『息もできない』は2010年観たなかの最高傑作 | 早大生のポイント映画感想文

『息もできない』は2010年観たなかの最高傑作






いままでは『アバター』が1位だったのですが、韓国のバイオレンス映画『息もできない』を1位に勝手にしました。これはもう5000円払っても観るべき映画です。

『アバター』は初見はTOHOシネマズ六本木、2回目はシネマサンシャイン池袋と2度見たのですが、3Dはスクリーンの大きさがすべてだという結論に至りました。IMAXとかの形式以前に、結局はデカさだろうと。サンシャインのしょぼさったらありゃしませんでした…

さて、『息もできない』はヤン・イクチュンという人が一人で監督やら主演やら製作やらを塚本晋也ばりに様々こなして作った力作です。

ストーリはというと、深刻な家庭問題を抱え常に暴力と隣り合わせで生きる男女、借金取り立て屋のサンフンと女子高生ヨニが、ひょんなことから出逢い心を通わせていく(性的な意味は一切ないよ)というものです。

なぜ『息もできない』がこんなにも良かったのかはこれだと思います。



→ 観客だけが知る2人の闇

取り立て屋のサンフンと女子高生ヨニには共通するのは、現在進行形の家庭問題と暴力にまみれた生活です。

(サンフンは、母と妹を死なせ刑務所に行っていた父と暮らしています。職業は、殴るや蹴るの借金取り立てやです。ヨニは、ベトナム戦争で完全に精神を病んだ父と金をせびり続けるダメな弟と暮らしています。母親は殺されていません。)

話の流れとしては2人の交流がメインで、サイドストーリー的にサンフンとヨニのそれぞれの家庭問題とそれぞれの生活も映し出され、サイドストーリーを通じて観客は2人の家族について知ります。

そして、ここがこの映画のすごいところなんですが、2人はそれぞれの家庭問題と暴力まみれの生活についてお互いに一切しゃべりません。それなのにも関わらず、2人でいるときだけ共感のような感情を以って接し、笑顔を見せ涙を流すのです。お互いに深い闇を抱えているのを知っているのは唯一私たち観客だけなのです。

2人が心を通わせ合えるようになった要因は、お互いが無意識的な直感で共通項(暴力)を見抜いたからなのでしょうか!?

いずれにしても、

①2人の関係はとてつもなく深く、そして特殊なもの(形容しがたい!)
②唯一心を許す相手にすら言えないほど、2人の家庭問題は彼らにとって深刻なもの


ということがひしひし伝わりました。


私たち観客は、2人の闇を知りつつ、互いにそのことを知らずに打ちとけあっていく2人の暴力まみれの人生を観賞するわけです……。



この映画に映し出される家族と暴力は、ヤン・イクチュン監督曰く、決して映画の中だけのことでは無いとのことです。現実におこっている韓国の闇の側面とのことです。だから観客は、スクリーンに映し出される圧倒的暴力に眼をそらしてはいけないと思うんです