↑ EGRET-Ⅲ
■3月14日 卒業研究希望者集合
NM-75卒業研究の希望者が格納庫に集合した。枠は12名だが、集まったのは10名で2名の空き枠があった。
私が用意したものは、これまでの検討内容の概要と、取り組む姿勢についてまとめたレポートで、これをベースに概要の説明をした。
■希望者
10名の内訳。
生出富久夫、大関登、小原進、小美濃芳喜、香月康彦、金井修二、神原祥弘、土本忠、中禮一彦、私石井潤治。
空き枠2名については、周辺から全部で11名になるとのうわさ話もあり、ミスターXが誰なのかと皆で詮索した。
■パート(班)分け
例年であれば例えば、主翼、胴体、尾翼、伝導、操縦、プロペラ、それにパイロットの7グループに別けた。しかし少ない人数で小さな班をたくさん作ると、班の間の理解や連絡に齟齬ができ、班によって手すきな時期ができるなどの無駄が発生する。
それで、主翼+パイロット、動力伝達+前部胴体+操縦系統、後部胴体+尾翼、プロペラの4班にまとめることを考えた。(実験パイロット班を検討案として残した)
■各パートの最重要課題
NM-75を進めるにあたり、貫き通してもらわねばならない最重要課題をメンバーに伝えた。
・主翼班 精度
・伝胴班 剛性+センス
・後胴尾翼 軽量
・プロペラ 効率
・全体 麻雀の禁止
■麻雀禁止
我々の代では、飛行機開発の流儀として二つの方法があった。航空研究会ホームビルト班の時代で言うと、センスの「FLYER」と、理屈屋の「HOBBY」の違いに当たる。
前者は、航空機設計の基本を押さえ、あとはセンスと感で作りあげる方法。
後者は、学問的に可能な限りとことん追求し、精密な設計の上で機体を作りあげる方法だ。
私はもちろん後者なのだが、前者のセンスと感に重きを置くという手法は一見鮮やかに見えるが、科学的な学習が不十分であるということとセットでもあるのだ。
強度も性能もギリギリの人力飛行機において、センスと感を中心に作りあげれば、強度や機体特性にばらつきができ、悪い側に出る場合は、飛ばない、事故が多発する、などが避けられないと私は思った。
もっとも設計理論を細かく追求するスタイルは、末節にこだわる割に大きなポカミスに気付かず、大失敗する危険性を多分にはらんでいる。
麻雀組は、センスと感に惹かれる人たちの集まりとなったわけだが、計算や資料の理解など仕事が始まると、決まって麻雀が始まった。4人に満たなければ、作業中のだれかを一本釣りし、部屋の対角線上にあるテレビのボリュームを最大近くにしてゲームを続ける。
お陰で書籍の理解や計算に取り組む者は、半分になった。
目に余ったので「いま皆で取り組んでいる内容は、機体性能を引き上げるためにどうしても必要な、肝になることばかりだ。今こそ集中して取り組まないといけない」と真剣に説明した。
その上で「麻雀の禁止」を加えることにした。
きちんと科学的に設計を進めようとする者たちは、麻雀グループに組せず、飛行の謎解きを黙々と進めた。
麻雀が止まったのは、各人の持ち場の中身が科学的に理解できはじめ、他班の内容との関わりが見えてきた頃で、参加者が4人に満たなくなってゲームは止まった。
■耐空性審査要領に準拠した試算
三面図案3をベースに、水平尾翼と垂直尾翼に作用する荷重を計算し、後部胴体根元の太さを算出した。
また私の事前勉強として、主輪と尾輪の各種荷重を算出し、尾輪着陸荷重から生じる後部胴体根元荷重を算出し、尾翼荷重によって生じる根元荷重と比較した。
↑ 滞空性審査要領に準拠した試算
■3月14日のまとめ
本日までの内容をまとめ、19日水曜日15時から駿河台校舎9号館12階で木村先生に面会、報告することにした。まだ3年生の身分であるから、卒業研究は開始されておらず、あくまで有志としての顔見世だが、是非とも卒研に選んでほしいとの思いを披露する場でもあった。
■3月17日
伝胴班に具体的な仕事を依頼した。
14日に私が確認した着陸荷重各種に、改めて担当班で取り組んでもらう内容で、「これは、胴体フレーム設計には不可欠な内容だ」と話し、メンバー内で共有できたことを確認した上で、実務を土本さんにお願いした。
■3月18日
伝胴班3名に、私がこれまで調べたチェーン伝達の話をし、引き続き調査を進めるように伝えた。
■タイヤ駆動について検討
離陸時、脚力(動力)をプロペラだけに伝えるか、タイヤにも伝えるか、科学的な利得判断が必要と考えた。
タイヤ駆動を加えると、離陸時の加速は短時間で行えるが、その分重量が増すから飛行性能は低下する。求める性能によって、タイヤ駆動が有利に作用する場合と、不利になる場合があるという訳だ。
伝導効率として、英国SUMPACで使った値として、タイヤ+プロペラ駆動方式で80%、プロペラのみの駆動方式で80%との情報があった。
■進級
大学での成績が振るわなかった話は既にしたが、私自身が4年生に進級できるかどうか、大真面目に心配した。受け取った成績表によると単位は足りており、晴れて4年生に進級できることがわかった。
■3月19日
