古馬の王道、天皇賞春。
前年、3歳クラシックの争いが、そのままに続いた。
クラシックをリードしたサンデーサイレンス産駒。
皐月賞・ダービー『2冠』を制したネオユニヴァース。
菊花賞は『3冠』ならず3着に終わった。
ジャパンカップも4着と敗れ、翳りが見えたか『2冠馬』。
休養を経て古馬初戦は、4月、産経大阪杯。
重賞4勝のバランスオブゲーム、エリザベス女王杯を勝ったアドマイヤグルーヴ、宝塚記念・天皇賞秋2着のツルマルボーイらを相手に1番人気で出走。
逃げ馬マグナーテンをアタマ差、差し切って勝利。
天皇賞春へ、強いネオユニヴァースが帰ってきた。
初のクラシック、ダービーは8着惨敗。
それを糧に、どんどん強くなったリンカーン。
菊花賞2着、有馬記念2着。伯父にダービー馬フサイチコンコルドを持つ良血が開花した、か!
古馬になって、3月、阪神大賞典。
菊花賞で負けたザッツザプレンティに競り勝った。
天皇賞春こそ、G1制覇か?
藤沢和雄厩舎の秘蔵っ仔、ゼンノロブロイ。
厩舎の先輩シンボリクリスエスと同じく青葉賞を勝ってダービーに挑戦、2着。
トライアルを勝って、自信をもって獲りに出た菊花賞は4着。有馬記念はシンボリクリスエスの3着。
シンボリクリスエスの引退。厩舎の大黒柱としても、競走馬の完成期に入った4歳古馬としても、獲らなければならないG1。
3月、日経賞。単勝1.1倍の1番人気でウインジェネラーレにクビ差負けた2着。
目標へ向けて、焦りはない。
サンデーサイレンス産駒3頭に立ち向かうザッツザプレンティ。
父はサンデーサイレンス産駒ダンスインザダーク。
皐月賞8着、ダービー3着から菊花賞優勝。サンデーサイレンス孫世代では初のG1制覇、サンデー『エピソード2』の先駆けとなった。
ジャパンカップ2着、有馬記念11着。ムラっ気の強い戦績も、サンデー産駒には負けたくないッ・・・・・・意思だけは強かった。
3月、阪神大賞典でリンカーンに敗れた。胸に広がる悔しさ。
天皇賞春で、爆発させるッ。
日経新春杯、京都記念を勝ち、条件から5連勝で天皇賞春に挑む5歳馬シルクフェイマス。
突然の開花。
2002年12月、倒産した早田牧場産。
1991年、レオダーバンが菊花賞を勝つや、ビワハヤヒデ(菊花賞・天皇賞春・宝塚記念)、ナリタブライアン(3冠馬・朝日杯3歳S・有馬記念)兄弟、マーベラスクラウン、マーベラスサンデー、ビワハイジ、シルクジャスティス、シルクプリマドンナ、10年間で8頭ものG1馬を出し『日高の風雲児』とまでいわれた早田牧場の倒産は馬産界を揺るがした。
故郷を失くしたシルクフェイマス。父マーベラスサンデーも早田牧場産、その父はサンデーサイレンス。
シルクフェイマスもまた、サンデー『エピソード2』を彩る1頭だった。
2002年、菊花賞、ヒシミラクルの2着。ダンスインザダーク産駒ファストタテヤマも秘かに燃える。
天皇賞春6着、宝塚記念9着、天皇賞秋7着、有馬記念10着、あくなき戦い。
ダービー6着、菊花賞6着、有馬記念7着、長距離で善戦するマヤノトップガン産駒チャクラ。
前年の天皇賞春2着馬、リアルシャダイ産駒サンライズジェガー。
ダートで地方重賞2勝、芝でも重賞2勝。長距離、スタミナ勝負に生きる道を見つけたホワイトマズル産駒イングランディーレ。
サンデー『エピソード1』、『エピソード2』を語らせない!
