遂にモンスターと再会した。






18歳、東京の某予備校の寮で出会った。
C棟の110号室に住んでいた群馬出身の男。


俺の部屋は111号室で角部屋で
唯一のお隣さんがコイツだったのだ。




18歳と言えば、やんちゃ盛りのはずなのだが
上京して寮に入った初日、同じく寮に入った
高校の同級生、まっさんが部屋で談笑していると



「コンコン!」と控えめにドアがノックされ



「あっ、すみません・・・隣の部屋の

 ●●(ヨシアキの苗字)と申します。

 これ、つまんないもんですけど・・・。」


と、丁寧に礼儀正しく、少し気取った感じで
まるで引越しそばを配るようにタオル?雑巾?
(よく覚えてない。本当につまんないもんだったから)
を渡してきた肌のあさ黒い
ひねくれたアンパンマンのような男。



それがヨシアキだった。





「明治大学に行って●●先生の講義が受けたいんだよ。」


「考古学をやりたいんだ。」


「石●君達は間違ってるよ!」


「俺は~~が大嫌いなんだよ!」




仲良くなると



・自分の夢
・人に対する説教
・自分の好き嫌い



で自己主張をしてくる男。




最初のうちは実際に有言実行で
他者を寄せ付けない生真面目オーラを出し
朝の四時くらいまで勉強をしていた。



しかし、エラソーなことを言う割には
遊びに免疫がなく、孤独な浪人生活の慰みに・・・
と手を出した麻雀、パチンコ、タバコに
あっという間にハマってしまい
連日連夜、徹マン、パチンコに興じ
それ以外はひたすら寝る、という
転落っぷりを見せ続けるヨシアキ。




「人は~でなければならない!」

「人は~であるべきだ!」




という教科書に出てくるような
青臭い理想は常に掲げており
相反する(と、こいつが勝手に決め付けた)人間は
徹底的に攻撃する唯我独尊男。




長い前フリだったが、そういうヨシアキが
所用で俺の地元にやってきたのだ。




「西日本は初めてだろ?」



「うん、大阪まではあるけどね。」



何気ない会話だが
偏見に満ち溢れたこいつが

19歳くらいの時に
「西日本って山の形が変じゃない?」
と、屈託なく差別的な発言をしたのを
思い出していた俺。



大阪=お笑い
広島=ヤク●
東京=何でも中心



というのがコイツの持論だったはずだ。




「久しぶりだな。」


「いや~、俺は石●くんのブログ読んでるからさ~
 久しぶりって感じしないんだよね~




続く・・・

韓国風冷麺  初めて喰った感動は忘れない。学生時代。





「コーンスープ」と「えびめしオムライス」





「なか卵」での侘しい夕食 カレー&牛、この組み合わせはいい。





ホルモン焼き お宮の好物 たまに無性に食べたくなる。





お好み焼き これはハズレ。







しかし、俺って何ていうか
プチ不幸の星の下に生まれていると思う。



最近もこうだ。



出勤時に駅のチャリンコ置き場に
自転車を停めるのが面倒なので
何台か不法に駐車してあった
自転車同様に空き地に適当に置いていたら

帰宅時あろうことか、全部の自転車の
後輪にロープが巻かれていた。



「役所の仕業か!」
と激怒し結び目を探すも
暗くてよく見えない上に
やっと見つけたそれは素人では
到底解けないほど厳重に巻かれていた。



「このガキャー!」と憤りつつも
いたずらに過ぎていく時間・・・。



結局ライターで焼ききり
颯爽とサドルに座るも
丸一日乗っていないにも関わらず
前輪がパンクしていた。



次の日、休みだったので
自転車屋に「パンクしました。」
と修理に行ったら
「1,050円です。」と言われる。


意味の無い散財にムカつきつつも
お願いしたら、実は空気が抜けていただけで
パンクではなくその上
1050円は工賃としてキッチリ取られた。


その帰り道、あやうく犬の糞を
踏みそうになったが回避。
ラッキーはそれくらいかな。
3月は決算月。
殺伐とした雰囲気の中で仕事をする。


毎年毎年の恒例行事ながら
今年35歳を迎える身としては
体力的にキツくなっているのもまた事実。


高校時代の友人トロブは超一流メーカーに転職
てっちゃんは世界的なコンピューター企業に
いつのまにか転職し海外での会議に
出席したりしているというのに・・・


保育園の園長さんのような仕事に
従事し続ける自分の就職に対する
見込みの甘さを痛感中・・・。



んで・・
本日も忙しい最中、社内メールを開いたら
いきなり・・・









と、ご自身を下からなめたショットと共に
丼様からのメールが届いていた。


何の脈略もなく。
本当に突然。




(゚口゚;)うっ・・・・・




前々から思っていたのだが
彼は俺に何を要求しているのだろう。


考えてもみてほしい。


エロ画像なら未だしも
独身40男の顔面アップ画像のニーズが
この平成ニッポンのどこにあると言うのか?





