ジョン・ワトソンのブログ

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ヘンリー・ナイトの訪問には大いに助けられた。シャーロックが退屈していたからだ。退屈な時のシャーロックには近づかない方がいい。エネルギーが有り余り、無礼で横柄になって手に負えないからだ。いつものことだが…

ヘンリーは20代後半のどこにでもいそうな男で、ベーカー街にやって来た時、ひどく不安そうな様子だった。そして20年前の父親の死について語り始めた。悪魔にズタズタに引き裂かれ殺されたのだと…。

ダートムーアを散歩していた時に、赤く光る目の真っ黒で巨大な怪物に襲われ、ヘンリーの目の前で殺されたのだそうだ。現場は政府の機関であるバスカヴィル研究所の近く。シャーロックは、ヘンリーが助けを求めに来たのは昨夜何かがあったからだろうと分析。ヘンリーはセラピストのルイーズ・モーティマー先生の勧めで過去のつらい思い出と折り合いをつけるために父親が襲われた現場を訪れ、恐ろしいことに足跡を見つけたと言うのだ。 ヘンリー曰く“巨大な猟犬”の足跡だったと…。その辺りでは、第二次世界大戦以来、バスカヴィル研究所で動物実験が行われているという噂があった。それでシャーロックは依頼を引き受け、我々はすぐにデヴォン州の闇の深淵部に向かった。

まずは地元のパブを訪れ、魔犬観光ツアーのガイドをしている男と知り合った。その男によると、ある国防省の職員が政府の研究所で犬のように大きなネズミや馬のような犬といった巨大な動物を見たと言うのだ。決定的な証拠はないものの、どの手掛かりもバスカヴィル研究所に繋がっていた。シャーロックが施設に入るのに必要なIDを持っていたため、潜入に成功。今回も公職守秘法の壁があって、そこで何を見たかは詳しく話せないのだが、研究所内で行われていることの一端を垣間見るとともに、ジャッキー・ステープルトン博士と、うっとうしいほど陽気なボブ・フランクランド博士に出会った。シャーロックが気づいたのだが、ステープルトン博士は最近シャーロックに手紙をよこした女の子の母親だったらしい。

その後、私たちはヘンリーの家を訪ね、父親の死んだ夜のことについて新たに思い出したことを聞いた。“リバティー”と“イン”という2つの単語だ。シャーロックは次の手として、ヘンリーを荒野に連れて行き、何かが襲ってくるか確かめるべきだと言った。僕とヘンリーはこの上なく不安だったが。

実際、その不安は的中してしまう。その夜、僕は猟犬の動く音を聞いたのだ。何かを聞いたのは確かだ。そこは人気がなく荒涼とした場所だったが、錯覚などではないと自信がある。さらに恐ろしいことにシャーロックとヘンリーは、その生き物を見たのだ。最初は否定していたシャーロックだったが、パブに戻ると生き物を見たことを認めた。あんなに動揺し怖がる彼を見たのは初めてだ。本当に怯えていた。僕はシャーロックと別れ、ヘンリーのセラピストであるルイーズ・モーティマー先生に話を聞きに行った。彼女が心を開き話し始めた時に、フランクランドが現れ、話は中断。事はそううまく運ばないものだ…。

翌朝、シャーロックと落ち合い、前夜のことを話し合った。シャーロックは恐怖を感じたことを認めたのみならず、最悪なことに自分自身に疑念を抱いたというのだ。彼は今まで自分の感覚に絶対の自信を持っていたのだが、昨夜見た信じ難い物をどう理解していいか分からなかったみたいだ。だが、幸運にも僕は手掛かりを得ていた。我々が滞在しているホテルはベジタリアン向けなのに、肉を仕入れていたのだ。この事実を突きつけると、オーナーは観光客を増やすために犬を買ったが、すでに安楽死させたと告白した。しかし、シャーロックが昨晩見たのがその犬ではないことは確かだが。それに僕がこの後見ることになるのもその犬ではないということだ。私たちは、ステープルトン博士と話をすることにした。ただ、博士に会う前に、例の“怪物”の兆候を探し出すようシャーロックから言われていたので、まずは主研究室に足を踏み入れた。そしてそれが現れたとき、私は何かに捕らわれてしまった。その声が聞こえ…その姿を見…。それまでの人生でいくつもの怖い思いをしたが、それは最悪の恐怖だった。あまりに信じがたく、あまりに抗しがたい… あの二つの目が…

