世は群雄割拠の戦国時代。
わしは北条氏康(ほうじょううじやす)です。
「うわぁ〜っ!」
勝千代(かつちよ)は大きなイノシシに跳ね飛ばされて地面に叩きつけられました。
次の瞬間!!
ザクッ!!
見事に大きなイノシシの頭に命中しイノシシは倒れました。
清水「勝千代!」
勝千代「…くっ、私より伊豆千代丸(いずちよまる)様は…。」
勝千代ちゃんは後の北条綱成(ほうじょうつなしげ)さん、伊豆千代丸ちゃんは後の氏康さんだよ。念のため。
わしは不覚にも腰を抜かし気を失っていたのです。
わしと勝千代は近くの寺に運ばれました。
伊豆千代丸「……うっ、ここは…?」
清水「気づかれましたか。近くの寺でごさいます。若殿と勝千代の手当てでここを借りました。」
伊豆千代丸「勝千代は…?」
清水「別の居間で手当てを受けております。」
わしは勝千代や他の家臣の前で気を失ったことを思い出し太刀を持ちました。
伊豆千代丸「家臣たちの前で気を失うとは…わしはなんたる恥を曝してしまったのだ。この上は腹を斬る!!」
清水は太刀を持つわしの腕を抑えます。
清水「なにをなされます!初めて見るものに驚くのは当たり前のことです。」
伊豆千代丸「しかし、こんな臆病ものなど…」
清水「臆病なのは恥ずべきことではありませぬ。勇ましい者ほど臆病なのです。だから努力を重ね強くなっていくのです。」
伊豆千代丸「されど勝千代はイノシシに向かっていった…。」
清水「勝千代も臆病ながら家臣として若殿を守るために必死だったのですぞ。若殿を守るのが勝千代の役目なのです。」
わしは太刀を離しました。
その後、わしは勝千代の元へ行きました。勝千代は床に伏せっていたのです。
伊豆千代丸「勝千代…大事ないか?」
勝千代「若殿様、この姿で申し訳ござりませぬ。大事ありませぬ。」
伊豆千代丸「よいのじゃ。わしを守ってくれてかたじけない。礼を言う。」
勝千代「御礼など…若殿様が無事でなりよりです。」
伊豆千代丸「勝千代はイノシシが怖くなかったのか?」
勝千代「…怖かったです。怖かったですが体が先に動いてしまいました。」
伊豆千代丸「それはなぜじゃ?」
勝千代「わかりませぬが…私はこの北条氏に助けられ大恩があります。その北条氏を守るのが私の役目と心得ておりますゆえ…。」
それを聞き、わしは勝千代の手を握りました。
伊豆千代丸「勝千代!これまでわしはしっかりした態度のそなたをどこかで嫉妬していた。わしにはそんな態度ができなかったからじゃ。しかし、そなたのその思いを聞き、わしは間違っていたようじゃ。」
勝千代「若殿様…。」
伊豆千代丸「わしはこれから嫡男としてどうどうたる態度で臨むぞ。そなたの思いに答えねばならぬからの!」
わしは勝千代をこれ以降、信頼をおくようになったのです。
その後、伊豆千代丸ちゃんは堂々とした態度になったんだよ。
1527年、父・氏綱(うじつな)は北条包囲網であった小弓公方(おゆみくぼう)の足利義明(あしかがよしあき)と和睦を結び、さらに真里谷氏(まりやつし)や里見氏(さとみし)は停戦したのです。
全ては氏綱が忍びの小太郎(こたろう)を使い、包囲網を崩したのでした…。
つづく…
次回をお楽しみに〜