「どうですか?」




って何が??


俺の調子?
アナタ様の写真の写り具合?


前が無いんだよ!前が!




・・・で、机の上に置いていた携帯に
メールが入っていたので、何気なく見たら







『●●●取締役、辞めたそうですね。何故?』











知らないよッ!
俺みたいな下っ端が知ってる訳ねーじゃん!
本人に聞いてよッ(涙)




携帯にもご丁寧に
自分の画像を添付されている丼様。
俺は一体、アナタの何?




道路でうずくまっている中年男に親切心から
「大丈夫ですか?」と声をかけただけなのに

その日以来
自宅にいても職場にいても
全力投球でストーカーされるようになってしまった
おぼこ女子大生のような気持ちになった。



ともかく、こういうネタは
あちこちに流しておくに限るので
丼様を知っている
・神戸娘
・天然娘
・アルバイト主婦の職場3人娘と

・丼様の熱烈ファンのHPC東京本部長
・チームねずみ女子
・丼様の元部下であるHIRO取締役
・HARIさん

にメールを転送した。



俺としては黙殺するつもりだったが
まぁ、そういう訳にもいかないので



「最高です!肌の色が美白ですね!お元気そうでなりよりです。」


とメールを返信しておいた。
(3月17日 深夜0時30分時点で未だ返信無し。)



それにしても丼様は何がしたいのだろう?



我が社の名物男であった彼が退職して
はや8ヶ月になると思うが、新しい職場で
イジメにでも遭っているのだろうか・・・。




と思う間もなく
丼様を『上司』と呼ぶという永遠に消せない
十字架を背負った悲劇の人

丼様を誰よりも知り尽くしている
HIRO取締役からメールが届いた。





私にも先程意味不明な電話ありました。

いきなり「どう?」って。

丼様が大阪・名古屋にいたころの「我が社」=良い会社
自分を辞めさせた「我が社」       =巨悪の根源



という丼様にとっての絶対的な公式を確かめたいみたいです。



「昨対80%らしいな~、大●(丼様が最後にいた支店)の人間から
 聞いたで~。」


「誰かやめてないか?」


ってかんじのことを延々一方的に話してました。




「そういえば、○○さんやめたみたいですよ~。」
 って話したら


うれしそう~な声で、

「あ、そう。なんでやろ?なんかあったんかな?」

 みたいな とぼけたこと言ってました。


最後の捨てぜりふは
「まあ、オレは辞めたけど、
 君は定年までがんばってくれ。」
でした。


さすが、比較的温厚だといわれるこの私を
ど真剣に「死ね!」って思わせた人間だと
改めて感心しました。














丼様・・・
あんたにゃ勝てないわ・・・。
「俺って子供の頃、パジャマじゃなくて

 ストーンとした、ワンピースみたいな寝巻き

 着てたんだよね。

 ほら、外国人の子供が良く着てるような奴だよ。」






休憩室で何気なく
天然・アルバイト主婦・神戸娘に
そんな話をしたら



「嘘ばっかり!」

「そんな訳ないやん!」

「似合いませんよ!そんなものは!」

と総攻撃を喰らった。



隙あらば噛み付いてやろう的な
彼女達の物言いに
上司としての人徳の無さを
改めて噛み締めつつ必死に抗弁する。




「本当なんだってば!

 ズボン履かないから股間がスースーするんだよね。

 あれって。妹達もみんなそれだったんよ。」





「そんな訳ないでしょう!


●外国の子供達=上流階級


という意識があるのか
「俺=育ちの良いお坊ちゃま」
と認めたくない様子がありありだ。


このLowerクラスの庶民がよ!



金持ちとかそういうのじゃなくて
母親の趣味だったんだと思うのだが
確かにこういう感じだったんだってば!










