one day
他に人気のないベンチに座り 空を仰いでいた
暖かい風を目を閉じたまま受け 香る知らせはないかと嗅ぐ様に鼻を動かす
近付く靴音に俺を感じたのか そのまま呟いた
「……まだまだ先の様だね…」
「何が」
「……桜がやっと だもんなァ……」
答えにならない返事をして緩く笑うと 顔だけを此方に向けた
「……どうかしたのかい?」
「………………………」
どうもしねえ 別に何も…………
ただ
忙しなく追い立てられる刻の中 ぽっかりと空く僅かな隙間に
気付けばお前が居る
「……何もないなら それはそれでいいんだ」
"座ったら?"ベンチの隣を指し また空を仰ぐ
少し迷って………結局は座る
体のそちら側だけに より暖かな…春の風より暖かな空気を感じ 肌が粟立つ
ある筈がない体温 ある筈がない存在
………俺が作り出した幻影
「……相変わらず疑り深い」
クスクス笑う声は 新芽を揺らす枝の葉擦れる音じゃないのか
「……否定した方が楽ならそれでいい
けど君は
……君のぼくを"無い者"とする否定は…自分の頭だけにある幻だとする考えには 断固抗議したいね」
「………なら…何だと…? ……お前は………
……………誰 だ …?」
「"誰"って聞くのかい? 薄情なもんだね よく知ってくれてるもんだと思ってたよ
"何"というのかは………
……ぼくにも答えられない
幽霊ってのは 未練あってなるんだろ?
成仏得脱…生きたまま悟りを得て仏に成れる者が居るならさ 未練なくとも仏に成りたくない奴もいるかもしれないじゃないか」
「………………お前に無くても
……………俺にある未練が……オメーを……縛っ
「承太郎」
膝に置かれた掌に そこが熱を持つ
なのに
………触れられたという感触はなく
込み上げてくる何かにぐらり視界が揺れる
「……縛られてなんかいないよ
ぼくは望んでここに居るんだ
君が心から視たくないと願えば ぼくは見えなくなるだろう
だが ぼくはここに居る……ぼく自身の意思で
悩み苦しむ事は悪だろうか?
辛く悲しい事は悪だろうか?
重力に引き摺られ傷に痛む容れ物は 確かにもう持っていないけど
光り輝き安らぎと癒しに満ちた世界より
藻掻き嘆き泣き叫ぶこの世界にこそ 幸せを感じる変わり者もいるんだよ
永遠に先続ける天上の花よりも
夏の陽射しに飢え渇き 秋に実と共に葉を落とし 冬の寒さに裸で震えながら耐えて 春の風に恐々と芽を伸ばしやっと咲く小さな花の方が美しいと思う偏屈な奴もいるんだ」
「…………………………
今は…………何を待ってる ん……だ ?……」
膝の手が離れ 傍らの温もりが遠退く
思わず顔を上げると 煌めく新緑の蔓を風と戯れさせて 笑いながら此方を見る目と目が合った
「教えない」
まだ手が届く位置にいながら 掴む事の出来ない腕が愉しそうに躍る
「満開の桜を君は笑って観れるだろうか
散りゆく桜を美しいと見送れるだろうか ただ哀しく憐れと思うんだろうか
桜の先に咲くその花を …君が贖罪ではなく純粋に
贈り贈られる想いの言葉と見える様になったら」
"その時ぼくがまだ見えるかは解らないけどね"
風と蔓がくるくる回るつむじ風の向こうからの声が消えた
"きっと隣に居るよ"
another time(revolve)
「Good morning 博士殿 …やっとお目覚めかい」
「………徐倫は?」
「とっくに出かけたよ 起こしに行ったの解らなかったか?
