やっと観ました。
藤沢周平原作の最初の作品ということで、その後じわじわと藤沢周平ローカルブームが始まるきっかけの作品だ。
しかしながら、私は藤沢周平にはあまり興味がなかったし、山田洋二監督作品だし、数々の賞に輝いた作品だからといって観てみたいとも思わなかった。
が、山田洋二監督の藤沢周平三部作完成記念ということで()
直前に『SallWeダンス?』を期待せずに観たら、感動するくらい良かったこともあり、やっと観てみました。
これが、いがったのよー。感動したのよー。
なにがって、まず、いきなり葬儀の準備シーンから始まり、成長した清兵衛の娘・イトのナレーションで、「・・・母の病気は労咳だったので、物心ついた頃は母に近づくなと言われた・・・」と、その娘をズームしたときの、あどけない瞳のくりくりっとしためんごさに、心をつかまれた。
以降、彼女の語りで物語りは淡々とすすむ。
まさに、淡々と。
二人の娘とボケた母親をかかえ、生活のためにセッセと、城勤めと家の事におわれる清兵衛。
その、なんでもない日常が、時代劇としてとても新鮮だ。
遠く、雪を頂いた月山を背景に、ドンドン!と、時を告げる太鼓の音に、「しぇば、お先に・・・」と、
「たそがれ時に家に帰るたそがれ殿」と、同僚の影の揶揄をよそに、わが道を行く。
夕餉の支度、巻き割り、囲炉裏を囲んで内職をしながらの父と娘の会話。
当時の生活の様子が実にていねいに映像化されている。
「・・・生活に追われて、自分の身の回りを構うゆとりがない父が、だんだんうす汚くなっていく様子を見るのが幼心にも悲しかった。」と、ナレーションが続いて、下の娘のまどろんだ表情のズーム。
うーん、うまい。
じーんとくる。。
朝餉の後に、茶碗に白湯を注ぎ、漬物で汚れを落として箱膳にしまう・・・実にディテールが細かい。
ボケた母親との会話もいい。
「どちらのお身内でがんすか?」
「あんたの息子でがんす。」
ふふっと、笑えるシーンがあるのもいい。
このおばあさん役が、なんと「Shall We ダンス?」のタマ子先生とは、すぐには気付きませんでした。
いい役者さんが出演してるんだなー。
今は亡き丹波哲郎、深浦可奈子も何気にいい味ででる。
真田広之サイコー、場面・場面の表情がいいし、娘役の二人の女の子もうまい。
で、宮沢りえ・トモエはんの登場で、ひとつの山場を迎える。
華があるなー。
幼馴染で互いに惹かれあっているのに、身分違いで一緒になれない。。。
古典的過ぎるロマンスだが、ベタじゃないのが不思議だ。
真田広之と宮沢りえなんて、すごく濃い組み合わせなのだが、これがちっともアクがない。
しっとりと、切ないきもちになる。
これは、コトバの魔法かも。
庄内弁ベースの、なんとものどかなコトバ使いが場をやんわりと繋ぐ。
「思えば、ちっちぇ人形作ってあげてた頃から、あなたを嫁にもらうのが、わだしの夢だった。。。」
と、藩命に逆らえずに決闘に向かう直前に、清兵衛が告白する。
「わだし、会津の縁談、受けました。」
トモエの答えに清兵衛は、
「いまの話は忘れてください」と、決闘に向かう。
「ここで、お待ちすることはできないけど、どうぞご無事で、御武運を、心から祈っております。」
そのあと、残されたトモエと、おばあさんのやりとり・・・・どあぁーー
う゛ーーー、最高に切ない。。。。
気持ちを入れ替えて、清兵衛は決闘に向かう。
この斬り合いのシーンもずごくいい。
暗い室内でのやり取りだが、とても緊迫する。
相手役のヨゴ・ゼンエモン役の田中泯という役者さんがすばらしい。
最後に『暗い、暗い・・・・』と言って倒れるところは、日本映画史上に残る名シーンだと思う。
ひらひらと、舞うように絶命するところは、この役者さんがじつは舞踏家だったというところに所以する。
もちろん、真田広之の剣客としての殺陣はいうまでもない。
で、最後に成長した、イトが登場して、ああ、この声は岸恵子さんだったのねと、胸のつかえが取れる。
で、この締めのナレーションの内容がまたいいのよ。
背景に、幕末という混沌とした時代で、それぞれ懸命に生きているという事が実にうまく盛り込まれている。
観終わって、涙・涙・・・・だけど、とてもすがすがしい気持ちになる。
この映画は私がいままで観た映画のなかで、邦画ではナンバーワンだわ。