村の所有者が変わった事を知らせるテロップを眺めながら、卍は一人ほくそ笑んでいた。
「わたしにたてつくから……」
自分に歩み寄ろうとしない相手には容赦のない投資を続けていた。投資専用キャラは5つ。正体がばれないようにスノーキーにもキャラを任せている。所有している村も20近くに及ぶ。
小さな異変がまた起きたのは、所有者が自分に代わった村の看板を書き換えにキャラクターを動かそうとした時だった。
思い通りにキャラクターが動かない。マウスポインタが思ったところに移動してくれないのだ。
ウイルスソフトが最新版に更新されていたのは、パソコンを起動した時に確認した。
「なぜ……」
考えた末にドリアンに電話をかけることにしてみた。
30代後半にして既に会社のお荷物となっているドリアンは、嫌がらせの異動で、元は倉庫であった会社の地下の一室に押し込められていたため、仕事中でも私用電話に出られる。
「なんだよ、珍しいな卍から電話してくるなんて」
甲高いドリアンの声は卍には耳障りに聞こえるのだが、こいつになら話してもプライドの崩れない何かを感じていた。
「やっぱり手がおかしいんだ。マウス操作までうまくできなくなってきてさ」
「なぁ、卍。もしかして”イップス”じゃないの?」
しかしいつ聞いても耳障りな声だ。
「プロゴルファーとかが、パットがはいらなくなる”パッティング・イップス”ってのが有名らしいけど、元々はピアニストの指が動かなくなる事を指して言ったそうだけどね」
イップスという言葉は卍も知っていた。
「つまり、自分の意思とは異なった動きをしてしまうってことらしいけどね。巨以外だったらマウスもちゃんと動くんでしょ?」
「うん」
「しばらく巨休めば?ちょうどほら夏休みの時期だし。吉田興行も夏休みってことでさ」
子供会からは敵対が来ていた。攻城戦を幾度かしてみたが、一方的に押し切られていつも負けていた。傭兵団や台湾人があてにならず、この先も何か勝てない雰囲気も感じていた。
「だけど、投資は続けるよ。気に入らない奴がまだわんさかいる」
「はっはっは、卍は卍が納得するまですればいいさ。俺は卍といられれば楽しいんだよ」
「……。じゃぁ夏休みってことにするね」
「OK~」
卍は吉田興行を解散させて、RMT業者へのメールを送った。