各班のメンバーは次のように決まった。
・主翼 石井、生出、金井、中禮
・伝胴 小美濃、香月、土本
・後胴尾翼 大関、Mr.X
・プロペラ 小原、神原
主翼班は、計算量、工作量ともに他班より圧倒的に多く、全機重量や進捗管理、性能計算も行う。メンバーの金井さんはグライダー部で活躍中、中禮さんはパイロット役なので、体力訓練こそが彼の主要テーマであったから、主翼要員としては影が薄かった。
伝胴班は仲の良い3人組とした。センスの良い小美濃さんに、手堅く計算で確認を取る土本さんの組み合わせだ。この3人の組み合わせなら、自立して問題を解決できると踏んだ。
余力気味の香月さんを主翼班に含めたいと思った。しかし仲良しグループから外し主翼班に含めた場合、新たな問題を引き起こすかもしれず、主翼班はこの4名で頑張り通すことにした。
後胴尾翼は、紳士の大関さんと、未だ何者か判明しないMr.Xの組み合わせ。
プロペラは、英語が得意で手堅く安定した小原さんと、仲良しで数学が得意な神原さんの、大人しい二人組。
以上をメンバー納得の上で決定した。
■木村先生に面会
・卒研希望者の名簿提出
・機体概形が決まるまでの経緯
・費用
・各班の説明と担当者案
・先生からの希望
などについて説明しアドバイスをいただいた。
各班に記録用のノートを手渡し、各メンバーには3月中の出席できない日を聞いた。
■3月20日
有志で、有楽町線永田駅で待ち合わせて、国会図書館に出向いた。
調査対象は主に、低抗力関係、レイノルズ数がらみの資料、最大揚力係数の高い翼型などを中心に、人力飛行機に有用な資料を手分けして探した。
■3月21日
木材の圧縮強度について、計算方法を再度洗い出し、実務に備えた。
主翼桁(二本桁トーションボックス構造)の解法について、理論と計算方法を再確認し、主翼メンバー間で共有した。
↑ 主翼桁計算法の調査‐1
↑ 主翼桁計算法の調査‐2
↑ 主翼桁計算法の調査‐3
■3月21日
木材の圧縮強度について、計算方法を再度洗い出し、実務に備えた。
主翼桁(二本桁トーションボックス構造)の解法について、理論と計算方法を再確認し、主翼メンバー間で共有した。
■EGRETの主翼桁強度計算を調査
聞き取りや資料などから、EGRETシリーズの中に、主翼強度計算に誤りがある場合があることが分かった。
1 エルロン最大舵角での荷重計算で、運動包囲線速度VAの算出を間違えていた。与えられた計算式に代入する値を選ぶ時、式の意味合いを良く理解せず、似た値を引っ張ってきたため、起こったものと分かった。
2 エルロン舵角が、計算値と実際で約2倍違うことから、強度過多となっている。
3 主桁がトラス構造であるにもかかわらず、無垢(座屈しない)棒材の曲げとして計算されており、この点からは強度不足である。
①②③を総合すると適切な強度に対し、弱く仕上がっているように思えた。New EgretやEgretⅢが安定した水平飛行中、主桁が折れる事故を複数回起こしたが、これも理由の一因と推測した。
この内容は、主翼班で共有すると同時に、NM-75 では注意深く設計作業を進めることを確認した。
↑ EGRETの主翼強度計算を調査-1
↑ EGRETの主翼強度計算を調査-2
■主翼強度計算の妥当性
自信を持って、無駄なく材料強度を使い切る、という本来の目的から言えば、主桁のトラス構造そのものに問題があると思えた。
圧縮強度の計算で、精度の悪い係数を使い、素材強度を下回る力しか発揮できないことが問題の根源なのだ。
より理論に乗る、無駄な強度を必要としない、最適な構造形式を考えないといけないと思った。
■3月22日
EgretⅢが飛行距離203mを飛び、New Egretの持つ日本記録154mを更新した。
↑ 3月22日 毎日新聞夕刊 EGRET-Ⅲの飛行を伝える報道記事
■3月24日
三面図案3をベースに性能計算を行った。
・主翼幅22.0m、主翼面積22.0㎡、アスペクトレシオ22.0、総重量108kgとした場合、
・巡航速度 Vc=8.84m/秒
・必要パワー Pr=0.373PS
・効率80%時供給パワー Pa=0.466PS
になると算出。
↑ より正確な性能計算
■プロペラ設計
小原さんは、プロペラ設計に関し多数の書籍を読破し、訳文も残し精力的に仕事を進めた。
しかし純粋にプロペラ効率最大を追い求めようとすると、ほとんど全ての資料が役に立たないことが分かった。筋道の一部を平均値や一般論、あるいは特定のプロペラから抽出した係数で片付けるなどしているためで、我々は、真に効率を追い求めているわけではないプロペラの一般論など、必要ないのだ。
結局、小原さんが最終的にたどり着いたプロペラ設計手法は、「守屋の誘導速度法」だった。
■主翼翼型
最有力候補 FX61-184 に関する正確な性能グラフが、この時点になってもまだ手に入らない、とノートに記録されている。
可能性のある人に問い合わせをし、訪問している様子が記録されているが、全て徒労に終わっている。
■NEW EGRET 試験飛行