よしかっちあんの思いつきは、映像の影響97パーセント。

残り3パーセントは、トイレ休憩で決まる。

しかも、行動パターンはいともシンプル。

食う寝る遊ぶを基本に仕事をこなす。

俺にとっては、理想の生き方。

その密着体験を終え、そして始まる。

はじめよか・・・

エピローグは突然に



‘ただいま’
 
‘お帰り’

心待ちにしていたこの日、

昨年持ち帰った平安の菜の花の種を、嫁と二人で蒔いた。

粉雪の散っているのもかまわず、早いめの種まき。

しばらくは冷たい土に埋もれて春を待つ。

期は熟し、再び今世の種を実らせようとも、

菜の花は菜の花。

永遠に変わることはない。

          
                       (完)

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          読んでくれてありがとう
           
          誰かさんの復帰を祝して

          この話は突然すぎるエンディング。

          この話は終り、誰かさんは始まる。

          まこっちあんをこれからもよろしく。

            

              磯野ひじき
   


北野誠さん、20日のTENGEKIがんばってな。


 盗んだバイクで走っている。


 あの日、よしかっちあんの‘行こか!’で決まりやった。


 いくらか癖ある運転とはいえ、話しながらのハンドルさばき。


 俺の取立て免許に比べれば、余裕をかましてくれる。


 が、その自信の伝わる背中にしがみついてはいても、


 命、預けるには不安がよぎるのは、なぜか・・・。




プロローグ 俺たちの星


‘オニ・オン・座って・知って・るか?’。


よしかっちあんの声がマフラーの爆音にまぎれて、


途切れ途切れに聞こえる。


‘俺の星や’ポツリと言う。


言われてみれば違うとも言えない、先に言った者勝ち。


にせよ、普段はテリトリーに無関心、


座布団一枚の広さがあれば、


自分の世界が無限に作れる才能を持つよしかっちあんにしては、


単細胞な言葉だ。


しかし、話題が座布団から宇宙へ飛び出すには、


いとも簡単な確立された条件が、目の前に存在していた。


地上を走る俺たちの前方には、


暮れ泥む宇宙がどっかりと覆いかぶさっているではないかい!


背中越しでは俺には見えないが、


茶褐色で透明感あり、デリケートな薄皮を一枚剥がせば、


艶のある白色野菜に変身。


アラカルトの妃、タマネギに似た星、オニオン座。


きっと感動のあまり涙さえ伴う星にちがいない。


俺の想像の域のままを乗せ、バイクはサービスエリアに突っ込んだ。


休憩は、ひとつ飛びにサービスエリアで取ることにしている。


‘ほな、明日も無事故運転、拝んどこか’


両手を合わせて、東向くよしかっちあん。


その東の夜空に、のたりと横たわるオリオン座。


紺碧の冬の夜空のまだ見ぬオニオン座へ、再び思いを馳せる。






         (アクセスしてくれている人たちありがとう。来年もよろしくバーニング!!!!)

深山に入り、ちょろちょろ流れる滝のある岩場で、

嫁が作った弁当をリュックから取り出した。

季節はずれの食材を多く使ったおかずと、

旬な栗ご飯。

色とりどりで目に鮮やか、そして十分なカロリー。

‘満足感より満腹感’嫁の信条に頭が下がる。

活力源確保、みなぎる力。

前進あるのみ、まこっちあん!


はじめよか 。



弟11話 脱出


Gアースでも表示不可能な、深山の北東の一角に到着。

その昔、耐震構造を兼ね備えた近代的設備あり。

風力、地熱、太陽熱を取り入れ、

湧き水も豊富となると、

インフラ関連設備は、ほぼ完璧だった。

高木に囲まれているとはいえ、

日当たりの良い場所を耕作し、四季折々の産物を得た。

しかし、おかんとの別れを惜しんだ源流となる小川は、

最近の小雨のせいか消えていた。

少々草茫々、木は生い茂ってはいたが、

手付かずがよかったのか、

記憶に残る生活圏とほぼ変わりはない。

時の流れに晒されながらも、

今だ保ち、抗う自然の強さを見た。

俺は見かけ変貌生活たった半年余り、

変わるはずがないのは、アッタリまえやないか?

これ以上なにを求める?まこっちあん!