あの頃の俺は今とは違って
育ちの良さがそのまま顔に出たような
愛らしいルックスだったので
さぞ親も可愛かったことであろう。



まっ、今はブクブクと太り
インチキ臭いメガネをかけ
山ちゃんみたいになってるけどね。





「マネージャー、絶対にそれってネグリジェですよ。」



「そやそや!ネグリジェや!」


「いや~~~変態~~~~。」




メス供の攻撃は終わらない。







なぁ・・・そこまで嫌いか?
俺のこと?





人望の無さを思い知った一日だった。
『東京人は冷たい。』


『道を聞いても教えてくれない。』


巷でよく言われることだ。


19歳の秋、東京は中野で浪人生活を送っていた俺も
東京人の冷たさはハッキリと感じていた。


日本で一番乗降人数が多いとされる新宿駅を
利用していた俺。


「すみません、京王線の乗り場ってどこですか?」

田舎モノなので「どこ」「こ」にアクセントを置いて聞いてみる。



「あー?、ちょっと分かんない。」


こちらに興味を示すわけでもなく
言い捨てて足早に去っていくサラリーマン風の男。

「悪いこと聞いたのかな?」
意味もなく自分を責めてた純朴な当時の俺。



とは言え、地方から鬼のように人が押し寄せる
東京だけに変な奴も多い。


浪人時代の知り合いも街頭で
「アンケート取らせてください」
って言われて断ったら、張り手をされた、って言うし
都会は恐いし、いちいち知らない人に構ってはいられない
と好意的に解釈することにした。



自由な時間だけはたっぷりとある浪人生活。
ついついパチンコに興じてしまい
次の仕送りまで「サッポロポテト」と牛乳で過ごす極貧生活を送る
懲りない俺の生活の足は自転車だ。


俺のアパートは貴花田・若花田のいた藤島部屋も近くにあり
仮面ノリダーの撮影にも使われた商店街もチャリンコですぐだった。
(商店街の中にあった250円のタコ焼きは最高だったなぁ~)


夜になれば新宿の高層ビル群が燦然と輝く
俺の4畳半のアパート(風呂なし)、
「孤独は山の中ではなく街にある」(三木清の人生論ノート)

俺は孤独だった。


そんなある日、自転車でいつものように
フラフラしていると、やけに進みが悪い。
ペダルが重い・・・。


「あれ?タイヤの空気が抜けてらぁ~」


困った。


近くに自転車屋も見あたらないし
かといって「自転車屋はどこですか?」って聞いても
東京の人が教えてくれるとも思えない。

19歳の俺は、そこから更にあてどなく彷徨い
ようやく一軒の自転車屋さんを見つけた。


良かった(^^)


しかし・・・せちがらい大都会東京である。


全くの見ず知らずのこの俺に
快く自転車の空気入れを貸してくれるだろうか・・・。


当時、今とは違いウブだった俺のハートは少し震えた。


「すみませ~~~ん」


「はい。」


「あの~~~、自転車の空気入れを貸して欲しいんですけど・・・」


「いいですよ。これを使って下さい」


おお!!


東京の自転車屋さんで渡されたのは
俺が地元で目にしていた足で固定して
手を使ってヨイショ!ヨイショ!てぜいぜい言いながら
空気を入れるタイプ、ではなく
     ↓  ↓  ↓






ガソリンスタンドのような取っ手を握ると
空気がすごい勢いでタイヤのチューブの中に収まる
本格的なものだった。




この都会で、一見の客であるこの俺に・・・
こんな施しを・・・

うぅぅぅ~~~~。

慣れない一人暮らし
都会での孤独な浪人生活で心が荒んでいた俺に
そんな親切でさえ、身にしみた。


「ありがとうございました!




渡るい世間に鬼はなし!
やっぱり人間って素晴らしい

都会に咲く一輪の人情の花!

東京とは言え
中野には心と心の触れ合いが確実に息づいていることを感じ
感謝の気持ちで一杯だった。

都会も捨てたもんじゃない(涙)









そんな若者の感謝の意に
温かい瞳で「うんうん」と応えながら
穏やかな口調で店主は言った。














「はい、50円ね。」












田舎のみなさん、東京は恐いところです。

自転車の空気入れるのに金取りまっせ~~~~!!!






