新生
山野楽器

 作曲家・新垣隆のアルバムがやっと出た。しかしメジャーではなく自主製作みたいなもんか。販売も山野楽器のみ。

 新作のピアノ協奏曲《新生》(2015)に中学校時代の作品ピアノ・ソナタをボーナストラックとしたもの。しかもピアノ協奏曲は20分弱。ピアノ・ソナタ1985が10分。承知の上、お買い求められよ。川畠成道が新垣隆の無伴奏ヴァイオリン・ソナタ《創造》を含む無伴奏曲集のCDを出しているが、新垣隆作品集じゃないからと買ってないのだが、このCDもそういう意味では中途半端。

 ピアノ低音のゴロゴロのうえで断片的なモティーフが奏され、管弦楽の楽器が少しずつはいってきてティンパニの打撃とともに主題らしきものに至る。まるでバルトークだが、そのあと旋律はすぐにロマン派的になる。その後の音楽は「佐村河内守」風。佐村河内守の名前で発表してきたのは確かに自分の作品だと宣言しているかのようだ。曲は暗いほうから明るいほうに向かう「新生」だというのだが、そういうタイトルの付け方なんかはそれこそ佐村河内守の影響じゃないかとも思う。

 新垣のように過去から現代の作曲技法に精通した作曲家にとって、ある特定の時代の技法に限定して作曲する必然性はないが、代作者として発注されれば、それが注文だからということで、後期ロマン派の作風で作曲する必然が生まれるとはピアニスト森下唯の指摘である。この「発注」によってはじめて、限定した技法で作品を作ることができるようになったといえる、ただし「佐村河内守」として。そしていま新垣隆は新垣隆としてこうした曲を書けるようになった。それは佐村河内守のおかげだろう。

 第2楽章の抒情なんかはこの人の人柄を偲ばせる美しいものだが、第3楽章の鳴りまくりのピアノなんかはピアニストとしての腕の高さが知れる。「現代音楽」じゃなくて、こういう路線で作曲を続けるのだろう。
 
 ピアノ・ソナタはヤマハ音楽教室で南聡に師事していた頃のロマン派風の語法の作品。南聡風だったりはせず、リストかシューマンか、ちょっとショパンが忍び込んでくるな、といったものだが、中学生が書いたのと感心するようなものである。

 折しも佐村河内守がいいたいことを語った映画『FAKE』が公開されるところがだが、新垣さんには「音楽という真実」でがんばって欲しいと思う。