「もしもし・・・麗子ですけど」
「あら、麗子ちゃん。ちょこっとお久しぶり。
どうしたの?」
「実は、あの就職のことで、
千賀子さんのお耳に入れたい情報がありまして。
役に立てばいいんですけど。。
田辺さんから、お伝え願えますか?」
百合子さんから伺った情報を早く伝えたくて
私は、急いで田辺さんに連絡した。
「もちろん!!
何かしら?」
「えと、千賀子さんは教職を目指していて
できれば、正社員の採用を望んでるんですよね?」
「そうよ~。でもこのご時世、ブランクのある者には
なかなか難しいのよね~」
「ちなみに、千賀子さんは幼稚園に何年お勤めでしたか?」
「丸三年よ。」
「良かった~。じゃあ、大丈夫です。
実は2004年の6月に教育職員免許法施行規則の一部を改正する省令が
公布されて、教育職員免許法の6条に別表8というものが追加されたんです。
その内容が、普通免許状所持者が、その3年以上の勤務経験を基礎資格として
隣接交種に当たる免許状を、大幅に必要単位を軽減して取得することが可能に
なったんですよ。
要するに、千賀子さんで言えば、幼稚園の免許状と3年間の在職経験を基に
最低単位数13単位で、小学校の免許状を取得できるんです。
もちろん、教免に必要だった教育実習や介護等体験は要りません。
現在は大学によって土曜日開講講座に通って取得したり、
通信で取得したり、いろいろ方法があるみたいですよ!」
「へぇ~、土曜日とか通信講座なら、社会人でも大丈夫そうね。
でも、免許取ったところで就職はどうなのかしら。。」
「そこなんですよ~。幼稚園は歳が若くないと駄目ですよね。
でも公立小学校は、自治体によりますけど、大体40歳まで
採用試験が受けれますし、地方公務員になるわけだから安定してますよ。
しかも、昔は教職って言ったら倍率が10倍以上ありましたけど
今は、団塊世代の退職の影響で、小学校教員不足のために
東京都では3倍を切るらしいです。他の首都圏も3倍から4倍って
ところが多いみたいですよ。」
「えっ そうなの?
すごいじゃない。さっそく話してみる。大体資格取得するのに
どのくらいかかるのかしら?」
「1年みとけば大丈夫って言ってました。
私の知り合いに頼めば、講座をやってる大学も紹介してくれるそうです。」
「千賀子きっと喜ぶわ。ありがとう。」
「幼稚園教諭からずれてしまうけれど、少しでも役に立てばいいんですけどね。」
思わず、電話越しで笑顔になる。
この方法じゃなくても、いつかきっときっと、千賀子さんは
頑張って幸せになるに違いない。
今は、辛い道のりだろうけど、きっと大丈夫。
「そうそう、頂いた電話のついでで申し訳ないのだけど
例の件、来月にうちの部長を通して人事に働きかけるつもりよ。
来月中には、耕作の方が片付くみたいだから。
とにかく、慰謝料と養育費の公正証書が完成したら、
いっきにとりかかるつもり。」
「わかりました。
ついにですね。
すみません。田辺さんだけに動いて頂いて。」
結局、告発という一番大変な役どころを田辺さんに
お任せしてしまったことが、なんとなく申し訳ない。
「何言ってるの!!
お礼を言うのはこっちの方よ。
友達の面倒も見てもらって、経理の方まで
サポートしてもらったんだから。
それと、今回は匿名のタレこみがあって、
私が調べたってことにするから、
何があっても、あなたたちは関係ないという風を
装ってね。
ま、たぶん大丈夫だと思うけど、万が一
私が動けなくなったときに、一緒に動けなくなっては
いけないから。」
田辺さんは素早く説明した。
「万が一なんて・・・」
私は、もう一度お礼を言って電話を切った。
ついに、奴等を一網打尽にできるときが来たのだ。
今度こそ、今度こそ。
人を・・・・会社を・・・裏切った人間は大きなツケを支払うことになるだろう。
そう思った。
だから、この時は、まさかあんなことになるなんて
私たちは予想もしてなかったんだ。