さてさて、ひょんなことから奥さんの趣味であるパッチワークが、

人の目に付き、更にそれが商品化されるなんつ~

小説みたいな話が現実に起きてしまい、

予想もしなかった事態に戸惑いを隠せないドラ猫商事ですが…



そりゃもう700枚から1400枚なんつ~発注を貰ってしまった

奥さんは嬉しいやら、ビックリやらで興奮状態!


なんつったって1400枚作りきれば全て自分達の儲け!


しかぁぁぁぁぁし!この商品の泣き所は全て手作りという事…


そう!つまり1400枚全て手作業で作らなければならない!


ドラ猫商事の本業は輸出業!


この時も他からの通常業務はてんこ盛りで、

毎日二人で朝から晩まで忙しくしていた時に

この話を貰い、興奮が冷めていざ現実に戻ってみると…


おいおい…

2ヶ月で1400枚って…

単純に1日20枚以上作らない間に合わない計算だよ?

しかも最終洗いもかけると1月半しか縫製に時間かけられないよ?

どうすんの?


まぁ、半分の700枚でいいんじゃない?

とりあえず…

そしたら1日10枚ちょっとでしょ?

それなら何とかなるでしょ?


お、おう!がんばろう!



しかぁぁぁぁし…

現実はそんなに甘くない…


まずボディーの手配と縫い付けるデッドストックの

生地の確保にあっという間に1週間…

しかも通常業務の合間をぬっての仕入れなんで

結構大変…


結局仕入れを全て終えて、

作業に入れたのは10日目の事でした…


そしてここからがちょー大変!!!


簡単に作業を説明すると…



1.ティーシャツの上に型を置き(ハートや数字ね)

 型に沿ってペンでなぞる。



2.書きあがった型に沿って切り抜く。



3.型を使ってデッドストックの生地を、これまた

ペンでなぞって切り抜く。



4.そして、切リ抜いた生地をティーシャツの裏から合わせて

  手で縫っていく!



5.オリジナルネームタグの付け替え



6.洗いをかける


たったこれだけの工程に、気が遠くなる程時間がかかる。


おいらは縫う事が出来ないので、ひたすらティーシャツと

生地のカット!カット!カットォォォォォ!


最初は裁縫はさみでやろうとしたけど、

これが簡単に切れない…


曲がる、よれる、ギザギザになる…

切り抜いたティシャツのひどい事、ひどい事…

ささくれて、波打って、とても商品とは呼べない…


そこでデザイナーが使う裁断用のローラーナイフを購入!

これが面白い!

切れる切れる!楽しい!

自分にこんな才能があったのかと思うくらいに

綺麗に切れる、切れる!


しかし、それもつかの間…


朝から晩までドラ猫商事で仕事して、

家に戻って食事して、それから自宅のリビングで

奥さんと二人でひたすら切りまくり、縫いまくり…


夜8時から始めて、毎晩深夜1-2時までかかり、

作れる枚数は10枚程度…


しかもこのままだと精神的に病みそう…


そんな中思いついたのが内職のバイト。


おいら達が作って、内職さんに縫ってもらう!

これなら何とかなりそうだと、急遽バイトを募集!


すると…

以外や以外、5人ほどの内職さんが集まり、

しかもこの人達趣味がパッチパークというツワモノ!

頼んだ仕事をそつなく楽しんでこなしてもらい、


出来上がってきたテーシャツにタグをつけてもらい、

洗いをかけるんだけど、他に出すと余計な

手間賃がかかるので、自分の家の洗濯機と乾燥機を

フルに使い、来る日も、来る日も、

生地のカットと洗濯、乾燥に明け暮れ、何とか

2ヵ月後に1000枚を納品する事が出来ました。


初めての納品にどきどきの奥さんでしたが、

反応は物凄くよく。

通常この手のハンドメイド品は10%以上の不良品が

発生するところ、1%未満という優秀な結果に終わり、

クライアントからも大絶賛で大変な高評価を貰いました。


奥さんも初めての自分の商品が高評価を得て

嬉しくて嬉しくて半べそ状態でした。



納品後は通常業務に追われ、いつもの生活に戻り、

自宅でくつろいで日本からのドラマのビデオを

見ていると…


うん?

え?(-_\)(/_-)三( ゚Д゚)

おいおいおいおいおい!

まじかよ?

これって…


げぇぇぇぇぇぇぇ!

うちの商品じゃん!

( ゚-゚)( ゚ロ゚)(( ロ゚)゚((( ロ)~゚ ゚


そうです、何気なく見ていたドラマの主人公が

うちの商品を着ていたんです。


それを見つけて、もう何がどうなっているやら。


しかもよく調べると、その主人公が、

11話あるドラマの中で何回も着てくれて、

かなりの時間テレビに露出してるじゃありませんか!


もうこれにはビックリです!

しかも来ていたのは今人気絶好調の篠原涼子だから、

二度ビックリ!


