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DADA ~KuRU/kurU RE; SS~ Episode1  #29

 

    ◆ ◆

 

「いや、死ぬかと思った。」

「良かったね、兄ちゃん」

カミロは、あの後ペドロの急降下爆撃の様な着地に耐えられなくなったエレベーターは真っ逆さまへと落ちていった。

気がついたのはつい先ほどの事。どうやら地下一階にまで堕ちてきたらしい。どうやってかは知らないが、何故か部下も無事だ。

その後、一回のエレベーターの扉をペドロの腕力で無理矢理に開けなんとか外に出たが、普通の階段への扉は何故か既に閉ざされており、いろいろ探しまわった結果、結局業務用階段の扉をペドロが破壊して上に上がる事になった。

そうして階段で上がって今ちょうど2階に辿り着いた所である。

「ん?兄ちゃん。なんか食べ物のいいにおいするよ」

「あん?そういえば、2階はレストランフロアだったな。きっとそれだろ?」

「オレ、ちょうど腹へってたんだよ」

「我慢しろ」

と、すぐさま弟を静止するが、どうもこのペドロは本能に弱いらしく、こう言う時ふらふらと勝手な行動をとる癖がある。

そのまま、カミロの忠告も聞かずに扉を開け、其の臭いを辿って―。

「おい、ペドロ!何やってやがる!

ガチャリと開けた扉の先

 

―「「「「あ…」」」」

―「「「あ…」」」」

 

と、互いにであってしまったのである。

 

◆ ◆ ◆

 

お互い予想外の遭遇に硬直する。

最初に口を開いたのはやはり姦しい女だった。

「あ、あんた達、どうやって出てきたのよ!」

「そりゃ、こっちの台詞だ!なんでてめぇらこんな所でのんきに肉とか喰ってんだ?あのコロンビア人の連中はどうした!?」

と、こちらを指差しながら怒鳴るカミロにボブが、パソコンでコメディ番組を流しつつ「FARCの連中ならレターマンにガガ出るから帰るってさ」などと、やる気の無い声でぼそっと呟く。

「ふぜけんな!コロンビアンがあんな寒い番組見て喜ぶかよ!てめぇは喰うのをやめろ!デブ!」

「え?駄目なの?」

「ペドロ、いいからお前は黙ってくれ」

と、食事をやめないデブに、今まさに、何か食べようと冷蔵庫を物色していたペドロとカミロはいろいろ憂鬱になる。

そこへ、要約食事をおえたデブがコーラ片手に。

「ああ、お前今更間あるから、もう帰れ。アディオスアミーゴ。もうくんじゃねえぞ~」と、手を振る。

「なんだと!クッソ、どいつもこいつも雑魚扱いしやがって!」

と、ついにカミロが拳銃を抜いた。

それに怯え、古沢は後ずさりながら怒鳴る。

「そうよあんたら!相手が雑魚だからって丸腰の癖して挑発してんじゃないわよ!」

「んだと、ジャップ、てめぇまで!―ん?丸腰だって?」

と、

「おい、ボンバヘッド、このジャップの脳みそブロンドなんだけど?」

「私は黒髪よ!」

「バカって意味だよ、糞女。」

HAHAHAHA!さて、年貢の修め時だぜ!そこのデブ。あと、日本人。とりあえず、例の紙袋を返しな。10秒だ。」

と、それを聞いて、突然調子に乗り出すカミロに、其の部下達もコレはいけると確信したのか、扉の向こうから武器を構えて出てくる。

「10、9、8、兄ちゃん、8の次ってなんだっけ?」

「7だ弟―いや、お前は数えなくいい」

弟に引き継ぎカミロはカウントダウンを始める。

「とか、なんとか言ってきてるぞ。ボンバヘッド。」

「何してんのよ!この糞デブ!あんたが挑発するから!」

「この、女もさらっと責任転嫁するあたり馴染んできたなぁ」

「てめぇら、無視すんなぁ!もう、めんどくせぇ、よく考えればデブさえ殺せば勝ちのゲームだ!死ねぇ!」

DADA ~KuRU/kurU RE; SS~ Episode1  #28

 

    ◆ ◆

 

SIZZLE!(じゅううううう!)

