「日出る処の天子、書を、日没する処の天子に致す。恙(つつが)なきや」
昔、学校でこの手紙を習ったとき、その堂々たる態度に子供ながら感動したのを覚えています。これは、推古天皇野の摂政、聖徳太子が607年、遣隋使に託して中国の皇帝に出した国書と言われています。太陽の軌道になぞらえた書き出しもさることながら、大国に対等独立の気概がにじむことに子供ながら気づいたのだと思います。「昔の人は大きいなあ」と感じた記憶があります。
今、標題の漢詩「山川異域」に感動しています。「日出る・・・」より1世紀ほど後、天武天皇の孫、長屋王が中国にお坊さんの袈裟を贈ったとき、その袖に縫い付けた漢詩だそうです。
「山川異域 風月同天 寄諸仏子 共結来縁」
さんせんを ことにすれども ふうげつ てんをおなじにす
これをぶっしによす ともにらいえんをむすばん
長屋王が書いたものか側近の作か分からないようですが、何と稀有壮大で博愛の精神に富んでいることでしょうか。「風月同天・・・なるほどなあ。共に縁を結ぼうか!」。いにしえの人たちの国際スケールに驚きます。
この漢詩を読んだ鑑真(がんじん)和尚が心を打たれ、困難な航海で失明しながらも来日、奈良の唐招提寺を創建しました。
この漢詩が今、新型肺炎騒ぎの中、日中双方で話題を呼んでいます。
中国に贈る救援物資の箱に、「山川異域 風月同天」と書かれたことが中国の人たちの心を打ち、SNSを通じてわっと広がったのです。
住む場所は違っても、風月の営みは同じ天の下にいる私たち、お互いに支えあっていきたいと思います。