【御来光】

ようやっと目を覚ます。

時刻は4時半。

気分的には7時くらいかな。
おろ?既に回りには誰もいない。
皆さん早いのねぇ。

表に出ると‥うっ寒い…。大体11月ぐらいの陽気だろうか。
アンダータイツを履いて丁度いい。

お、青空が広がっている。目下には夕べから並々と広がる雲海。


ここはなんてところだろう。

孫御空がキントン雲にのって横切っても違和感ないなぁ。

やがて雲海の東の果てがオレンジ色に輝き出す。

おぉ、おおおっ。日の出だぁ。

やはり朝日を浴びると心が洗われる思いだねぇ。
こう内側から力がみなぎってくるようだよ。

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――っ!」って叫びたい感じ。

振り替えれば山頂もくっきりと見える。

さて行くぞっ!


【8合目から山頂へ】

朝ご飯は、オニギリ3個に漬物。

あんまり食欲ないかなと思い気や、モリモリ食える。
へぇー、不思議なもんだな。
7時間もがっちり寝てるからな。

5時半に山小屋を出発する。
水の補給をしてくれるという話だったが、しなかった。
山頂までいって下山するのに2Lは要らないだろう。

中には荷物を預けていく人もいる。なるへそ。

さて朝日を背に受け、力強く…
んー、いきなり急勾配だなぁ。
なんとか登り出す。

植物限界を越えているため、行く先ははっきり見渡せる。
雲がかからない限り視界を遮るものは何もない。
山頂に向かう人々と下山する人々の列が見える。
9合目くらいから連なっている。

おおお、富士山は一大観光地であることを再認識する。
それもこんなにしんどいのに人が押し寄せるというのは、もう信仰である、宗教である。

一歩一歩が確実に標高を稼いでいく。
少し歩いては登り、登りが一段落すると緩やかな道が続くといったハイキングやトレッキング感覚は全くなく、
山頂までタダタダ自分の身体を運び上げる作業となる。

リズミカルに歩ける道はもうない。

8号目になると酸欠気味の人がちらほら出てくる。

ここより浅間神社境内とある。

でけー境内である。

8合半、9合目に鳥居が立っている。ほとんど真上に見える。

標高は3400mを示している。あと300m。

もはや回りの景色は関係なくなっている。

前の人の足、それもかかとだけをみている。
ふと白い木が目に入る。お、9合目の鳥居か。
でも何にも書いてない。
実は8.5合とか言うなよ?!

あとはもうゆっくりゆっくり。
2、3歩で心臓はバクバク。
汗は全くかかない。むしろ涼しいくらいだ。

向き合う獅子「あ・うん」の間を通り、山頂に到達っ!!

やりました、やりましたよ

おかーしゃーんっ!!!

いやー長かった苦節31年。

やっと、やっと日本一の山富士山を征服しましたヨオおおおおっ!

(これが冒頭の写真だ)


【西瓜割り】

いやあ、日本一の山頂だけあって一番栄えている山頂だった。

海の家のように売店が並ぶ。
記念写真をとり、山頂の焼き印を300円で入れてもらい、浅間神社にお参り。

若手くんがおもむろにザックから西瓜を取り出し無造作に脇におく。


道行く人が必ず目を止める。
一様に「なんで西瓜が?」

流石にジュースやビール、お土産品が山頂の売店に並んでいても、やはり西瓜の放つ存在感は大きいものがあった。

売店のオヤジがいう。
「おれが500円で買ってやる。そうすればゴミも処分してやる、どうだ?」

馬鹿。それじゃ原価割れだっつーの。
ジュースが500円、地上の4倍なんだから、ここぢゃこの西瓜8000円だぞ?!。

「4人じゃ食い切れないだろ、え?」

あー、しつこいな。4人で食うわけねーだろ。
割るんだよ、割るの。西瓜割りやんの。

そういうオヤジはメロンを食っていた。

BGMにチューブがかかっている。
いったいここはどこだ?九十九里か?
青い空に西瓜にチューブ。
バックには海…いや雲海。

しかし、20分もすると冷えてきた。3700mはやはり寒い。
雲もかかってきた。

おいしそうに見えた西瓜が、だんだん寒々しくみえてくる。

いざ西瓜割りをしようと記念撮影を終えた労働組合のみなさん(100人以上いたらしい)に呼びかけるが、
雨まで降ってきたせいで、みんな散り散りに。


おお、3700mでの雨中西瓜割り。

前代未門だ。

馬鹿だ。

幹事組合の静岡の野口五郎に目隠しをする。

5合目から携えてきた焼き印の押されている杖が、見事に西瓜を直撃。


世にも罰当たりな瞬間である。