 

鉄板の上で肉を焼く音が聞こえる。

UDXの2階のレストランでボブはビールを片手に出された肉をほおばっていた。

「あんた、なんであんなグロイことしたあとに普通に肉喰えるのよ」

「あん?関係ねぇだろ。腹が空いたら人は喰うもんだ。ジャップ」

「いや、もういいわよ。あんたらクズにそんな事を期待するだけ無駄だもの。」

どうして、私、肉なんか焼かされているのかしら―古沢美加子はひとりごちた。

腹が減ったボブとトニーは一回の敵を蜂の巣以下のミンチにした後、ステーキハウスに押し入り、こうして古沢に肉を焼かせているのである。

なお、例の爆弾は今もカウントダウンをしている。

「それにしても、あんたが凄腕のハッカーだっていうのはよくわかったわ。けれど、いくらなんでもココまで自由にこのビルの何もかもをその場で掌握出来るのはおかしくない?ちょっと、都合が良すぎるわよ。スタンドアローンのパソコンも有線無しで掌握してたし。」

「何を言ってる、当たり前だろ。何しろここUDXの情報端末やセキュリティーシステム、管理システムプログラムを作ったのはオレなんだから。」

「はぁああ!?」

今この犯罪者はなんと言ったか?

こんな危険人物にシステムの作成の依頼を頼むものなどいるはずは無い。

「もちろん、この名で売っているわけじゃないさ。それに直接依頼された事も無い。ゴーストライターならぬ、ゴーストエンジニアってところだな。

いっておくが、そんな場所、ココ以外にも世界中にたくさんあるぜ。こんなものは基本中の基本なんだよ。単純かつ明快、だが誰も気づかない。出来上がったものを崩すより、作る時に最初から穴をあけた方が簡単なのは当然だ。」

呆然とした。当たり前と言ったが、本当に当たり前すぎる自然な結末だ。

そういう風に作ったのだから、そうなるのは確かに当たり前だ。

「そろそろトニーが帰ってくるな」

「おう、焼き上がってるか?」

と、トニーがレストランに入ってくる。私は、雑に盛りつけ下ステーキと、適当に上げたフライドポテトを目の前にどかっと置いた。

「どうだった?FARC

「さすがだな、手持ちのマガジンは全弾使い切った。もう何も出てこねぇよ。」

さっき人を殺してきたばかりだというのに、この男はまるで一仕事してきた様なすっきりとした表情で帰ってきたのだ。

もはや、この男は人間ではない。

「で、本当の所、あのフィギュアなんなわけ?革命がどうとかわけのわからない事言ってたけど。あんたらは、そんな事言わないでしょ?」

と、古沢は訪ねた。

すると、ボブは一つ思案した後。

 

「お前、ここ数年で秋葉原に外国人が突然多く来る様になったと思わないか?」

と、切り出した。

 

◆ ◆ ◆

 

確かに増えている。

ただ、それは日本の電機メーカーがブランド化されている事。また、秋葉原の珍妙なサブカルチャーが娯楽として外人に浸透してきているからだと言われている。いまや、秋葉原は外国人が一度は日本で生きたいショッピング街であると同時に家族でいきたい観光スポット(見せ物)なのだ。

「だが、ちょっと待て。秋葉原で売っている様な商品は、本当に他の街でも手に入らない様なレアなものか?普通にそこら辺のビッグカメラなりヨドバシなりいけば秋葉原でなくても東京ならデューティーフリーで買えるだろう。」