50円という金額に打ちのめされた俺。



俺の人生の中でも一番せつない出費だった。







  あれから14年経った今なら言える 「タダにせぃ!」と。
・・・続きから


目的のバスが来ない非常事態にもかかわらず
俺は大して危機感は感じていなかった。


たかが一日バスが来なかったくらい何だ?
次の日はいつもと同じように定刻にバスは来る。
深く考える必要もあるまい。


次の日も同じような時間で授業が終わり
いつもと同じように生徒と自転車を二人乗りして
バス停に向かった。



「先生、じゃぁな~~~」




「おう!寺岡も気をつけてな~~」


俺の自家用ハイヤーにやさしい声をかける。





・・・さてと・・・。




今日も寒い。
冬になるといつも思う。


夏のうだるようなあの熱さをどこかに密封して
冬の寒すぎる日に放出できなかなぁ・・・と。

夏には冬の冷気を缶詰か何かに入れて
俺の部屋で開けたいなぁ・・・だ。



・・・。




・・・。





バスが来ない・・・。



嫌な予感が頭をよぎる。


「おいおい、この時間のバスって無くなってしまったのか?」



時計を見る。
どうかんがえてもバスが来てないとおかしい時間だ。


冬の夜空は澄み切っていて本当にキレイで
オリオン座を見るたびに宇宙の神秘を思う。



しかし、そんなセンチメンタリズムを往復ビンタする勢いで

「昨日もバスに乗れなくて
今日もまたこの寒空の中、馬鹿みたいに突っ立っとかないといけないのか?

という怒りが足元から湧き上がってくるのを感じた。



もう少しだけ待ってやる。


こんな日もある。それもまた人生・・・。




・・・。



・・・。





・・・来ないぃぃぃぃ!!!。



40分くらい待ち、
次のバスに乗り込んだ俺はある決意をしていた。

最も考えていなかった可能性を確かめるのだ。


そして次の日
普段から早めに終える授業をさらに早く終わらせた。
自転車の二人乗りも猛ダッシュだ。



「先生、今日どうしたん?えらい急いどるなぁ?」



「そうか?まぁ気にすな!」




自分の足との会話も切り上げ
奴を待つ。



「もしかしたら・・・」



時間はいつもよりも更に5分くらい早い。
時刻表も全く変わっていないことを目視で再確認した。


時刻表の変更はない

⇒定時に来ないのはおかしい

⇒定時に来ない

⇒何らかのトラブルがあってバスが来られない。

⇒トラブルはそんなにないからトラブルである

⇒時間変更がしばらく続くのであればバスの時刻表には連絡事項くらいはある

⇒全く何の連絡もない⇒Why?Why?




そこで・・・だ。



「トラブルがあったのではなく、
ただ単にバスが時刻表を守らず早めに来ていたら・・・?」


もっとも考えたくなかった仮説だが
電車と違い割とルーズなバスのことだ。
可能性は0(ゼロ)ではない。



その刹那!
「ブロロロロロ・・・」という音と共に
バスが到着した。



時計を見ると
普段俺がバス停に到着する時間よりも3分は確実に早い。

俺はいつも3分くらい待つから、6分も時刻表より早く来ていたことになる・。



おんどりゃぁぁぁぁぁ~~~。



俺は怒りを懸命に抑え、バスに無言で乗り込んだ。


バスの運転手のマヌケ面を睨みつけながら
「江戸の敵は長崎で」という言葉が頭の中を延々と駆け巡った。


目的の駅に到着し
日頃であれば「ありがとうございます。」の声と共にお金を支払う
田舎バスの一コマなのだが、その日は投げるように入れてやった。


駅の公衆電話に走り、電話帳を乱暴にめくる。。



「・・・○○バス・・○○バスは?
電話番号は・・・08●●-2●-●●●●か?」




その番号を勢いよく押した。



「・・・はい、○○バスでございます。」


「あ~・・もしもし・・・
▲▲の停留所でいつも○:○○時に
バスに乗ってる者
ですがね・・・

オタクの時刻表、おかしくないですかぁ~~~?」




「はい?・・・と申されますと?」



「いっつも時刻表に間に合うように待ってるんですけどね
オタクのバス、時間よりも早く走ってるみたいなんですよ!
困るんですよね~~
こっちもオタクの時刻表を見て
信じて仕事を終わってるんだから!!
こんなことでいいんですか?」




「はい、はい、申し訳ございません・・・」




「僕ね~運輸省におじさんがいるんですよ~~。
そっちにオタクのいい加減なバスの件、話ましょうか?
営業の免許とか取り消されますよ!実際。」





「あの~お名前を~~~?」



「関係ないでしょ!」
とピシャリ!

