人体には全身に600個以上の筋肉があると言われています。その名前からは、筋の部位や働きが分かるものが多いのですが、ヒラメ筋のように、形状から命名されたものもあります。
筋肉の中で唯一、果物の名前が付けられた筋があります。それは、梨という字が入って「梨状筋(りじょうきん)と言われる筋です。これも見た目によって決められたのですが、梨と言っても日本の丸いものではなく、西洋梨の形に由来しています。
梨状筋は骨盤の後ろにあって、殿部の大きな筋肉の奥に位置しており、股関節を回旋させる運動に関与する小さな筋です。哺乳類においては、尻尾の退化によって弱くなったため、四足獣ほど強力な筋ではなくなっています。実際の生活においても、重要な役割はありません。しかし爬虫類や両生類では、移動動作で大いに活躍している筋なのです。
人間においてこの筋が問題になるのは、隣接する坐骨神経を障害した時です。この筋には形態異常が多くて、神経との位置関係によっては、足に痛みやしびれを生じる障害を来す可能性があり、時には手術を要することもあるのです。退化した筋とはいえ、名前のように甘く考えてはいけない筋なのです。