「なら、私には、わかんないけど、オタク文化目当てなんじゃない?」

「オタク文化目当てっていうが、ほとんど全てのコンテンツが日本語仕様だ。海外語訳したものは逆に日本でかうと高いくらい。そもそも家族できたいって本気か?そこら中でレイヤーが生パンツ写真で撮らせまくってたり、半分ポルノみたいな画像や映像、AV女優の撮影会がおこなわれるような街だぞ?どれだけ子供の情操教育に良くないんだ」

「じゃあ、オタクが増えて」

「オタクは確かに増えたが、わざわざ日本に来れる金持ちのオタクがそんなに多いわけが無いだろう。」

「じゃあ、何だって言うのよ。」

「それが、アレだ。」

と、ボブは紙袋を指差す。

「今、この街は表じゃ萌えだとか、オタクだとかで騒いでいるが」

「裏でも騒いでるぜ」―と、ちゃちゃを入れる豚は放っておいて。

「アメリカ、ロシア、EU諸国、中東、中国、南米。世界各国の情報機関や、軍人が集まってきて毎日の様にとあるブツの争奪戦を行っているのさ。全てはそれら海外勢力のカモフラージュの宣伝なんだよ」

「だから、そのブツってなによ」

「技術、データ、サンプル。いろいろあるが、それらを俺たちは太陽圏外物品と俺たちはよんでいる。」

「つまり、何よ」

「現状地球人には到達出来ないオーバーテクノロジーの巨大な取引所なのさ。ここは」

と、それだけ聞くと古沢はぽかんとし、突然笑い出した。

「ちょ、ちょっとまておかしい。笑い止まんない。つまり何?エイリアンの技術を奪い合ってるの?あんたらMIB?あははは」

「笑いたい気持ちもわかるが、今はコミックじゃない『本物のアメリカンヒーロー』が暴れ回っている様な時代だ」

確かに、CNNをのぞけば、ココ最近はマスク・ド・カーネルやゴライアスといった昔のアメコミに出てきた様な生き物が暴れまくりニュースにならない日は少ない。

「あいつらが、まさしくこれらの技術の結晶なのさ」

と、そこまで聞いて私は改めて笑いが止まらなくなった。

「す、スケールでかッ、あははははは、駄目、もう限界!あはは!」

「だろ?こいつはこれでなかなかジョークが決まってるのさ。」

と、トニーもHAHAHA!と笑う。

どうやら、本当に冗談らしい。

「さて、後はあの爆弾が爆発する頃にグラシア兄弟にお届けするだけだな。

と、その時である。

 

厨房側の扉がぎぃっと開いた。

 

DADA ~KuRU/kurU RE; SS~ Episode1  #27

 

「あああああああああああああ!!!!!!」

 

と、ダリオは携帯を床に叩き付け潰した。

もう、見ていられなかった。聞いていられなかった。なにより、信じられなかった。四肢をバラバラにしながらも誓いを口にした友人はその後も辱めをうけていた。仲間を殺されただけでも脳が沸騰しそうな程の怒りに見舞われていると言うのに、もはや吐き気すら覚える憎悪が彼を支配した。

 

しかも、それは部下達の携帯電話にも送られてきている。

その蒼白になった顔を見て、冷静にならなければと思い出す。

 

ぐちゃぐちゃな思考の中で、それでも必死に相手の戦力を分析しようと心を落ち着かせるが、なかなか定まらない。だが、明らか事はわかっている。

部下達の携帯全てにハッキングされていると言う事。

管理センターの電子機器をハッキングすることはともかく、この無線ジャックは電子世界とは関係がない全く別の工作技術である事。

その上相手はこちらの情報かく乱を正確に行い、位置まで認識していた。

電子戦ではない―情報戦全てに置けるプロだと言う事だ。

 

