けいパパのブログ 短腸症候群×胆道閉鎖症の愛息子を支える家族の生体肝移植奮闘記

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短腸症候群×胆道閉鎖症の愛息子を支える家族の生体肝移植奮闘記

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この日から息子は点滴と並行して口からの栄養摂取がスタートした。

短腸症候群の影響で口から摂った栄養を消化・吸収する力が元々弱い息子は、移植前から母乳とエレンタールPの両方を飲んでいたので、今回もエレンタールPからのスタートとなる。

最初は30ml×4回/日からスタートする予定だったが、大声で泣き散らす息子の全力抗議の甲斐あって、早速30ml×6回/日に増量してもらうことに。頼もしい奴。

足りないながらも少しお腹が満ちたからであろうか。この日息子は移植後初めて笑顔を見せてくれた。この笑顔に私たちがどれほど救われただろうか。お腹を大きく切り開いてから一週間も経たないのに、仰向けの状態から両足を大きく上げて笑顔を見せてくれる息子の勇敢な姿勢と強い生命力に、私たちは今一度奮い立たされる思いであった。

心配された真菌感染についても、この日の尿検査の結果が陰性になった。未だ血液検査の結果ではβDグルカンは高いままとのことだが、感染が収まりつつあることが期待される。このまま落ち着いてくれるといいのだが。


妻と共に面会に訪れると、息子が氷枕をして寝ていた。どうやら37.0~38.5℃の発熱があるらしい。真菌への感染を表すβDグルカンの値はこの日も高いままで、真菌感染が原因の発熱と思われた。

この頃購入した肝移植に関する本(「こどもの肝移植~『いのち』を救うタイミング~」著・笠原群生)の中に、真菌感染に関して以下のような記載があった。

Quote

「術後肝機能不良例・血液濾過透析患者・長期抗生物質使用患者では、真菌感染症が起こりやすく、死亡率は実に70%に達する。このような症例では抗真菌薬を予防投与する。」

「アスペルギルス、クリプトコッカスによる真菌症は稀であるが、発症したら予後は極めて不良である。」

Unquote

「βDグルカンの値が上がった」からと言って即「真菌感染症である」というわけではないみたいだが、現状の恐ろしさを改めて感じさせるには十分な記載である。

一刻も早く真菌の魔の手を退けることができることを切に祈る他ない。
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この日、妻のもとを訪ねてみると、昨日まであった点滴が全て抜けていた。これで残すはお腹から出ているドレーン一本のみである。このドレーンは、妻のお腹の中で胆汁が漏れていたり、出血していたりしないかを知るための大切なものである。抜けるのはもう少し先だろうか。

ずいぶんと身軽になった妻は、私が面会に来る前に、病院の入口にあるスタバに行って、そそくさとドリンクを買って帰って来た模様。そこまで回復しているのはとっても喜ばしいことだが、問題は昨日に引き続き満腹感。ショートサイズ(240ml?)のドリンクの1/4程を口にしただけでお腹一杯になってしまう。

身体の運動と違って食事はスパルタで食いまくればいいというものではないのもまた難しい。点滴が抜けた今、妻は食事を通して栄養を摂らなくてはいけないのに、それが想うようにできないもどかしさがある。
この日、妻が感じる痛みのレベルは前日より落ち着いてきた模様。苦悶の表情を浮かべながらではあるが、何とか自力で起き上がり、お手洗いに歩いて行っていた。

印象的だったのは、一度お手洗いに歩いて行っただけで、妻がとてつもない疲労感に襲われている様子であったこと。スマホを見ているだけでも相当に疲れるらしく、メールを打つなんて以ての外とのこと。

多くのドナー経験者も術後の症状として”疲労感”を挙げているので、これについては長い目で見て付き合っていく必要があるのだろう。肝臓の大きさがおよそ元通りになる(形は元通りにならない)2~3ヶ月後には良くなるだろうか。

もう一つ気になったのは、妻が少しでも食事を胃に入れるとすぐに満腹感を感じることである。術後、病院では流動食が出され、少しずつ量が増えていくが、出された量の1/4も食べられない状態が続く。なんでも、すぐに胃に空気が溜まってしまう上に、胃に物を入れると臓器同士(胃と肝臓?)が接触する様な感覚があり、非常に気持ちが悪いのだそう。こちらも少しずつ回復することを祈る。


この日の早朝、妻は、かねてより煩わしがっていた尿管を抜いてもらえるよう医師とネゴったらしい。ネゴは成功し、尿管は無事に抜いてもらえたのだが、同時に硬膜外注射も抜かれてしまったのが問題である。

硬膜外注射を抜いて、麻酔が徐々に身体から抜けてくると、妻の顔色がみるみる悪くなっていき、妻が感じる痛みも
それに伴って極めて激しくなっていった。

起き上がっても、仰向けになっても、横向きになっても痛みは和らがない様子で、私に背中を擦られながら何とか時を過ごすのが精一杯であった。

あまりの痛みに耐えかねて看護師に痛み止めをお願いし、点滴から注入してもらって、ようやく少し落ち着いて眠れるようになったようであった。

手術時の興奮と緊張が解けてきたからだろう。手術直後に比べ、妻の目に宿る力が弱っている様に感じる。帝王切開の後はピンピンしていた妻であるだけに、やはり生体肝移植のドナーになることは並大抵の負担ではないことを改めて感じさせられる。
この日は初めて妻と一緒に息子の面会に臨んだ。

