脚本・演出と在原業平役の千野です。
この度もご声援と様々な形でのお力添えをありがとうございました。
20周年記念公演。まさかの在原業平生誕1200年。
それじゃあ『伊勢物語』でいくしかないということで、シリーズ4本目でした。
最初に二条后章段(かすがの)を扱い、次に斎宮章段(ゆめかうつつか)をやったあたりから、
「いつか惟喬親王章段もやる」
ということは言っていました。「ゆめかうつつか」に惟喬親王出しちゃってるし。
それなのに……今回、脚本を書くのがとても大変でした。
ここ最近、八犬伝に代表される「原作そのまんま書けば成立しちゃう」系の作品ばっかりやっていたので、オリジナル部分多めで構成しなきゃならないのが久しぶりだったというのもあります。
でも何はともあれ、「いかに惟喬親王を出家させるか」に悩まされました。
史料上、「病のため」とはあるのですが、その後それなりに長生きしているし、何よりそれじゃお話が盛り上がらない。
さてどうしよう。諸資料から分かる惟喬親王が出家する前の数年の出来事をにらみ続け、
・業平が渤海使の対応にあたっている
・藤原順子(五条后)が崩御している
・藤原良房も惟喬の出家の数か月後に亡くなっている
あたりを使えないかなぁなんて考え始めているところに、
・ちょっと前に藤原明子(染殿后)の四十賀があった
ことに気づいて、
「明子といえば、なんか怖い話あったな!!それ使っちまえ!!」
と、なったわけでした。
明子の話とくっつけることを思いつかなかったら詰んでました。ほんとに。
大筋はそんな感じでしたが、今回はかなり細かくいろんなところに『伊勢物語』の要素を散りばめています。
参考までに、使った『伊勢物語』の章段を挙げておきますね。
4,6,16,19,23,65,67,68,79,82,83,84,85,106
メインで使ったものからこっそり紛れ込ませたものまであります。
是非是非、『伊勢物語』片手に確認してみてください。
さて、役者としては、4回目の業平(『花にあらず』の「男」も含めれば6回目)。慣れたもんです。
今回はシリーズのなかで一番後ろの年代になるので、リアルな年齢はだいぶおじさんなのですが、そのあたりはあまり意識せず、これまでよりちょっとだけ大人、ぐらいのつもりでやりました。
演出もやっているので、なかなか稽古の時は役者に集中できないものですが、そんななかでも今回は役者として結構楽しんじゃいました。
だって惟喬親王との喧嘩が楽しいからね!
ほんと、毎回、「今日もバチバチしたぞ~!!」と大満足で帰宅し、本番を楽しみにしていました。
そしてそのまま飽きることなく本番も毎回新鮮な気持ちでやりあえました。最高。
ただしラストの仲直りはむず痒すぎて、ちゃんと固まったのは本番直前だったと思います。ごめんね。
あとは感情爆発の高子様とのやりとりも楽しく、やっぱ好きだなぁと心底思わせてもらえました。
基経を挑発するのもうきうきするし、常子に叱られるのも好き。
自分のことばかり述べてしまいましたが、90分弱の短い作品でしたが、今回はみんな「セリフの掛け合いで勝負!」という意識をしっかり持って、それぞれの役割をきっちりこなしてくれました。これが20年のチームワークというもの。
スタッフさんのお仕事は言わずもがなの素晴らしさ。
前回の『紫式部の日記』が「鏡の国の寝殿造」ならば、今回は「凍れる邸で春を待つ」とでも言いましょうか。
積もる白い雪の世界に、照明がバチっとハマって桜を幻視させる。
そこに音響と衣装も美しくかみ合って、私の書いたもの以上の世界が立ち上がっていました。嬉しい……。
『伊勢物語』に関しては、もうやりたい章段はやり尽くしました。
だから、たぶん今回で最後です。
パンフにも書きましたが、在原業平という男に導かれ、救われて今があるようなものです。
それでも、そろそろ、業平なしで走る時が来たみたいです。
信乃くんじゃないけど、「それじゃ、さようなら」かな。
……とかそんなこと言って、軽率に再演とかしだしたら笑ってやってください。
さて、次回は、いつかやりたいと思いつつもためらっていた『うつほ物語』についに手を出します。
また劇場でお会いできたらうれしいです。
2025.10.26 千野裕子