ネットなんかじゃない。支配(ハック)しているのはこのビルのまるごと全てだ。

エレベーターの止まった階層がめちゃくちゃだとの報告が一度あった。おそらく、エレベーターの点灯表示などいくらでも変更できるのだろう。

やつらは、17階どころか2階で既に降りてあの車両を奪い、上にいると信じた自分たちを嘲りながら蹂躙したのだ。

「このビル自体が奴の腑。俺たちは自分から喰われに言っていたって言うのか。」

「そう言う事だなぁ。ダリオ」

「お前らは―いや、お前は何者なんだ」

「唯の便利屋だ。お前達みたいに理想なんてものには欠片も興味が無いゼニゲバだ。難しくないだろう?」

「素人に、こんな真似が出来る分けないだろう?」

「素人なんて言っちゃいねえよ。散々色々やってきたぜ?3年前の大停電なんてみものだったし、ああ、ありゃ記録に無いな。だったら、しょぼいけど、5年前のペンタゴン単独ハッキングとかか?」

確かに、後者の方は聞いた事がある。だが、あれはアルカトラズにぶち込まれているはずだ。

「ボブボマー…」

世界最悪のハッカーとして5年前の其の事件を最後に全く噂を聞かなくなった男だ。ハッカーであり、クラッカーであり、ヴァンダルであり、フリーカー。

時にホワイトハットであり、ブラックハットでもある。世界の電子世界でやりたい放題の限りを尽くした危険人物(ウィザード)である。

「さて、そろそろお前の隔離を解いてやろう。さっきから呼んでるぜ?隊長殿。」

すると、無線機から突然銃撃音がけたたましく鳴り響いた。

「隊長、こちらはもう6名やられた!東側、誰でもいい!こちら交戦中!」

「マルコ!どうした!?」

「!?ようやくつながった。隊長!こちら交戦中!もう6人いや、7人やられてます!バケモノだ、なんだ!この悪夢は!」

「報告になっていない!相手は!」

「一人!白豚です!次々仲間が―ぐぁ!」

「マルコ!どうした!マルコ!」

と、その音声を最後に再び無線はジャックされる。

「さて、ダリオ。2001年のサンビセンテデルクアガンの事は覚えているかな?」

「おい!お前ら!何をしている!」

無視してボブは続ける。

「当時、お前の所属していた部隊は全滅しているな?恋人に散々泣き言を言っているのが、メールに残っているぜ。随分と悪夢にうなされたみたいじゃないか、顔に似合わず繊細な奴だ。コロンビアン。似合わないぞ?そんなんだから生き恥晒して生き残り、恋人にまで逃げられるんだ。」

「急に昔話をしだしてどうしたっていうんだ?」

「いや、何。数奇な巡り合わせだと思うぜ?ちょうど、うちの相棒もそこに参加していたらしいぜ?アカは赤く染めるもんだと意気揚々とな。よかったじゃないか、ラッキーチャンスだ。ダリオ。仇討ちさ」

ガコン、と、防火扉が少し動いた。

「あの時、たった一人のバケモノに全滅させられたお前のお友達に花を手向けてやれよ。上官の脳天が弾けるのを見たはずだ。信頼した友が切り裂かれるのを見たはずだ。阿鼻叫喚の絶叫を聞いたはずだ。さぁ、思い出せ。」

 

―ぎぃぃぃぃぃ。

 

と、扉が開いた。

そこには、白豚が立っていた。其の太い足が死体となったマルコを踏みつけている。

 

「さぁ、悪夢をもう一度だ。ダリオ。『トニー』とちゃんと『楽しめよ』」

 

「『ボブ』と『トニー』、『BT』。ああ、そう言えば変な噂があったな。そういうことか」

 

ダリオは思い出していた。もはや、自分の心を支配するのは怒りではない。あの時散々縫い付けられた絶望と恐怖だ。

もはや、全てはあの悪夢の再現。

 

再現ならばーこの先の結末は少ししか違わないはず。

 

この逃げ場の無い空間で

 

―こんどは生き恥をさらす事は無いのだから。