名前なんて言うわけねーじゃん。
狭い地元では誰が俺を知っているか分からないし
善意の第3者ってことにしとけ!




「申し訳ございません。」



運輸省がそのバスを管轄しているのかどうか知らないし
そもそも運輸省にいっているおじさんがいる、なんてハッタリだ。


でも、それくらいカマさないと俺の憤りは納まらない。
電話口にいる人には関係ないかも知れない。
嫌な電話だろう。

だが当時26歳
頭に血が上った馬鹿にはそんなことを思う余裕は一切なかった。


「2度とないようにして下さい!」

受話器をガチャンと叩きつけ、意気揚揚と自宅に向かう俺。



そして次の日からバスは元のように、いや以前よりもピッタリと
時刻どおりにバス停に到着するようになった。



キチンと改善されたと見える。俺の電話を受けた人が
いい加減な運転手にキッチリ注意してくれたのだろう。



しかし・・・良く考えてみたら、
その停留所でその時間に乗り降りするのはいつも俺一人
運転手も心なしか俺に対して意識をしているような・・・。



そう、「運輸省におじさんがいる」「免許を取り消されるぞ!」
と散々文句をつけたクレーマー=俺と思いっきり特定されてしまっていたのだ。



何て言うか、すごく気まずくて
俺はその後しばらくしてバイク通勤に変えた。





新幹線通勤を始めてそろそろ一年・・・
俺の職場は最寄のJR駅からバスで3駅ほど離れた場所にある。


だから朝はバスに乗って通勤しているのだが、俺の住んでいる街とは違い
中規模都市ということもあってか沢山のバスが駅には来る。


事務所の入っているビルはその街でも割と有名なビルであり
近くに百貨店もあることからたいていのバスそこを経由して走っている。


元々が横着者である俺はいつも行き先を大して確認することなく
適当なバスに乗り込んで出勤している。


その雑な通勤が災いし、何度か全然違う方向に行ってしまい
タクシーを使っての出勤で余計な出費をしているダメな33歳。



今日はそんなバス出勤について考えたい。


今から7年ほど前、俺がまだ26歳の頃
学習塾の講師をしていた時のことだ。


教室が田舎にあった為
夜の9:00を過ぎれば電車は一時間に一本くらいしかなく
授業が終わってから40分くらいは誰もいない無人駅か
少し離れたコンビニで立ち読みをして時間を潰すしかなかった俺だが、
ある日、1kmくらい離れた場所にバス停があることに気づいた。


しかも授業が終わった後
10分くらい経った時間にバスが来るというではないか!?
早速、そちら方面に家がある生徒のガキと交渉し
100円払うから自転車2人乗りをさせてもらうことに成功した。


赤信号を待つ時間こそ
人生の中で最大の浪費だというポリシーを持つ俺が
時間の有効活用を喜んだことは言うまでもない。


とは言え、ガキと2ケツして目的のバス停に到着するのは
バスが来る3分くらい前なので
授業をダラダラやって延長でもしようものなら大変だ。


帰りの電車までの待ち時間が長いことを嫌がり
延長しがちだった授業も、早く帰れるルートを発見してからは
異常なほど早く終わるようになっていた。


そんなある日のこと。
バスが到着する3分間にバス停の前に立つ俺。



「先生、じゃあな~~~~」


「おう、寺岡も気ぃつけて帰れよ!」


ガキの背中が住宅街の角に消えるのをいつものように見送る俺。


いつまでもガキ相手の仕事をしている場合ではない・・・。
珍しく自分の将来について思案を巡らせていた。


そろそろバスが来る時間だ。
家に帰って何を食べよう・・・。


・・・。


・・・。



バスが来ない。


時計を見るも時間はピッタリだ。


田舎道を走る車はまばらだ。
夜の闇の中、ライトが何度も目の前を交差する。
しかしいくら目を凝らしてもバス特有の独特の車体は影も形も見えて来ない。


「遅れてんのかな?」


チッと心の中で舌打ちをする。
以前、誰かから

「バスというものは遅れることはあっても早く来ることはない。」

と聞いていたので、ややイラついたが待つことにした。


・・・。


・・・。


来ない!!


