俺が最初に読んだ乙一の小説は、今でも思い出せない。
GOTHだった気もするし、天帝妖狐だった気もする。勿論、それ以外だった気がする
これほどまでに面白い乙一の小説を、何故忘れてしまったのか、答えは簡単だ。
乙一の小説は、『読んだ時の衝撃と臨場感、良い意味で裏切られるオチ』これのおかげで前に読んだ小説を忘れさせるのだ。
読後の感動に浸る頃には、前の小説の印象を忘れさせ、もう一度、前の小説を読み、そして、それを延々と繰り返しているというわけであり、決して、俺に記憶力がないとうわけではない。いや、もう、これは断じてそういうわけではないのである。
分かる人には分かるだろうが、これは、『失踪HOLIDAY』の中にある、特徴的な文だ。
ところで、角川スニーカー文庫の『失踪HOLIDAY』には、『幸せは子猫のかたち』が収録されてある、これは、いわば、『白乙一』の象徴的な作品と言っていいだろう。
ならば、『黒乙一』の象徴的な作品とは、何だろうか。俺が思うに、『暗黒童話』がそれに相当するだろう。
さて、『黒乙一』と『白乙一』、どちらにも属す小説が乙一作品の中には存在する。これは、あくまで、俺の見解なのだが、その作品とは、『天帝妖狐』だ。
ほとんどの人が、この作品は『黒乙一』に属すと思うのだろうか?
しかし、俺は違う。確かに、『天帝妖狐』には、残酷な描写がなされている。だが、その本質は、主人公の自分への恐怖と、優しさをくれたヒロインの少女への、悲愛を語っているんじゃないだろうか。
……書いてみて、気がついたが、悲愛は言いすぎだ。つまりは、切ない『白乙一』と残酷な『黒乙一』その二つを兼ね備えた、作品jが、『天帝妖狐』なのである。
俺の乙一に関する考えも、ここらへんで終わりにしようと思う。それでは。