牝馬3冠目、秋華賞。
圧倒的人気となったのは、オークス4着と敗れたダンスインザムードだった。
父サンデーサイレンス、母ダンシングキイ。全姉にオークス、エリザベス女王杯制覇のダンスパートナー。全兄に菊花賞馬ダンスインザダーク。
走って当然、と言われた超良血馬。4戦全勝で桜花賞を勝ち、オークスでダイワエルシエーロの4着に敗れたことの方が信じられない出来事、と思われた。
プラス12㌔の馬体重、レース前からの大量の発汗、理由はいろいろ囁かれたが、このころより気性難が目立ってきたという重大な不安要素を、指摘するものはいなかった。
7月、世界各国のクラシック優勝馬、好走馬の中から選ばれるアメリカン招待オークスS(アメリカ・ハリウッド)に出走。Ticker Tapeの2着と好走。
日本を代表する3歳牝馬として、オークス4着と敗れた不安は霧散した。
帰国後、ぶっつけにもかかわらず超人気のダンスインザムード。
秋華賞・・・・・・勝つしかない、レースだった。
オークスを制覇したダイワエルシエーロもサンデーサイレンス産駒。
母は桜花賞2着の良血ではあったが、その良血をオークス一戦に使い果たしたか?
オークス後疲れが取れず、体調が戻らぬままに出走した秋華賞トライアル・ローズSは7着と惨敗。良化が見られない、秋華賞は回避となった。
秋華賞こそ・・・・・・、栗東・鶴留明雄厩舎が、騎手・池添謙一が一丸となったのがスイープトウショウだった。
2歳時、新馬・ファンタジーSを連勝、阪神ジュベナイルフィリーズは1番人気5着。
3歳となって、紅梅S、桜花賞トライアル・チューリップ賞を連勝。桜花賞5着、オークス2着。
G1に手が届かないもどかしさ。
それ以前に、何ともならない『我の強さ』が悩みの種だった。
調教でも、嫌ッとなったらテコでも動かない強情娘。レースにおいては出遅れるは、スタートダッシュしないは、いつも後方は脚質ではなく性格が災いしていた。
限りない可能性を誰もが認めるからこそ『力を最大限に出せるために』、G1を勝たせてやりたい・・・・・・、厩舎一丸となって秋華賞へ取り組んだ。
その心をわかっているのか? 強情娘スイープトウショウ。
好きなように走り、好きなようにやめる。相変わらずの調教姿だった。
3月デビュー、3戦目の未勝利戦で勝利。500万下、秋華賞トライアル・ローズS連勝で一気にG1戦線に名乗りを上げてきたのがレクレドールだ。
父サンデーサイレンス、母ゴールデンサッシュ。
50戦目、ラストランで海外G1勝利、種牡馬となったステイゴールドの全妹だ。
勢いに乗って、G1奪取に出る。
6番人気で阪神ジュベナイルフィリーズに勝って2歳女王となったヤマニンシュクル。
フロックと言われてなるものか!
走った、走った。桜花賞3着、オークス5着。
西の栗東・浅見秀一厩舎のヤマニンシュクル。東の『ヤマニン』、美浦・星野忍厩舎のヤマニンアラバスタにとって、一番の気がかりな馬だった。
阪神ジュベナイルフィリーズ7着、桜花賞9着。越えられないヤマニンシュクル。
それでも、ついに追い抜いたオークス3着。牝馬№3。
ひたすらの思いが、いつの間にか力を与えてくれていた。
ヤマニンアラバスタ、堂々とG1を獲りに行く。
桜花賞2着、アズマサンダース。
リンカーンの全妹グローリアスデイズ。
インゴット、ヒカルドウキセイ、ドルチェリモーネ、フィーユドゥレーヴ、サイレントアスク、マルカフローリアン、フレンチアイディア。
実に18頭中12頭がサンデーサイレンス産駒だった。
10月18日、秋華賞。
1.サイレントアスク
2.ダンスインザムード
3.ドルチェリモーネ
4.フレンチアイディア
5.ウイングレット
6.グローリアスデイズ
7.フェミニンガール
8.ヒカルドウキセイ
9.メイショウオスカル
10.フィーユドゥレーヴ
11.スイープトウショウ
12.ヤマニンアラバスタ
13.バレエブラン
14.インゴット
15.レクレドール
16.ヤマニンシュクル
17.アズマサンダース
18.マルカフローリアン
1番人気ダンスインザムード、2番人気スイープトウショウ、3番人気レクレドール。
4番人気ヤマニンアラバスタ、5番人気ヤマニンシュクル。
単勝1.7倍、断然の1番人気ダンスインザムード。そこには、リーデングトレーナー・藤沢和雄、鞍上であるスーパージョッキー・武豊への信頼も加味されていた。
そして、『打倒、ダンスインザムード』。17頭すべての陣営・騎手の心であった。
フェミニンガール、バレエブランが行った先行争い。
外からアズマサンダースが追いかけ、内、好位に取り付いたのは、
ダンスインザムードだ。
メイショウオスカルが並び、ウイングレット、インゴットが後につけた。
一団で続く馬群。
中団で前を見るのはヤマニンシュクル、グローリアスデイズ。
中団後方に、ヤマニンシュクルを見たヤマニンアラバスタ。
後方にレクレドール、ドルチェリモーネ。
後方2番手、馬群の後ろ、やはり行けなかったスイープトウショウ。
ポツンと3馬身離れた最後方はマルカフローリアンだ。
3ハロン35秒5、1000m59秒9。平均ペース。
フェミニンガールがハナ争いを制し、淡々と逃げる。
お互いの様子を窺う先行グループ。
3コーナー、中団から動いたのはフレンチアイディア。
呼応して、先行陣がフェミニンガールに迫った。
4コーナー、内から2番手に上がり、フェミニンガールに並びかけようとするダンスインザムード。
直線に入るや、一気に抜け出した。
先頭に立って差を広げるダンスインザムード。
気の早いファンは確勝を信じた。
だが、早過ぎた先頭。
フェミニンガール、アズマサンダース、メイショウオスカル・・・・・・先行陣が後退。
後方馬群が雪崩れ込んだ。
外から、ひと際伸びたヤマニンシュクル。
2歳女王の意地、誇りにかけて、いまこそ、突き抜けて見せるッ。
躍動した!
伸びるヤマニンシュクル。
その外、
激しく高い蹄の音。
後方一気に前の馬を交わしやってきた! スイープトウショウだッ。
いつもと同じ後方一気。だが、その激しさはいつもより増していた。
池添よ、厩舎の人たちよ。見せてやろう、これが私のちから。
瞬く間に、ヤマニンシュクルに迫った。
伸びるヤマニンシュクル、スイープトウショウ。
内のダンスインザムードを交わし去り、置き去りにして、一騎打ち。
懸命に粘るダンスインザムード。
勝てない。でも、3着は死守する。
だが、ダンスインザムードに迫った、詰め寄った。
ウイングレットだ、ヤマニンアラバスタだ、レクレドールだ!
3着争いを尻目に死闘を繰り広げるヤマニンシュクル、スイープトウショウ。
ゴール前、決着がついた。
激しい勝利への炎。燃えに燃えた強情娘。
スイープトウショウが突き抜けた!
1着スイープトウショウ
半馬身
2着ヤマニンシュクル
5馬身
3着ウイングレット
アタマ
4着ダンスインザムード
ハナ
5着ヤマニンアラバスタ
(つづく)