自問自答を繰り返すあいだに、

陽は斜め三時の方角。

一仕事を思い出した。

住居であった樹齢1200年の大木の穴のドアを開け、

換気を終えてドアを閉めた。

傾いた表札も真っ直ぐにした。

本名である真の文字は消えずに残っていた。

大樹の前で立ちつくしていると、バイクの轟音とともに

‘まっこちあん・・・まっこちあん!’

振り向くと懐かしい顔。

‘よしかっちあんやないか!’

生まれ変わった能天気な笑顔で

‘盗んだバイクで走りだそか’とぬかす。



あぁ、またはじまるのかいなぁ・・・・・・




       (第一部、完)

                (前話はこちら )



ゴールデンイヤーも前半は、平穏無事にここまできている。

‘まこっちあん!久しぶりに丹波へ行かへんか?’と誘う真に

‘今、ちょうど帰ってみようと思ってたところやねん’。

いつも、タイムリーに誘いが入るところは、

さすがだと思わざるを得ない。

‘ほな、現地集合でな’


はじめよか。



弟十話 大きな栗の木の下で・・


紅葉までの丹波の山は、深い緑で覆われる。

幼少期の暮らしはこの奥深い山々に守られ、

今は思い出となって、心にひっそりと存在している。

‘まこっちあん・・・’

湿った真の声で我に返った。

どれだけ突っ立ていたのだろうか。

その間早々、真はひとまわりしてきたらしいが、

俺は、おぼろげな記憶を辿りつつ、

おかんと暮らした住処まで、この足で歩いて行くことにした。

山間の人里も過ぎ、

確かな記憶のひとつとして残る大きな栗の木は、

今も深山の入り口にあった。

いつの頃からそこにあったのかは知らないが、

生きるためにだけの存在感はみごとだ。

台風一過の影響も少なかったのか、りっぱな実をつけている。

そのひとつが、ガサリっと足元に落ちた。

世代交代を告げる、はじまりの一粒。

また、ガサリ。

真と共にここまでは来たが、

深山には一人で歩いて入らなければならないと覚悟した。

                (前話はこちら )



暑さも身にまとい、駅までを数分歩く。

クーラーのかかっている梅田行きの電車に、久しぶりに乗り込んだ。

昼間なので一車両に乗客は10人ほど。

クーラーはよく効いている。

暇なればこその、昼間の家事手伝いによる肉体的疲れは、

‘車窓から’流れる景色を30分間、実写版で楽しむことで消えていく。

着いた、梅田や。


はじめよか・・・



第9話 北向きに


真は‘ビッグマン前で待ってる’と言っていたが、

待ち合わせの人ごみの中に姿はない。

紀伊国屋の中にも居ないのは当然、ちと早すぎたらしい。

時間を見計らってビッグマンに戻る事にし、

こんなときは、歩いて近い北向き地蔵尊へ。

ろうそくに火を点して唱える。

‘オンカカカビンサンマエイソワカ’

日本語にはない真言の響きが妙に心に残る。

ゲイノー業界の向上と浄化を只ひたすらに願い、

ついでに、自身の身の安全を願った。

何事も精進あるのみとはいえ、降りかかる火の粉は払わなければ

火傷をする。

阪神タイガースの新井さんは荒行で火の粉をかぶり

あんなに毎年、顔中火傷していたら、あかんやろ。

とはいえ、俺のこの身も心も、焼け野原。

なんやら、もう一度唱えたくなった。

‘オンカカカビンサンマエイソワカ’

地蔵さんがカカカと、俺の苦悶を笑い飛ばす。

携帯がブブブと震える。

‘まこっちあん、もうちょっと待ってな’

もうちょっと。

その言葉に、期待しとこ・・・・。

                (前話はこちら )



ここ最近、湯水のように時間を使っている俺を見て

‘暇は贅沢の産物やのに’と真は言う。

おれのは燃え盛る神に与えられた試練の暇。

‘七夕さんはどうすんの?’と聞かれても、

いままで七夕の日に何かした覚えはない。

しかし今年のおれは、ゴールデンウィークどころでなく、

ゴールデンイヤー真っ只中。

願いごとするなら、チャンスの年。

‘何を願うんや、まこっちあん!’