僕はシャーロックに救われ、薬を飲まされていたことを告げられる。猟犬が見えたのは、それを予期していたからだというのだ。僕も医者である以上、幻覚の副作用をもつ薬がいくつかあるのは知っている。しかしあの時は… 見ただけではなく、声も聞こえ、そいつが迫り来るのを感じ、心の底から恐怖に襲われたのだった。

我々はステープルトン博士と再び会い、彼女の研究室でシャーロックは、ヘンリーの家から持ってきた砂糖を検査してみることにした。彼とヘンリーが二人ともコーヒーに砂糖を入れたこと、そのことで前の晩、二人が猟犬を見て僕が見なかったことの説明がつくと彼は考えたのだ。

それであの朝シャーロックが私にコーヒーを淹れてくれたことの説明もつく。彼は僕を実験台に使ったのだ。いつか殺してやる…。

シャーロックを最初から悩ませていたのが、ヘンリーの使用する「猟犬(HOUND)」という言葉だった。妙に古めかしく、不自然な言葉だ。ヘンリーの持つ別の記憶が呼び覚まされたのではないのか、彼が見た何か違う言葉の頭文字ではないのかとシャーロックは疑っていた。研究所のコンピュータを使い、僕たちはH.O.U.N.D.と称された古い科学プロジェクトが確かに存在したことを発見した。そのプロジェクトとは、敵に恐怖の念を起こさせる化学兵器を設計・開発するというものだったが、それを浴び続けた人間は正気でなくなるという事実が判明、開発は中止されたのだ。そしてその開発が行われていた場所は?インディアナ州リバティー。リバティー。イン…。ヘンリーは確かに思い出し始めていた。

そこに彼のセラピストであるルイーズがやってきて、ヘンリーの異変を告げた。自分に銃を突き付け、逃げ出して行ったというのだ。彼女は無事だったが、彼が自分自身にその銃口を向けることを恐れ、うろたえていた。僕らは急いで彼の父親が殺害された沼地へと向かうと、案の定そこにヘンリーはそこにいた。まさに自殺の一歩手前だった。自分が思い出した、あるいは思い出したと思った数々の情報の矛盾をうまく処理できなかったのだろう。実際、シャーロックは分かっていた。自分の父親を殺したのは化け物などではなく人間だったのではないかとヘンリーが思い始めていたことを。子供の身でそれを目撃した彼は、その事実を何か別のものに置き換えようとしたのだ。そして記憶にある様々なイメージの中から猟犬(HOUND)を作り上げた。 気の狂った殺人者と、その男が着ていたスウェットシャツに書かれていたH.O.U.N.D.の文字。

するとその時、そこにいた私たち全員が再び猟犬を見たのだ。そいつは僕らに向かってやってきた。僕は、違う、本物じゃない、幻覚なんだと必死に冷静になろうとしたが、でも確かにそいつはやってきたのだ。

そしてその背後から1人の男が現れた。フランクランド博士だった。彼のつけていた防毒マスクでシャーロックはすべてを理解した。H.O.U.N.D.が開発してきた化学兵器の毒は、砂糖に仕込まれていたのではなく、霧のなかに存在していたのだ。我々がいた場所は毒ガスの沼地だった。猟犬が襲いかかろうとした時、我々はそれを銃で仕留めたが、やがてそれがただの犬だと分かった。するとシャーロックが恐らくこれまでなかったほどの人間的な行為をした。彼はヘンリーに、犬をよく見るよう促したのだ。“そうする必要はない、事件は解決したのだから”と。しかしシャーロックの様子はまるで、本当に大事なのはヘンリーに何が事実で何がそうでないのかを分からせることだと信じているようだった。ひょっとすると自分が体験した恐怖や不安、それからアイリーン・アドラーとの経験が、彼を人間らしく変えたのだろうか…。

もちろん、彼はすぐにこの事件がいかに“素晴らしかった”かを、ヘンリーの前で滔々(とうとう)と語り始めたが。

やはり彼はそんなに変わってはいなかった。

そしてその後もう1点、分かったことがある。シャーロックは当初、毒は砂糖の中に仕込まれていると考えていて、事実、確信していた。シャーロックが誤りを犯したのだ。

結局、彼も人間だったということだ。