体に影響があるとする100ミリシーベルト以上の放射線を浴びた場合のがんの発生率について、生活習慣との比較を国立がんセンターが4月に発表をしました。

例えば100ミリシーベルトを浴びると野菜不足と同じぐらいの影響、200～500シーベルトで運動不足と同じぐらいの影響、1000～2000ミリシーベルトで毎日酒2合と同じ影響など、分かりやすい基準で比較をしてくれています。

（国立がんセンターの発表をもとに日経新聞が2011年4月24日付デジタル版でまとめたもの。）

2000ミリシーベルト以上で喫煙と同じ1.6倍の発がんリスクとなるので、喫煙の体への悪影響に驚くとともに、放射能といっても、その影響は被ばく量によってだいぶ異なることもよく理解できます。

このがんセンターの発表を根拠に、酒や煙草の影響よりも軽微だから放射能の影響はそんなに問題にならないという主張を散見したのですが、本当にそうでしょうか？

酒や煙草よりも軽微とはいえ、それでも発がん率は数％～5％程度は上昇しているわけですし、酒や煙草より大きいか小さいかを基準にすることが間違っているように感じます。

以前、「日本の教育のあり方に問題があるということ？」という質問に対し、「日本の教育のあり方は問題が大きくない。なぜなら、日本の教育のあり方よりも家庭の教育の問題の方が大きいからだ。」と答えた学生の話を書きましたが、まさに同じ思考経路で、酒や煙草の影響がより大きいので、放射能の影響は小さいという主張は論理的には成立していません。
（その時のエピソードはこちら。）

放射能に騒ぐよりも、むしろ酒や煙草をやめさせた方が健康にはいいという議論のすり替えをしている識者もいましたが、これも違和感があります。

放射能も酒や煙草も独立変数のため、「どちらかのリスクを下げるのであれば」という前提自体が無意味ですが、それなりの識者の方なので、無意味であることをわかってウケ狙いで言っているのかもしれません。

結局、問題の大きさの比較からは、問題自体の客観的なインパクトを語ることはできないということです。

先日も比較をすることの意味合いについて書きましたが、比較の使い方とすり替えには騙されないようにしないと、交渉ごとなどにおいても、うまいこと相手の思うツボにハマってしまうかもしれません。
（先日の比較をすることの意味合いの記事はこちら。）

微量の放射能の発がん率は飲酒より小さい