真の願いに応えたい。



はじめよか・・・・



第8話 ピタッとサイズ


100円ショップで、色紙を買った。

真っ先に金銀2枚を抜き出す。

子供の頃は金銀2枚は後にとっておいたものだが、

さらりと縦長4枚づつに切った。

‘大人になったんやね’

真は大層にいうが、大事に思えるものが変わっただけや。

金銀8枚の短冊全てに、同じ、そして一番お似合いの願いを書いた。

サインペンを持つ指の振るえと、

大きな顔から笑みがこぼれるのが抑えられない。

俺は今、炎を食すフェニックスとなったのだ。

飛んで、飛んで、飛んで、廻って、廻って、天の川まで。

炎を浴びて痛んだ人間の鎧は、この天の川に捨てた。

河の流れの中で、むき出しの体をしばし休めていたら

彦星にプレゼントを渡し終えた織姫が、近づいてくる。

‘彦様のお古やけど、これあげる’

ポチャンと河に落とされたそれは、全身用の鎧だった。

流される前に、すぐさま拾い上げた。

ピタッとサイズで、まるで誂えたよう。

黄金の鎧をつけた、フェニックスとなった瞬間だった。

名を、ゴールデンフェニックス。

銀河を飛び回るに相応しい、

そのパワーアップされた両翼を広げ、

力と、知恵と、勇気を一夜限りで使い果たす。

ゴールデンイヤーに相応しい、七夕の一夜の出来事、貫徹。

                (前話はこちら )



夜が明ける頃から、雨は、


窓辺の紫陽花の葉っぱにたたきつける音が凄まじい。


昨日テレビで見たのは、雲と傘マークだけの週間天気予報。


本格的な梅雨の時期にやっと入ったらしい。


虚ろに聞こえる雨音に紛れて、


枕元から`森のくまさん’のメロディーが流れた。


手にした携帯から真の声。


‘おはよう、今日も慎ましくか?’


‘そういきたいものやね’



・・・・はじめよか、今日も・・・




弟7話 白昼



昼を過ぎ小降りになり薄くなった雲。


傘は手にはしているが、さすほどのことはない。


淀川河川敷を沿って、城北公園まで歩いて行くことにした。


もっぱらタダで遊べる公園や遊園地は、


大阪中なら知らぬところはない。


自己ベスト10本の指に入る公園が、城北公園だ。


大阪の下町の公園にしては大きいほう。


花しょうぶの時期は、ほぼ終わりかけには違いないが


真とはそこで待ち合わせる事にしていた。


淀川から吹く湿った風が後押しするのか、


公園に近づくにつれて足早になった。


しょうぶ園に早く着きすぎたようで、


近くのベンチで仰向けになり、目を閉じた。


世情に流されて今まできたけれど、


胡散臭い仕事が幅を利かすこの業界、


どっぷりつかって、


そのおこぼれで食ってきた分が一番楽しかった。


おこぼれの、そのまたおこぼれで、今の贅沢な暇を持てた。


ええこともあるもんや・・・・・。


‘ふ・ふ・ふ’微笑んでくれる、ええ女も横に・・・


‘ふぉっ、ふぉっ、ほっ’・・・・・いつのまにやら


人工的な笑顔からこぼれる、怒りのこもった湿った笑い声に。


体が強張る。言葉に出来ない。


うららァxxうラらぁxうァァアxxxx


‘狙い撃ちされたご気分は?’


心臓も、ちと痛いし、この場から逃げたい思いだが、


逃がさないわよ、という執念に駆られた女のこれが、狙い撃ちなのか。


‘握手してもかまわない’


そんなこと今更いわれても、終わったはずのこと。


再びかしずく男になるわけにはいかん。


しかしこの機会を無駄するのは罰あたりか?


せっかくのお出ましが無駄になってはと、


手を伸ばしかけたそのとき・・・・・


‘まこっちあん、まこっちあん’


目を開けると、俺が握っていたのは真の手だった。





                  (次話はこちら




                (前話はこちら )



夕焼けの残り陽をあびながら、

路上が,豊かな街路樹に挟まれた家までの道のりを歩く。

この街を、静かで、こましな住宅街に変貌させたのは、

殆どの住人が年老いて、それなりに豊かになった生活を

維持できているせいでもある。

‘ただいま’

・・・はじまる・・・・




第6話 鯛嫁

`お帰り’嫁のいつもと変わらない弟一声は、懐かしくもあり、

そして何より嬉しい。

‘ただいま’と言ってはみたものの、

この思いを、いかほども感じ取ってくれる嫁ではない。

`お土産’といって、菜の花の種を

無造作にポケットから取り出し、手渡した。

`何の種?’俺がお土産といった言葉も、

すっかり、きれいに、気にはしないらしい。

ありがとうという言葉より、先に疑問が浮かぶ嫁。

‘平安チョウの菜の花の種や’

