メロメロパーク
2005年06月05日(日)

短編 「真理子 3」 最終章

テーマ:短編  1

母の喜びようが、文章から伝わってきた。
妊娠がわかった次の日には、父と一緒に乳幼児服を見に行ったりしている。
結婚し、2年目の妊娠ということになる。

私には、本当に兄弟がいたのか。
何故、別れて暮らさなくてはならなくなったのか。
はやる気持ちを押さえ、日記に眼を走らせる。
ひと月後、母は早くも名前を考えはじめていた。
男の子と、女の子の名前。
5通りずつ考えていた。
月並みな、5通りの、男の子の名前。
私は、5人目の女の子の名前を見た時、背中に冷たいものを感じた。
一人目から和子、加奈子、香奈枝、真奈美。
最後の名前は、真理子、だった。

一瞬、何のことかわからなくなっていた。

子供の頃、一緒に遊んでいたあの真理子は、私の姉だったのか。


「何やっているのよ。あなた」
妻の声で、現実に引き戻された。
今行くからといい、また日記に眼を戻していた。

幸せの、絶頂のような言葉が、毎日のように並んでいる。
明るい色さえ感じた。


その言葉がある時、急に暗い色になった。


どうなっているのだ。


流産。


そう言葉が記された後、数か月分の日記が空白になっていた。



飯を腹に詰め込んだ。
事実、味などほとんど感じなかった。
箸が止まり、妻がどうかしたのかと声をかけてくる。

娘が叫び声を上げ、猛然と私の前を走り抜けて行った。
飛行機のエンジン音だな。
娘の発する擬音を聴き、なんとなく思った。



娘が急に大人しくなった。
様子を見に行く。
玄関で佇んでいる娘が、言った。

「誰かいる」

突き出された指の先へ視線を向ける。


誰もいない。

またかと思った。

以前も、誰もいないのにママだ、と玄関で言っていた。
こういう時は、否定してはいけない。
話を聞いてやることだ。
そう、妻に言われていた。

優しく、娘に話しかけた。
「誰がいるの」




「おねえちゃん」


娘が言ったと同時に、私は思わず玄関のドアを開けた。


明るさに眼が眩んだ。
白いワンピース姿の少女。
刹那、見えたような気がした。
幻に違いない。
自分に言い聞かせた。


娘は、玄関から飛び出し、靴も履かずに庭へ躍り出て行った。

また、幻さと思ったが、もう一人の自分が心の中で呟いていた。

約束通り、また会えたね。

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2005年06月04日(土)

短編 「真理子 第2話」 訂正版

テーマ:短編  1
初めて会ったのは、一人、公園の砂場で遊んでいるときだった。

近所の悪ガキに、よく苛められていた。
私は彼らを避けるように、公園と呼ぶより、空き地と呼んだほうがよさそうなここで、一人遊んでいた。
「いつも一人で遊んでいるの」
声をかけられた。
私より、五つは年上だと思える少女だった。
私は幼稚園に通い、来年小学校だった。
何故か、怖くなかった。
同じ年頃か、自分より年上の子が怖かった。
苛められると思ってしまう。
私の顔を覗き込み、微笑みかけてくる。
眼が優しかった。

名前は真理子。

彼女は、地面に木の枝でそう書いて、言った。
私もその下に、真人と書いた。
自分の名前は、母に教えられていて、漢字で書くこともできた。
それだけで、自分の名前以外書けないし、読めもしなかった。
それでも、女の子の名前の真という字が、私の名前の真と同じだという事はわかった。

気が付いたら、いつも一緒に遊ぶようになっていた。

まりちゃん。

私はそう呼んで、彼女を姉のように慕った。

姉がいれば、多分こんなだろうと思った。
いつもやさしくて、いい匂いがした。

彼女になら、なんでも話すことができた。
将来なりたいものは宇宙飛行士。
父は大きな会社で、工場を建てる仕事をしている。
母はいつも優しくて、おいしいハンバーグを作ってくれる。
「優しいお母さんと、お父さんなんだね」
そういって、微笑んでいた。
それでも、父と母は時々喧嘩をして、それがとても嫌なのだというと、辛く悲しそうな表情をした。

「真理ちゃんは、どこに住んでいるの」
いつも聞きたくて、なかなか言い出だせないでいたことだった。
近所に住んでいる気配はなかったからだ。
彼女は、黄昏れる町並みを指差して言った。
「あの河の向こう側」
指差す方をいくら探しても、河などはなかった。


彼女と一緒に、ブランコで遊んでいるときだった。
「お隣のヒロシ君、今度誘ってみよう。そして3人で遊ぼうよ」
かすかな、嫉妬にも似た感情が込み上げてきた。

「あいつ、いつも一人で遊んでいて、気持ちわりいから、、」

言って、自分も嘗てそうだったと思い、口を噤んだ。

ヒロシは祖母と二人で暮らしていた。
両親はどうしているのか、よくわからなかった。
私達がヒロシの家を訪ねたとき、ヒロシの祖母はちょっと涙ぐんでいた。
孫の友達が家にやってきたと思い、うれしかったのだろう。

それからは、いつも3人で遊んだ。
一度、近所の悪ガキが公園に来て、私達を追い出そうとした。
私とヒロシは、まるで見栄を張るように、真理子の前に立ち、悪がきどもを逆に追い返したのだった。
以前の、弱虫で孤独な少年では、もうなかった。


真理子が現れない日が多くなった。
最初は、ひどく寂しいと思ったが、ヒロシがいたので、やがて真理子が現れなくてもそれほど寂しくはならなかった。

ある日、真理子は私達の前でこう言った。

「引っ越すことになったの。多分、、、」

そういって、真理子は足元に視線を落とし、靴の先で土をちょこちょこと蹴っていた。

「真人君とヒロシ君が大人になったとき、また会えるかもしれない」




私は、真理子の言ったとおり大人になっていた。
住宅ローンに追われ、妻に小言を言われながら、小さな幸せを噛みしめるように生きていた。
日々を生きる。
そうとしか、言えない。
これからも、多分、貧乏でも裕福でもない、平凡な人生を歩んで行くのだろうと思う。

「ご飯出来たわよ」
妻の声だった。
わかった。短く言いながらクレヨンで書かれた絵を片付けた。
ダンボールを持ち上げた途端、底が割れて中のものがこぼれ落ちてきた。
軽く舌打ちをして、散らかったノートらしきものに眼が留まった。
思わず手を伸ばしていた。


母の残した日記だった。


こぼれ落ち、開かれたままになっているページに視線を這わせた。
私が生まれる6年前の日付が、ノートに記されている。
すばやく数行に、眼を走らせた。
手が震えていた。

妊娠した。

その二文字が網膜に焼き付き、残像となって揺れていた。



第3話に、続く。
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2005年06月03日(金)

短編 「真理子 第2話」

テーマ:短編  1
書き直します。
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