時刻表の時間より10分は過ぎている・・・。




一体、何があったんだよ!!こんな田舎道でよぉぉぉ!!!




その時は冬場であり、夜風が身を突き刺すように寒かった。


奥歯がカチカチと鳴る・・・寒い。



でも、待ってみた。
バスのヘッドライトの灯りが道路の彼方に見えることを信じて・・・。



・・・。


・・・。



来ない・・・。




すでに30分は過ぎていた。
街頭もまばらな一本道
俺の耳は寒さで赤く変色し、身体は冷え切っていた。


その15分後
やるせない気持ちで立っていた俺の前に現れたバスは
確実に一本遅れの時間のバスだった。


2~3人くらいしか乗っていない
暖房の効いたバスの中で
身体中に血が通っていくのを感じながら俺は
「なぜバスが来なかったか?」について
思いを巡らせていた。


「時計が狂っていたのか?」

「時刻表に改正でもあったのか?」

「運転手にトラブルでもあったのだろうか?」



しかし明確な答えは出なかった。





・・・そして次の日に俺は真相を知ることになる。
「もしもし・・・岩○様ですか?
 私、●●の石○と申しますが、お電話を頂いたそうで・・・?


営業用の声色を出す。



前任の支店に
俺を名指しで電話をかけてきたド厚かましい岩○。
ムカつくし、怒鳴ってやりたいところではあるが
万が一、全く別の人だったらいけないので念の為だ。



「はい・・・あの・・・」




「はい?





「石○さんでしょうか?」




「はい、そうですが?



明るく元気良く!お客様に失礼があってはいけない。
社会人の基本だ。



「あの私・・・高校生の時にご一緒させていただい・・・」



やっぱりか!!(`´)







「お~ま~え~か~~~~~?。





声の感じ、まどろっかしい喋り方
本来、気はメチャクチャ強くプライドも高いくせに
わざと天然ボケのフリをするしたたかさを持っている岩○。
俺はイタズラで出したハガキを警察まで持っていかれた
苦い記憶を忘れていないぜ。


人の職場に
しかも前の職場にまで電話をかけてきたという
その図々しさに改めて心底腹が立った。



「何の用よ?



「いえ、あの・・・お話したくて・・・」




「はぁ?何を言ってんの?バカじゃねーか?お前?



俺の怒気をはらんだ強い口調に
黙って作業をしていた天然娘が
ビックリした顔をしてこっちを見た。





「お前、どうやって俺がここで働いてるの調べたんよ?




「いえ、あの・・・Yahooで検索して・・」



「はぁ???何でYahooで検索して俺の職場が分かるんよ?」

そういいつつも、
以前に自分でgoogle検索したことがあり
支店と責任者名の俺の名前がヒットするのは知っていた。
みんなもコッソリやったことあるでしょう?


・・・というか勝手に人の名前を検索すんな!!!



「・・・で、何の用よ?






「あの、いえ、何をしているのかぁ・・・と思いまして・・・」




「お前、何言ってるの???何で職場にかけてくるの?




「石○くんの携帯番号を知らないですし・・・。」



「当たり前じゃん!!!教えてないもん。
どうでもええけど、何で敬語でしゃべってんの?」




「なんか、緊張してしまいまして・・・」




「意味が分からんわ。」

吐き捨ててやった。




それにしてもさっきから
「誰と何の話をしているんだろう?」と
こっちをじっと見てる天然娘と
黙ったまま耳をダンボにして聞いているチマチマが
どうにも気になる。


別れ話がこじれて
会社まで女が電話をかけてきて
それに逆キレしている公私混同のバカ上司。


そんな風に思われていたら・・・

しかも相手は岩○。
考えただけでも立ちくらみがしそうだ。




誤解されても嫌なので
少しトーンダウンをして冷静に話してみる。




「ふ~ん。まぁええわ。ところで今、何してるん?」




「今、病院に入ってまして・・・」




「へっ?病院からかけてんの?」





「はい・・・」





社会人なら
私用電話を職場にしないことは基本中の基本。
しかも俺とは10年以上も音信不通の関係である。
普通の人ならまずそんな不躾なことはしない。
常識だろう。

それをものともせず、職場にかけてくるなんて・・・
結局、何の用事なのかもさっぱり要領も得ないし。




はっ!?病院って・・・????





