明日行くであろう裁判所がこれ程まで遠く感じるなんて思ってなかった。
きっとまだ夕方前だろう。


果てしなく長い。。。



トレジャービーチにガサが入って捕まった時、向かいのショップの屋根の上で寝たままだったヒロ君はどうなったんだろう。
キャロルやマム達にもまだヒロ君のこと紹介すら出来てないのに残して来てしまった。

本当にとんでもない事をした。
罪がどうこうよりも、全く関係ない人達を巻き込んでしまって、とにかく迷惑かけてる。

しかし今は反省どうこうよりもまず、ここを生き延びる事に集中しなくては。



この凶悪犯だらけの檻の中で用を足し、寝床を確保する事が今のミッションだ。
とりあえず波は治まりつつあったが、ずっとしたかったウンコをし、後は無理矢理でも寝ちゃえば特に問題もなく時間は過ぎるだろう。
目まぐるしい状況の変化に精神的に疲れてるから 結局またすぐ寝れちゃうだろう。


それにしてもなかなかトイレに行く隙を与えてくれない。

この檻の中には30人近くいる。おそらく定員は15名程のところに。
どおりで。
トイレとシャワー、水道が一緒になってるこの水場の部屋は常に混み合ってる。


水場に入って左側が普通の水道の蛇口
右手前がシャワーで奥がトイレ。
もちろん中にもドアや仕切りなんかもなく、便器は元が何色かわからないくらい汚れてる上に便座ももちろんぶっ壊れて取れていて無い。

水を流すノブ?

いや、水のタンク自体がない。ボロボロの便器だけが剥き出しであり 近くに汚い小さいバケツみたいなのが転がってる。
汚くてすでにブルーではないブルーシートが吊るしてあってトイレの正面だけ隠してるような感じだ。






そのトイレの横のシャワー。
と言っても全然「シャワー」ではない。
ホースの先っちょのような物が頭上の壁から出てて
下にある蛇口をひねるとチョロチョロと出てくる。
やはり「シャワー」ではない。。。

中は暗くてあまり見えない。が、雰囲気で相当汚いだろうってことだけはわかる。
これはキツイ。抵抗感しかない。
しかし最初に入れられたあの牢屋より全然臭くない。



実はジャマイカンは基本きれい好きで。ボロボロで汚い檻の中でも出来る限り清潔に保っていた。
土足禁止区域を汚したりなんかすれば怒られる。
地べたにも寝っ転がったりもするからか、しょっちゅう水拭きもしてるようだ。
この本当のジェイルは劣悪な環境ながら、最低限みんなできれいに保ってるという印象だ。


これがもし、ジャマイカ人じゃなくて。。。
なんてふと考えたら恐ろしくなった。



水場と入り口玄関だけが土足で、雑巾で仕切られている。

ワンロール持って来ていたトイレットペーパーを握りしめ、サンダルを履き、水場に1番近い玄関スペースで待機した。
すると水場横の部屋にいる男が話しかけてきた。
嫌だな。
こいつは見た目、キャラ的にも1番絡みたくないなぁ。と目に入っていたやつだ。
坊主頭には大きな傷。腹にも。腕にも。
派手に傷だらけな上に、かなりマッドなヴァイブスでうるさくて、やたらと猫背で見た目がまるでハイエナだ。
こいつもまたディズニーに出てきそうだ。。。
とりあえず目が怖いと思った。



しかしここでは舐められたら終わる。
ジャマイカのバッドマンなんかと話す時は絶対に目をそらさず、ジッと見なくちゃダメだ。
こちらから先にそらしちゃいけない。
そう感じたから徹底することにした。

『よーチャイニーズ!』


「ノー!!ジャパニーズ!」

『おう そうか!
俺はスクリーチだ。お前トイレ行きたいのか?
ルールは知ってるか?』


「わからない。」

スクリーチ
『いいか、ここの便所はここのやり方がある。
わかるか?
ジェイルスタイルだ。まあ最初はこれは俺が作ってやる。』

そういうと、トイレットペーパーをくるくると捻り、縄状にしたものをくれた。
どうやらトイレ、シャワーを利用する時には、これに火を着ける。
炎を消すと、タバコのようにチリチリと燃えていく。
これを水場入り口の頭上に貼り付ける。それが使用中の合図らしい。


『わかるか?これが燃えてる時は誰かが使用中だ。入るんじゃねーぞ!!
便器はかなり汚ぇーから上手く乗りこなさなきゃなんねーんだ。
わかるか?
便器の上にしっかり乗っかてこーゆースタイルだ!! (洋式便所の便座の取れたフチの上で、日本で言うウンコ座りの形)
こう乗りこなすんだ!わかるか!?
お前はリアルライダーだ!
お前のクソしてるところなんか誰も見たくねーからな!
乗りこなしながらこう叫ぶんだ!!
アムライディンノー! (I’m riding now)
リールライ! リールライ!!(Real ride)
レッライ! レッライ!!(Red light)
わかったか!?

お前のクソが終わったら、横の桶でシャワーから出る水を貯めて、一気に便器に流し込め!!
わかったか!?』


「や、やまん! やってみる!!」

と、話してる間にも順番抜かされたりもしたが、やっとの事で水場に入りトイレを確保した。

薄暗いけど汚いのがわかる。
白い部分なんかなく、もはや迷彩柄のような便器で、もちろん便座などない。
まぁあったところで誰も座らないと思うけど。

しかし教わったやり方はなかなか気が抜けないぞ。
サンダルだし、滑って便器に。。。

なんて絶対に嫌だし、床もビチャビチャだし汚い。
とにかく転けないように気をつけないと。
このワンロールしかないトイレットペーパーも、落としたりして無駄死にさせることは出来ない。
細心の注意を払いながら、俺は片手にトイレットペーパーを持ちつつ、バランスを取り、乗りこなした。


アムライディンノー!
リールライ! リールライ!!
レッライ! レッライ!!

アムライディンノー!
リールライ! リールライ!!
レッライ! レッライ!!

一応、隠してます的なシートが吊るしてあるから、丸見えではないが半見えだ。
しかし、なんて状況だ。
こんな最低の便所はない。

だけど出すもんは出さなきゃ。

ここのルール通りにやる。聞こえるように叫ぶ。
気をつけてやってたら、なかなか出なくなった。

出すことに集中し直しつつ、10数回くらい繰り返し叫んだところで無事終えた。

教わった通り、隣にある"シャワー"と言う名の
ただ高い位置に設置された、プラスチックでホース型の蛇口からチョロチョロと水を汲み、一気に便器に流しこんだ。

暗くてあんまり見えない。

もう一度流しておこう。


桶パンパンの水を一気に便器に流しこんだ。
これで大丈夫だろう。
みんなも大体このくらいだったと思う。



手も洗い、おトイレミッションを無事に終え、水場を出た。



スクリーチ
『よー!チャイニーズ!!ちゃんと乗りこなしたか!?
ウェルカムトゥジェイルライフ!! ハッハッハ わかるか?』


「だから日本人だって!! 大丈夫だったよ!ありがとう」



そういって一つ目のミッションを終え、ボスの部屋へ戻った。