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News 広がる遺伝子医療(1)がんの家族歴 聞き取り

四国に住む女性(55)は2007年6月、

何気なく触れた右乳房にしこりを感じ、

「やはり私もか……」と頭が真っ白になった。


 母は55歳、妹は30歳で乳がんになり、乳がんになりやすい家系

なのかもしれないという漠然とした不安はあった。


まめに自己検診もしていたが、50歳を過ぎたころから、

「私は免れたんだ」と思い込もうとしていた。しかし、違った。


 国立病院機構・四国がんセンター(松山市)を受診したところ、

直径2・5センチのがんと診断。


乳房の全摘手術を受けた。入院時、主治医の大住省三さん(52)から、

家族のがん発症歴(家族歴)を尋ねられ、「遺伝性腫瘍かもしれません」

と告げられた。


 同センターは、00年から全国に先駆けて「家族性腫瘍相談室」を

開設している。患者に家族歴の聞き取りを行い、10年2月までに

7603人から聞いた。


乳がん(2102人)では、遺伝性の可能性が高い患者95人(4%)、

可能性がある患者204人(10%)が見つかっている。


 遺伝性の場合、70歳までに乳がんが発症する確率は海外の研究で

36~85%とされ、一般の乳がんよりも若い20歳代から発症し始める。


卵巣がんを発症する危険性も高く、「遺伝性乳がん・卵巣がん」とセットで

呼ばれることが多い。家族歴の聞き取りは、遺伝性腫瘍の疑いがあれば、

未発症の家族にも検診を受けてもらい、がんの早期発見につなげるのが目的だ。



 女性には双子の娘(19)がいるほか、乳がんのため35歳で亡くなった妹が

残した姪(21)もいる。「あなたたちもなる確率は高いのよ。

気をつけて」と伝えたが、心配でならない。


 手術後に抗がん剤治療を1年受けて落ち着いたころ、

大住さんから、「遺伝性かどうかを調べる遺伝子検査があるんですよ」と

聞いた。


保険がきかないため、検査料は19万円かかり、迷ううちにまた時間が過ぎた。


 09年春の定期検診で、大住さんから、「うちに新しく認定遺伝カウンセラーが

赴任したんですが、一度話してみませんか」と声をかけられた。増田春菜さんで、

日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が認定する遺伝カウンセリングの

専門家だ。女性は増田さんから話を聞くことを決めた。


(2010年3月22日 読売新聞)



[ 情報プラス]


家族性腫瘍と遺伝性腫瘍


 血縁者にがん患者が何人もいる、いわゆる「がん家系」のがんを

「家族性腫瘍」と呼ぶ。


「家族性腫瘍」は、その家系特有の「遺伝要因」と「環境要因

(食事の好みなどの長年の生活習慣)」が発症に関係すると考えられている。


遺伝要因よりも、環境要因の方が色濃く影響している家族性腫瘍が多くを占める。


 家族性腫瘍の中で、原因遺伝子がはっきりしていて、遺伝要因が強いがんを

「遺伝性腫瘍」と呼ぶ。

遺伝子検査は、まず、発症者で、特定の原因遺伝子の病的な変異を確認する。


この変異が確認できれば、発症前の血縁者も同じ変異があるか検査することで

遺伝が確認できる。

ただし、発症者で確実に遺伝の変異がわかるわけではなく、保険もきかないので

費用も高い。また、遺伝しているからといって、必ずしも発症するわけではない。



 ただ、遺伝していることが早めにわかれば、生活習慣を改善したり、

がん予防のための薬を飲んだりするなどして発症を予防する一次予防、

こまめに検診を受けるなどして早期発見・早期治療をする二次予防ができる。

国内ではまだ一般的ではないが、遺伝性乳がん・卵巣がんで、

発症前に乳房や卵巣を切除する予防法もある。


 遺伝性腫瘍に詳しい、国立病院機構霞ヶ浦医療センター「家族性腫瘍相談外来」

担当医の市川喜仁さんによると、「遺伝性腫瘍」には以下の特徴があり、

あてはまる数が多いほど可能性は高くなる。



 (1)同じ臓器のがん(特に大腸がん、乳がん)にかかった人が血縁者に3人以上いる。


 (2)血縁者に50歳未満(乳がんの場合40歳未満)でがんになった人がいる。

 (3)一人で何度もがんにかかった人がいる。

 (4)2つある臓器(乳房や卵巣など)のどちらもがんになった人がいる。



 遺伝性腫瘍の中で最も多い「リンチ症候群」は、大腸がん、子宮体がん、

卵巣がん、胃がんなど、様々な臓器にがんができるため、家族でばらばらの

部位のがんを発症している可能性もあり、遺伝性の腫瘍と認識しづらい。


また、遺伝性乳がん・卵巣がんでは、男性血縁者を通じて遺伝している場合もあり、

女性にだけ注目していると遺伝の可能性が見えづらくなる。

性別に関係なく遺伝することに注意が必要だ。



 気になる人は、第一度近親者(親、子、兄弟姉妹)、

第二度近親者(祖父母、孫、おじ、おば、おい、めい)まで、誰が何歳で、

どの臓器のがんを発症したか確認してみよう。

できれば、第三度近親者(曽祖父母、ひ孫、いとこ)まで調べた方が、より正確になる。


 


参考図書 「家族にがんの人はいませんか」(市川喜仁さん著、日本評論社)


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