「精神病院か?」



こういう場合は直球勝負だ。
それならそれなりの対処をしないと
どんな面倒ごとが待っているか分からない。
それにしても朝から晩までひたすら一生懸命働いている
この俺がいったい何を悪いことをしたと言うのか・・・。




「いえ・・・婦人系の・・・」




「あっ、そう。そうか、そうか」


少しだけ安心したが、仕事中に
岩○と電話してる場合じゃない。
人生の何分かを確実に無駄に遣っている。



「あの~。携帯の番号教えてもらえますか?」



「何で?」



「・・・。」



誤解の無いように言っておくけど
彼女は俺に対して恋愛感情は全くない。
昔からずっとそうだ。


何と言うか、変わり者の女で
自分は「特別な人間」だと思っている節があり
「そんな私が一目置く男子」=「仲間」
という妙な思い込みがあるようなのだ。


モノの見方がどうにも変わっていて
性格が歪みまくって斜に構えていた
何もわかっちゃいないガキの俺を
学生時代は「俺=凄い人」と勝手に決め付け
英雄視していた。


そしてこいつの妄想のせいで
俺がどれだけ迷惑を被ったか・・・。


俺の中では単なる知り合いなのに
こいつの「石○くんは凄い人」という馬鹿な発言で
痛くも無い腹を探られ、二人の関係を邪推をされた時期もあったのだ。
俺にとってみれば交通事故に遭った様なものだった。



サコッペやツウ、山さんなんかは分かってくれると思う。



とにかくこれ以上話していても埒があかないし
天然娘やチマチマに誤解され
あちこちに喋られては一大事だ。
泥沼に入っていくような感触を覚えたので
強引に終わりにすることにする。



「わかった!じゃコッチからまた連絡するわ!」



「えっ?、連絡先を教えて下さい・・・」



「うんうん、とりあえずコッチからまた電話するし・・・」





「ウフフ、石○くんからは絶対に電話かけて来ないと思うので
教えてく・・・」





「あははは、そんな訳ないじゃん!
そっちの番号を知ってるしメモにも控えてる。

またヒマでヒマでどうしようも無い時に、
もしかしたら連絡するわ!」



「え・・・」



返事も聞かずに切ってしまった。



そして電話番号を書いたメモを
グチャグチャに丸めてゴミ箱に捨てた。



ヒドイと言われてもいい。
傲慢と言われるならそれも結構だ。



俺はこの年にもなって岩○なんかと関わりたくない。
今さら何の発展性があるというのだ?

このブログを読んでくれている一部の同級生なら
きっと分かってくれると思う。




「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた、旅人なり。」


友達を選ぶ年齢になったってことだね。






   現在の岩○想像図。もう二度と会うこともないだろう・・・。
ある日、社内電話が鳴った。


「石○マネージャーですか?
今、うちの支店に
岩○ユキヨ様というお客様よりお電話が入っておりまして、はいッ!
石○マネージャーの連絡先を聞きたいと言われましたので、はいッ!
こちらからご連絡を差し上げるとお伝えしておきました。」



いつもながら何かに追われているような
切迫した声を出すのはビッグムーン君だ。


約1年前まで俺がいた支店に
お客から電話が???
営業か?はたまた以前にトラブったお客か?
しかし全く持って心当たりはないのであった。



そもそも俺の人生の中で岩○という名前で
思い当たるといえば高校時代の同級生の女しかいない。
下の名前ってなんだっけ・・・?。



ちなみに岩○とは大学時代にたまたま同じ関西方面だったのが縁で
友達の女のコを紹介させたり、
こちらからも浪人時代の仲間である池ちゃんを紹介したりと割と交流があった。
でも10年くらい音信不通でどうしているか知らないし、知りたくもない。



そういえば岩○って
池ちゃんの童貞喪失の相手でもあったし
あのヨシアキともこっそり付き合ったりと
俺の人間関係を妙に侵食する女だったなぁ・・・。



大して楽しくもなかった学生時代の記憶に
一瞬嫌な気持ちになったが気を取り直して聞いてみた。



「こっちの番号を教えたの?」



「いえ、教えてないです。向こうからは電話番号を聞いておりますので、はいッ!」



「ふ~ん。教えて」



「はいっ!090-●●●●-○○○○です!」



「ありがとう。じゃ、こっちからかけてみるわ」



「はい!はい!」


「はい!」を連発の礼儀正しいビッグムーン君。
すごくいい奴だと思うんだけど
受話器の向こうでは背筋をピーンと伸ばし、
しゃちほこばっている様子が見えるようだ。

俺たちは軍人ではないし
上官と話している訳じゃないんだから肩の力を抜こうよ。


メモ書きの電話番号を社内の端末で検索をかける。


「該当者はなし」



誰なんだ?この岩○って人は?