酷い父親だね 娘に行ってらっしゃいのkissもしてやらない」
「てめーが代わってくれりゃあいい」
「言われなくても」
置かれた皿scrambled eggの上に鮮やかなピンクの花が乗っている
「何だこりゃ …花のフライ?」
「うちの庭のCornus floridaだよ 昨夜隣のホームパーティで出されたんで真似してみたんだ
…なんだいその顔は? 愛想ないここの家主に代わってお誘いを受けたんだぜ? まともに家に居たことがないまともに口を開かないデカイ日系の鰥夫なんて…警戒されちゃうじゃないか 少しは仲良くしておかないと徐倫が困るんだよ?
ほら…ちょっと洒落てないか? お隣さんのは白のCornus floridaだったけど」
「朝からフライね……………胸焼けしそうだぜ」
「たったの一輪じゃないか 飾りだよ飾りッ」
coffee cupを差し出した手が俺の前髪を梳いて離れる
向かいに座った顔はあからさまに呆れたといった表情で 心配を隠していた
「寝癖凄いぞ 早く食べて直しておいで
物足りないならリキュール貰ったから夜飲んでみたら?
Cornus floridaは滋養強壮に効果あるんだそうだよ
………今日も遅いのかい?」
「いや 今日は家にいる
………ボチボチ準備しねえとな 来月の学会
頼んどいた資料 出来てるか?」
「ああバッチリ 君の朝食が済んだら持ってこよう
良かった…じゃあ少しは体だけでも休められそうだね
来月のって……日本だろ? 久し振りじゃないか 楽しみだろ」
薄い衣に透ける濃桃は 目の前の男の髪の先から咲いた様な色をしている
シャクリと軽く崩れた総苞は直ぐに舌の上から消えた
「……味が無え」
「味を楽しむ物じゃ無いってば …不粋な男だなあ
徐倫は"Cool!"って喜んでくれたよ? ホリィさんもきっと………
「だからオメーも行きゃあいいじゃねえか ババアに直接食わせてやれよ」
「徐倫の世話は誰が? 全く親バカ丸出しの父親に甘やかされて あのお嬢様は自分の食事ひとつ満足に作れやしない
天国の奥方様は嘸かしお嘆きだろうね」
窓の側 陽当たりのいい場所に置かれたテーブルの上のphoto standの前には 白のCornus floridaが活けられていた 目だけで朝の挨拶を済ませる
「嘘だよ」
「?」
「良い子に育ってる……あのお転婆が今や立派なladyだ 大丈夫奥さんも安心して眠っていられるよ
けど
料理はそろそろ覚えた方が良いよなあ」
「お前が居るんだ 必要ねーだろーが」
「素直じゃないね」
クスクス笑いながら向けられた人差し指がからかう様に揺れる
白い指先がゆらゆらとcrossの残像を描く
Cornus floridaの4つの花びらのように見える総苞が 無数の十字架が与えるものは
「ぼくは白いドレスの徐倫を見たいんだけどな」
「俺にそんな気は更々無え」
"やれやれ"と肩をすくめ "coffeeのお代わりは?" と聞く目には穏やかな光しかない
「学校なんか休ませりゃあいい」
「え?」
「徐倫も連れてきゃあいいんだろ? ババアにも暫く孫の顔見せてねえしな」
「………実に立派な父親だね 機会はまだ幾らでもあるだろ? 夏なら休みもゆっくりと
「今 行かなきゃいけねえんだ お前が
あの時の答えを 俺に寄越せ」
「? ………何の話だい?」
解らないという幸せにいるお前に逢えて良かった
藻掻き嘆き泣き叫ぶ世界だけが お前の知る幸せじゃなくて良かった
悩み苦しむ事は悪じゃねえ
辛く悲しい事は悪じゃねえ
だが
憎しみや復讐や戦いに疲れ 自責の念と後悔で曇る目に映る贖罪の花は
逝った者を穏やかに懐かしみ 愛する者の未来を願う祈りの花にもなる
どの世界にあっても 何を幸せとしても
逢えた それだけで
