今、家庭から公共施設までトイレのリニューアルが進められています。生活様式の変化で、便器もしゃがむ和風タイプから、座る洋式（腰掛け）タイプに取り替えられる施設も多くなってきました。

ご近所でも、ご高齢で和風が使いづらくなり、洋式へ取り替える工事が行われていました。

衛生陶器は、使命が終わればその性質故廃棄処分となり、粉々に割られて捨てられます。かつて、彫刻風のアクセントが入ったり足が付いた重厚な洗面台などが、著名なビルの化粧室で輝いていましたが、改修で新型に換装されその姿を見ることはほとんどできなくなってしまいました。

これは、数年前まで東京日本橋の三越百貨店に残っていた、和風のトイレです。便器の排水口がよく見られる白い四角ではなく、黒い丸形となっています。これは悪臭や虫の進入を防ぐ「トラップ」という機構がなく、現場にてトラップを作っていました。便器と接続するトラップ部品（白色）もあったのですが、当時排水管は鉛管が多く使われていて、その鉛管を巧みに曲げてトラップを作っていたのです。まさに職人技でした。手作りの鉛管なので、黒っぽく見えていました。

その後、排水管に鋳鉄管や塩ビ管が使われるようになり、接続が容易なトラップ一体成形の便器が普及していきます。よく見かける水たまり部分が四角なのがトラップ一体型です。そして、このトラップなしの和風便器は戦前からあるもので、東洋陶器(TOTO)ではC1という機種でした。

便器周りの床も大理石を組み合わせたもので、壁も大理石で大変豪華トイレでした。しかし改修で、このトイレは姿を消してしまいました。

東京駅丸ノ内駅舎など、各地で近代建築の再生・復元が行われていますが、トイレや洗面所だけは、当時の姿には戻らず最新設備となっています。便器は無理でも、重厚な洗面台だけでも再活用はできないのでしょうか？

古いビルや商店などで、もしこの形のトイレに出会いましたら、それは消えつつある昭和の証であり、鉛管を巧みに加工した職人技を感じていただければ幸いです。

建物の部品－トラップなし和風トイレ