孤独な道標 【序章】~出逢い~
序章
≪出逢い≫
4年前、寒い雪が散らつく2月の深夜、わたしたちは出逢った。
いや正確には初めて逢ったのは私の方だ。
お酒好きだった私は仕事帰りに家の近くのBARに立ち寄り飲み歩きをして帰宅するのが日課にしていた。
そこで時々、そのBARに立ち寄っていたのが淳介。
となりに座った淳介は私に話かける。
「ときどきここに来ているよね。僕も最近来るようになったんだ。」
顔はダルビィッシュをちょっと悪くした感じだが、申し分のない容姿。
「うん。ときどきね・・・ここ、お酒も美味しいけど、マスターの手作り生チョコが美味しくて。」
「あ~生チョコ僕も好きだよ!GODIVAのチョコとかいいよね。」
わたしたちは、お酒好きと大好きなスイーツ好きが請じて意気投合した。
「名前、なんていうの?」
「わたし・・・藤井みるく。そっちは?」
「僕の名前は相場淳介。淳介って呼んで。」
まるで獲物を狙うような瞳、いや、真摯な眼差しだったんだろうか。
なぜだろう、酔ったのか?
いつの間にか私の瞳の中には淳介がはっきりと映し出されていた。
当時、私は仕事も忙しく友達も少なく毎日に孤独を感じていた。
そんなとき、優しく労わってくれる相手なら誰だって良かったのかもしれない。
おまけに私を優しく見つめる真摯な目つきをした目の前にいる男はダルビィッシュ似の色男。
私の中で、寂しさを紛らわしたかっただけだったのかもしれない。
それでも、今が楽しい方を優先した。
この先、自分の人生を覆す壮絶な出来事が待っていることなんて予想だにしていなかった。
私たちは、携帯の番号とメアドを交換した。
「家まで送って行くよ。」
そう言われ、店を出て南の方へ歩きだす。
「あれ?なんでこっちの方角だって分かったの?」
「えっ?あっ、いや。なんとなくね。」
歩いている最中、どんどん二人の距離は縮まっていき淳介の手は私を抱き寄せるようにくっついて歩いていた。
身体の大きな淳介のその腕の中で包まれている私は、お酒の火照りとは違う何か胸の奥が熱くなるような、言い表せない幸せを感じた。
なんなんだろう。
この、私の身体の中で何かが起きている。
私たちは孤独を互いに慰め合い、労わり合うかのように強く触れ合った。
家の前に着くと、雪が降り始めていた。
私は広い空から舞い落ちるその雪を見ながら「ありがとう・・・」と呟いた。
すると淳介は背後から私を抱きしめた。
次第に強さを増していき・・・。
「淳介、痛いよ・・・。」
淳介は私を強く抱きしめたまま私の耳元で囁いたのだ。
「やっと、逢えた。やっとこうやって抱きしめることができた・・・。」
私の首をクイッと上に持ち上げ寒さで悴んだ唇に生温かいスイーツのような優しいキスをした。
淳介が発した意味深な“「やっと、逢えた。」”この言葉の意味など私には最後まで分からなかった。