「…………君の言う答えというのが何かサッパリ解らないんだけど」
「ああ 構わねえ 答えはもう俺が解ってる」
「???………益々解らない」
しかめ面に仕返しと指を突き付けてやれば 心底嫌そうに払いのけた
その手首を掴むとギョッと目を見開く
「…………掴めるってのは いいもんだ」
"何馬鹿な事を……"
言いかけた唇が噤まれ テーブルの写真を振り返る
遺される者より 遺して逝かなきゃいけない者の方がずっと辛い
そうだ だから
どの世界にあっても 何を幸せとしていても
また必ず見つける
贈らなきゃいけねえ想いがあるから
「……悲しい花じゃあないだろ? 何故そんな思い詰めた目で見るんだよ
確かにChristの磔にされた樹だったなんて言われてるけど その花片はこんなに可愛いハート型をしてる
その癖全部の花が一斉に空を見上げる様に咲くんだ 実にアメリカ的な花だよな 桜みたいな謙虚で儚げでって感じがない
可愛いけど逞しい…誰かさんが溺愛してるお嬢さんみたいだね」
「あれは花片じゃねえ総苞だ 花は中心の塊であの目立たない集合してる
「はいはいッ 生物学者的講釈はまた今度
"私の思いを受けてください"? ストレートだよなーッ ………まぁ思いったって色々ある 恋愛に限ってじゃない
けどCornus floridaの花言葉に"遺言"なんてものは無かったと思うけど?」
「………ああ……まあ……
…………そう だ な………」
「さよならの為に贈る言葉を持った花じゃない
"私の思いを受けてください""返礼""永遠"
どちらかと言えば……傍に居る者だからこそ贈れる言葉じゃないか」
「………お前と居るとどうも俺ばかりがnegativeな気がしてくるな…」
「陰気な目で花見る方がどうかしてるよ
何か悲しい思い出でも?
……! ああそっか 承太郎キミ……ホームシックにでもなったんじゃないか?」
「…………あ゛?」
「きっとそうだよ! うんうん…確かにホリィさんにも似てる花だッ
まだ君にもそんな可愛いところが残ってたんだねーッ あんな大きい娘がいるってのに やっぱりマザコ
「テメエは喧嘩売ってんのかッ」
ゲラゲラと意地悪く笑いながら "coffeeのお代わり忘れてたよ"と逃げて行く背中に
"やっぱりテメーは来なくていいッ"と怒鳴ってやる
ヒョイとキッチンから首だけ出した顔は 未だ悪魔的笑いを張り付けたまま宣った
「とんでもないッ 是非付いてくよ!
"Am I indifferent to you"?」
今日の誕生花:花水木
「私の思いを受けてください」「返礼」「華やかな恋」
English
「durability（永続性、耐久性）」「love undiminished by adversity（逆境にも耐える愛）」「Am I indifferent to you?(私があなたに関心がないとでも？）」
………もうここに書く事もないと思ってたんだけど
………なんか送り付けてやるにも住所知らねえし
…………………┏(.◇．┓)┓
承……承 花?…………
書けねーよ!書いたことねーよ!バーカバーカ!←おいらがなッ
(逸そ気付かないでくれよッ)
でも祝福だけはしたいよねッ
よりとくーん♪
ハピバァッッッ!!!!!
(*^▽^)/★*☆♪
奥さん殺しちゃってんじゃんとか承太郎ヤモメとか徐倫グレてねえとか捏造アレコレやら意味解んねえとかその辺は一青窈唄ってみてとか抑デキテねーじゃんコイツらとかは気にしちゃいけないんである
典君が生きてて(多分承太郎の助手的な何か)みんなで仲良く暮らしてるのがお祝いなんじゃないかな？
つまり生まれてきてくれないと出逢えないから貴女の幸せを願うことも出来なかったわけだから
先ずは何より今日という日に感謝をなんだわ
ハナミズキ聴きすぎた結果だと思うんですしおすし