息子を見て最初に驚いたのは人工呼吸器が外されていることだった。なんでも、息子は自力で力強く呼吸ができていたため、予定よりも早く人工呼吸器を外すことになったのだそう。人工呼吸器が付いている間、
元気が良すぎて、大泣きした際に余計な空気を吸い込んでしまったため、お腹がガスで膨れているとの笑い話もあった。

そんなお腹はタオルで覆われており、直に見ることはできないが、手術前と比べてぺちゃんこになっていることは一目瞭然である。こうして溜まっていた腹水が抜けてみると、如何に沢山の腹水が溜まっていたのかを改めて痛感させられる。

また、息子の目を覗き込むと、手術前は黄色かった白目が真っ白になっている。具体的な数字は聞かなかったが、手術前は20.0を超えている日もあった総Bilが、肝機能の回復によって低下したものと思われる。こうした変化を見ると、
今回の移植によって、息子をこれまでの苦しみから少しは解放できているのかもしれない、と少し励まされた気持ちになる。

しかし、いいニュースばかりは続かない。

どうやら血液検査の結果、真菌(カビ)感染を示すβDグルカンが高いことが判明したらしい。真菌感染は移植後に気をつけなくてはならない合併症の一つであり、一歩間違うと命を持って行かれる恐れもある。

とりあえずは、βDグルカン高値の原因となっている真菌の種類を特定する必要がある。そのため、真菌の中でも最も注意が必要なサイトメガロウイルスとEBウイルスの検査をすることとなった。

同時に、真菌の温床となりうるチューブ類をなるべく抜き、様々な種類の真菌に対応可能な抗生剤を投与することでひとまずの対応をすることとなった。

「合併症に対して後手後手に回りたくない。常に先手先手を打っていきたい」とは息子の主治医の弁である。ここで打った先手が真菌に対して効いてくれるといいのだが。





一般病棟に移った妻はこの日、早くも歩行練習を始めていた。

「え、この人、一昨日の夜に肝臓摘出してるんですけど」と思ったが、起き上がったり、寝ている体勢を変えたり、歩き回ってみたりすることが術後の回復にとって非常に有益なんだそう。血栓もできにくいし、筋肉も落ちにくい、さらには痰もたまりにくいと良いこと尽くめな中、唯一良くないのは患者自身がえらくしんどいことである。

この日、妻はスパルタなリハビリを頑張っては、硬膜外注射の麻酔を打って眠るというサイクルで過ごした。ICUで硬膜外注射を使っていなかったのは、あまり痛みを感じていなかったからではなく、しんどすぎてそもそも硬膜外注射のボタンがどこにあるのか分からなかったかららしい。

硬膜外注射を打ち過ぎることは早期回復を目指す観点から望ましくないため、一定量以上使用できないようにロックがかかる上、前回の使用から一定時間以上が経過しないと再度使用することができないよう、自動でコントロールされている。

昨日より痛みがひどくなってきた妻は、ロックが解除されるや否や硬膜外注射を使い、またロックされるといった状態であった。


再手術を終えた息子の容体はひとまず落ち着いている様子。

これまでのところ出血は止まっている模様で容体も安定しているとのこと。

手術直後は面会が極めて制限されるので、息子の容体に関する情報も得にくい状況になる。

しかし、再手術をした際のように、容体が悪くなればすぐに連絡が飛んでくるので、便りがないのはいい知らせだと思われる。

明後日は15分間の面会が予定されているので、それまで音沙汰がないことを祈るのみ。
妻は早くもICUから一般病棟に移された。

生体肝移植手術はドナーにも大変な痛みを伴う。そのため、術後のドナーの背中には機械付きの麻酔針(硬膜外注射)が刺さっている。ドナーの枕元にはこの硬膜外注射と連動するボタンが置かれており、ドナーはこのボタンを押すことで痛み止めを身体に流し込むことができる。

しかし、妻はそれほど痛みを感じていない様子で、一般病棟に移るまで一度も硬膜外注射を使用しなかったらしい。ICUで妻を担当してくれた看護師はこのことに驚き、感激した様子で私に教えてくれた。そういえば妻は帝王切開で息子を生んだ時も「楽勝っ楽勝っ」と言って高笑いしていた。尋常ではなく痛みに強いのだろうか?

そんな妻であるが、当たり前のことながら、この日は丸一日ベッドに寝て過ごした。一般病棟に移り、手術が時間が経つにつれて感じる痛みが強くなってきたらしく、硬膜外注射を打っては眠るといった状態が続いた。



息子の再手術は期待以上に早く、そして無事に、完了した。

手術を終えたばかりの医師たちから息子の再手術の説明を受ける。

・昨日の移植手術に際して吻合した主要な血管(肝動脈・肝静脈・門脈)からの出血は確認されなかった
・肝静脈周辺に派生した細かい血管(肝硬変が進行すると肝臓周辺の血流が悪くなり、行き場をなくした血液が新しい血管を張り巡らせることがあるとのこと)からじわじわ出血していた
・細かい血管からの出血なので、全ての血管を吻合して出血を止めることはせずに(不可能かつ不必要)、止血に役立つシートをお腹の中に入れることで対応した

何とか最初のヤマは乗り切ったようであった。しかし、この先現れるであろう同様のヤマの数々を相手にすることの苦労の一端を、この時垣間見た気がした。

NICUにいる息子との面会時間は15分×4回/週と非常に限られており、この日は面会が予定されていない。医師からの説明を受け終えた私は、妻との面会まで時間を潰しに病院周辺の散策に出掛けた。この先、この周辺には大いにお世話になることだろう。