5月2日、天皇賞春。
1.ザッツザプレンティ
2.ナリタセンチュリー
3.ダービーレグノ
4.ウインブレイズ
5.サンライズジェガー
6.イングランディーレ
7.ウインジェネラーレ
8.シルクフェイマス
9.チャクラ
10.ファストタテヤマ
11.ネオユニヴァース
12.マーブルチーフ
13.ナムラサンクス
14.リンカーン
15.カンファーベスト
16.ゼンノロブロイ
17.ヴィータローザ
18.アマノブレイブリー
1番人気リンカーン、2番人気ネオユニヴァース、3番人気ザッツザプレンティ。
4番人気ゼンノロブロイ、5番人気シルクフェイマス。
ゲートが開くとともに、押して押して先頭に立ったイングランディーレ。
距離3200m、どの騎手も折り合いに専念する。行きたがる馬を抑えるのが普通だ。
その中を、しゃかりきにハナを主張するイングランディーレ、10番人気。
鞍上は、28戦目にして初めてイングランデーレに跨る横山典弘。
最初のコーナー、正面スタンド前、1,2コーナー・・・・・・他の馬のことなど、お構いなしでドンドン行った。
イングランディーレ・横山典弘の気迫に押されたか? 誰も追っかけない。
2コーナーを回った。後ろとは、15馬身の差。
2番手アマノブレイブリー。
5馬身離れてシルクフェイマス。
5馬身離れてヴィータローザ。
5馬身離れてゼンノロブロイ。やっと、集団ができていた。
ゼンノロブロイの後ろにザッツザプレンティ、ナムラサンクス。
遅れてチャクラ、リンカーン。
ネオユニヴァースは、さらに遅れて13番手。
後方はまた、バラバラでサンライズジェガー、ファストタテヤマ、ナリタセンチュリー。
最後方がマーブルチーフだった。
戸惑いか?牽制か? 動かない各馬。
シルクフェイマス・四位洋文も、ゼンノロブロイ・オリヴァーも、好位で後ろを待った。
首を横に向け、抑える武豊を嫌がるリンカーン。
ザッツザプレンティ・安藤勝己も、抑えるのにひと苦労。
ネオユニヴァース・デムーロは後方で、いつ追い上げるか、機を窺っていた。
17頭が、17人の騎手が、それぞれに考えを巡らし、必死に対応している中、
大逃亡劇を決め込んで実行したイングランディーレ・横山典弘。迷いはなかった。
後はどうなる?
運命の神がいるなら、そいつに聞いてくれッ!
向こう正面から差を詰め出した後続。
3コーナーでは、2番手アマノブレイブリーを筆頭にひと固まりとなった。
だが、その前のイングランディーレとの差は・・・・・・20馬身。
場内は大騒ぎとなった。
このまま行ってしまうんじゃないか?
いや、つかまえる!
大観衆の興奮の声が坩堝となる中、
遠く、遠く、4コーナー、生け垣の向こうから・・・・・・馬が現れた。
最後の直線、小さく、やがて大きくなる1頭、イングランディーレ。
まだまだ離れた馬群の中から、見えてきた。
ゼンノロブロイだ!
シルクフェイマスだ!
内で粘るアマノブレイブリーだ!差すチャクラだ!後方からナリタセンチュリーだ!
4コーナーへ向けて、大外を並んで追い上げてきたリンカーンは、ネオユニヴァースは、
直線で勢いが止まった。
差を詰めるセンノロブロイ!
だが、その虚しさを、
鞍上オリヴァーが、
見守る大観衆が、
いやいや、ゼンノロブロイ自身が感じてしまった。
詰まらぬ差、大きすぎる差。
世紀の大逃げイングランディーレ。
あちこちで舞い散るはずれ馬券を紙吹雪に変えて、
歓喜のゴールイン。
2着ゼンノロブロイに、7馬身の差をつけていた。
1着イングランディーレ
7馬身
2着ゼンノロブロイ
1馬身4分の3
3着シルクフェイマス
半馬身
4着チャクラ
1馬身4分の1
5着ナリタセンチュリー
ネオユニヴァースは10着、リンカーンは13着、ザッツザプレンティは16着に敗れた。
(つづく)