しかし、俺の中ではほぼ確信していた。
間違いなくあの「岩○」だろう。


数年前にヨシアキと話をした時に

「そう言えば岩○さんから久しぶりに電話がかかってきてさぁ~
相変わらずグダグダな生活を送ってるみたいなんで説教してやったよ~~、
石○クンとも「連絡取りたい」って言ってたぜ~~。」



「お前、俺の番号、教えたの?」



「まさか!教えるわきゃねーじゃん。」



「そっか、ありがとう」



そういう会話をした。思い出した。



しかし、何で俺が現在勤めている会社を知ってるんだろうか???
俺の記憶が確かなら
奴は高校時代の人脈を断絶した大学生活を送っていたはず。

人づてに聞くにしても、
俺の周りにはあいつと情報交換をしている奴がいるなんて
聞いたこともない。
謎だ・・・。


そもそも10年くらい音信不通の同級生が
会社にまで電話をかけてくるとは尋常ではない。
何かあったのだろうか?



高校時代から「石○くんを尊敬してる。」と
こちらが寒イボが出るような発言をしていた岩○。


同じクラスになったこともなければ
仲良くしていた訳でもない。
はっきり言って笑いのネタにしていただけだ。


髪がすごくキレイで、背後から見ればいい女だが正面から見れば・・・。
後輩から「見返りブス」と渾名をつけられていた岩○。


大学時代、イタズラで岩○の名前で結婚相談のハガキを送ったら
それをもって警察に駆け込み
筆跡鑑定を依頼し断られたエキセントリック岩○。



池ちゃんの童貞喪失に協力して、やることはやったくせに
「こんなことをする為に大学に入学した訳じゃない!」と泣いた岩○。


「石○くんてベジータ に似てる。」
とドラゴンボールのキャラクターに俺をなぞらえ
嬉しそうに語っていた岩○。



俺の岩○に対するイメージはそれだけだ。
何の用だ?一体・・・。



しかし前に進まねば・・・。

「184」を押しこちらの番号が出ないよう
確認した上でメモに書かれた電話番号に電話をかけた。


続く・・・。






   山さんにはビッケと呼ばれていた高校時代の岩○。
「お宮は『バービーボーイズ 』知ってるの?」

昨日の流れからは聞いておかねばなるまい。






「いえ、僕、知らないですぅ・・・
何ですか?バービーボーイズって?」



そうか・・・24歳は知らないんだ。








「中○くんはどう?知ってる?」
チマにも聞いてみた。



・・・う~ん・・・あんまり良く知らないです。




27歳も知らないんだ・・・。
こいつの場合は地元がド田舎で
TV局も少ないって言うハンデもあるしな・・・。




「どっちもバービーボーイズ、知らないなんてね~?
ショックじゃないですか?マネージャー。
お互い、もうそんな年なんですよ~~。」

アルバイトの主婦は今年32歳。
リアルタイムで知っている世代だ。



俺とは同い年の天然娘。
彼女もバービーボーイズくらいは知ってるでしょう。



さっきから
うつむき加減の天然に話し掛ける。


「○原さんはバービー知ってるよな?」



「バービーボーイズには・・・思い出がありすぎて・・・
本当、色々あって・・・・
今、思い出して浸ってるんです。
話しかけんといて下さい。」



空ろな目をして答えた天然娘は
そのままプィッと横を向いた。





へっ!?



たっぷりの思い入れに驚きながらも
「歌は世につれ、世は歌につれ・・・」
というどこかのアナウンサーの名調子を思い出した午前。





そうそう、昨日見たビデオ

バタフライ・エフェクト 』これはお奨め。


大して期待もせずにTSUTAYAで借りた作品だけど
なんだか胸を締め付けられた。



ビデオを観すぎて少々の作品では
展開や落ちを読んでしまう癖のある俺でも
最後まで飽きることなく鑑賞できたこの作品。



ここ3ヶ月の中では一番の良作だと思います。
暇な人は是非。