどうするんだ、何なら一緒に帰るか?」
「相沢君と? ふん、お断りね反吐が出るわ」
 うわ、こいつちょっと勇気出してクラスメイトの女子を誘った男子に対してなんという酷い仕打ち。俺じゃなかったら泣きながら走り去っているところだぞ。というかなんだよ反吐って、そこまで嫌なのかよ。
「と言いたいところだけど、まあいいわ、仕方が無いから一緒に帰ってあげる。あたしちょっと寄るところがあるから付き合いなさいよ」
 なんという女王様発言。俺は香里が蝶を意匠したアイマスクと際どいボンデージ姿で鞭を持ち、ピンヒールで北川を踏みつけている姿を想像して、そのあまりの似合いっぷりに戦慄を覚えた。
「妄想でひとを汚すのはやめてちょうだい、ほら行くわよ」
 そう言ってさっさと教室を出て行く香里を慌てて追いかける。
「寄るところって、どこに行くんだ?」
「商店街で栞と待ち合わせてるのよ」
「栞、もう出歩いて大丈夫なのか?」
「まあね、自宅療養中ではあるけれど、お医者様にはリハビリも兼ねて少し出歩いた方がいいって言われているから」
「そうか」
 昇降口で靴を履き替え、校門に向かう。
「でも俺が一緒に行ってもいいのか?」
「……ふん、栞から今日はあんたを連れてくるように言われているのよ」
 いやそんな悔しそうに言わんでも。どうやら俺がいるのが面白くないらしい。というかどんだけシスコンなんだよ。
「勘違いしないでちょうだい、別に相沢君がいるのが嫌なわけじゃないわ」
 ふん? 香里が俺のフォローなんて珍しいな、と思ったが、楽しげに笑っているところを見るとどうやら単なるフォローというわけではないらしい。
 そしてそのまま本当に楽しそうな笑顔で、香里は言うのだ。
「栞に手ぇ出したら、脚の先から寸刻みにして海に撒くから」
 すっげぇいい笑顔やでこの姉ちゃん。冗談言ってる顔ちゃうで。



## なんか名雪本というより、香里本という趣であるような気が……