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航海日誌・編集後記

工房「羅針盤」の機関紙、「航海日誌」の編集後記です。

 お酒がとても弱くなりました。といっても飲めなくなったわけではない。飲んでいるときは美味しいし、身の程をわきまえて楽しんでいるつもりだが、翌日の二日酔いが辛い。体全体がだるく、やる気がなくなる。だから最近は、休日の前日にしか飲まないようにしている。若い時は自分の酒量がわからず、時々飲みすぎて酩酊することもあったが、それでも翌日に引きずることはなかった。だんだん人生が寂しくなってくる。

 人間は、昔は簡単に出来たことが出来なくなったとき自信を失う。私の場合、お酒以外にも新聞の活字が読みにくくなった、音が聞こえづらくなった、去年の服が着られなくなった、とうとう走れなくなったなど、挙げればきりがない。しかし、逆に昔はできなかったことが、今ではできるようになったこともある。

 あれは忘れもしない高校受験を間近に控えた中学三年生の冬のこと。級友が事故で入院したため、クラスのみんなで千羽鶴をつくることになった。生徒一人ひとりに数枚の折り紙が配られ、放課後、全員で折ることになった。私は折り方を知らなかったので先生に聞くと、「そんなことも知らないなんて、今まで何の勉強をしていた。このままでは高校へは行けない」と叱られた。私には衝撃だった。鶴の折り方を知らないことが、そんなに悪いことかとずっと疑問に思っていた。

 しかし、後になって先生の言いたかったことが理解できた。それは、怪我で苦しんでいる級友を思いやる心が大切で、そのためには鶴の折り方くらいは覚えておきなさい、世の中には知らなかったでは通らないことが山ほどあるということを、卒業を控えた生徒に伝えたかったに違いない。さてその千羽鶴、最近ではかさ張るなどの理由で貰うこと自体迷惑と感じる人が増えていて、そのため贈る人も少ないとか。鶴がいない世の中、空しすぎます。(山)