花は知ってても、種など初めて見るものやし、

あのとき、一花、二花残っていなければ

ポケットに入れはしなかった。

‘平安チョウの菜の花の種が、この世に花を咲かす事できたら、

めっちゃ、感動ものやわ’

嫁の顔が鯛のように赤く染まっていく。

ひょっとして、嫁はいるかに乗った鯛少女やったのか。

‘まこっちあん、来年の春には咲かせて、見せてあげる’

そう言うと、猫の額のような庭に出ていった。

来春は、そう遠くはない。



                    (次話はこちら

                (前話はこちら



季節は6月になっていた。

まだ、梅雨入りしたばかりで、例年の如く、名ばかりの梅雨。

‘まこっちあん、暇ありか?’

‘暇、有りすぎ’今は暇があり余ってる状態。

摩訶不思議な旅をしていたなどとは、思えない。

時は、隙間をつくることなく、きれいに繋がっているのだ。

‘かたつむりでも、探しながら散歩でもせえへんか’と誘われて、

‘紫陽花公園で待ってるわ’といった。


・・・はじめよか・・・・・・



第5話 紫陽花公園



かたつむりのこと、でんでん虫、虫、って歌う曲があるが、

あれは、蒸し、蒸し、する6月にできた曲に違いない。

田んぼで、口ずさみながら、田(でん)、田(でん)、蒸し、蒸しと

ひと苗ごとに植えつけていくには、最適なリズムだ。

紫陽花公園で、二人とも口ずさみながら、かたつむりを探し始めた。

が、見つからない。

諦めて、ベンチに座った。

‘日本にフランス人増えたみたいやな’

フランス人が日本産かたつむりを取って、食って

いるとは思えないが、謎や。

‘アメリカザリガニかて昔は溝にいたものな’

ほんの少し年上の真は、かたつむりよりは、

アメリカザリガニのほうがお気に入りらしい。

‘越前くらげは、大国、お隣さんからのプレゼントみたいなものやし’

‘上海蟹も、ちっとは安くなった感もすんなぁ’

どれもこれも日本人が食べ慣れるまで、

まだ間があることに、なぜかほっとする。

・・・二人で貸切り状態の公園。

公園は皆のものであることには、今も変わらない。

しかし、目にはきれいに見える公園が、

遊ぶ公園から、見るだけの公園に変わっている。

それで十分満足になったのは、いつの頃からだったのだろうか。

ゲイノーの仕事で食えるようになってからの気がする。

‘まこっちあん、家には帰ったんか?’

‘嫁に土産をと思ったけど、拾ってきたものがあるんや’

ポケットから取り出して、真に見せた。

‘菜の花の種’
 
向こうでは丁度、菜の花が咲き終わり、りっぱな実、

つまり種をつけていた。

‘嫁は、ガーデニングが趣味やねん’

真は花の種を土産にする、以前とは違う俺に、一瞬驚きを見せた。

‘ほな、帰ったるわ’




                (次話はこちら

                (前話はこちら



‘今、どこ?’ 携帯がなった。

‘今、平安チョウに来てる’って言った。

‘暇やし、近くやったら、そっちまで行くわ’

心配してくれている真の心に感謝しつつ、無理なので断った。

・・・・はじめよか・・・・


  第4話 平安チョウ探訪


‘出かけてくるで’親父の顔もたんまり見たし、そう言って、

再び街にでることにした。

20世紀にうまれ育った者にとって、この街のにおいは豊かで

まるで色のついた空気に感じる。

空気という言葉は、食う気、からきたのでないかと思うほどうまい。

自然が自然を生むサイクルが一番うまくいっていた

時代なのかもしれない。

人間が自然に逆らうものといえば、呪いと祈りのみで、

人は流れにまかせて、生きなければならなかったのかもしれない。

それに比べ、なんと立ち止った生き方をしてきたのかと、

気がついた。

この時代に戻った価値は、これで十分すぎるほどだった。

親父が呼んでくれたことに、感謝をした。

21世紀になっても、親父のことは文学として謳われてはいるが

そのは生き方賛否両論でもあることを告げた。

しかし、かたや

親父の生き方は現代にも通じる誉れ深き生き方として

尊敬していると、誉めておいた。

もう、かえらなくては・・・親父元気で。

戻ります。


                (次話はこちら