ドラマはトキオの山口君と夫婦役で、

自閉症の子供の親を演じています。

題名は覚えてませんがたしか…

’光へそして…”なんとかだと思いました。


このドラマがきっかけで、

奥さんのオリジナル商品はとんでもない方向へ

進みだします…


そう、どれだけの苦労が待ち構えているかなんて、

この時はまったく知る事もなく…



約2年間、共にオリジナルブランドを支えてきたデザイナーに、

まさかの裏切りを受け、心身共につかれきっていたおいらに

ふとした事から面白い話が舞い込みます…


かねてからおいらとデザイナーとの仕事のあり方に不満があった、

ドラ猫商事のご意見番!

影の番長!

必殺仕置き人こと、


ドン・ドラ猫おくさんが、今回のデザイナーの裏切りに対し、

どうにもこうにも腹の虫が収まらないらしく、

普段とっても温厚なドンが珍しく、

この話を聞いた直後に怒鳴り込もうとした。


どうしてそんなことされて黙ってんのよ!

ガツンと言ってやりなさいよ!

いい歳して、資金だって全部うちが出して、

あいつはおんぶに抱っこだっただけじゃない!


まぁまぁ、言ったってわかんない奴に、

何言ったって無駄じゃない?


だぁかぁらぁ~!

あんたが言わないならあたしが言うから!


わかった!

もう忘れよう!

こんな事でもめるほうがバカくさいでしょ?


なんで!


怒り心頭です…


何とかドンの出入りだけはやめさせて、

次の事を考えようと納得させてその場は納めましたが、

今なお火種はくすぶっていて、この話が出ると大変…




さて、話は変わってドン・奥さんの趣味はパッチワーク。

アメリカに来てからこつこつとやり続け…

家の中はそこかしこにパッチワークが…


正直おいらはあまり趣味じゃないので、

家中がパッチワークになるのはちょっと…


まぁ、その辺はドンも心得ていて、

適当に、さりげなぁ~く、おいてあります。


なんでこんな話をするかって?

この趣味がドラ猫商事を救うとは、

このとき誰も予想をしてなかったから、

だから人生は面白い!


パッチワーク好きなドンは、

たまに無地のティーシャツにデッドストックの面白い

生地を縫い付けて自分だけのオリジナルを

作って家着にしています…


たまたま遊びに来ていた同業者の奥さんが、

それを見て…


ねぇ?それどこのブランド?


へ?これ?

自分で作ったのよ!

お気に入りのティーシャツに穴が開いたから、

思い切ってハート型に切って、裏からデッドストックの

布地を縫いつけただけよ!


何個かサンプル作って!


え?これを?

なんで?


絶対売れるこれ!


まさかぁ…


間違いない!

任して!


てな感じでとんとん拍子に話は進み…

まんざらでもないドンは、

仕事の合間にニコニコしながら

サンプルを作って、半信半疑で彼女に渡したのでした。


その後も通常の仕事に追われ、

渡したサンプルの事などすっかり忘れた頃…

彼女から連絡が入ります…



オーダー来たよ!


え?ほんとに?


このとき数十枚単位で入ればOKだと思っていたドン…


えっとねぇ、合計で700枚!


は?700枚?((((((ノ゚⊿゚)ノ


そ!とりあえずね!

いけそうなら、追加でもう700枚!


え?行けそうならって、どゆこと?Σ(゚д゚;)


納期が2ヶ月で、その間に1400枚作れるなら、

トータルは1400枚で、ダメでも最低700枚って事。


うちのドン、口あけて放心状態です…

初めて自分の力で取った最初のオーダーが、

なんと、自分の大好きなパッチワークを活かした

商品だった事に、大興奮!


おまけにもうひとつ嬉しい事が…

実はこのオーダー…


例のデザイナーと一緒にやっていたオリジナルを

断ってきた超有名店の大人のレディース部隊からの

発注だったんです!


つまり、子供の商品はデザイナーと同業他社に

持っていかれましたが、ドンのデザインしたオリジナルが、

ここんちのレディースの商品として発注されたんです。

しかも初回発注から1400枚も…


ドンは狂喜乱舞です!


おっしゃぁ~!

これであのバカを見返してやる!

後で戻りたいなんつっても、

絶対入れてやんないだからね!

がんばるぞぉぉぉぉ!

γ(▽´ )ツヾ( `▽)ゞ


この時は嬉しさだけが先行して、

この後待ち構えている過酷な労働の事など、

これっぽっちも分ってなかったドンと、おいらでした…

うぅぅ(>_<)




3年目を迎えたおいら達のオリジナルブランドは、


ありがたい事に毎回毎回発注をしてくれるお客さんに


めぐまれ、大きな発注にはならなくても、


おいら達二人が次のコレクションを発表するには


充分な利益を生み出し、3年後の今季こそ、


タダのグラフィックデザインブランド…

(要するにティーシャツだけって事ね)


からの脱却をもくろんでいた矢先…


デザイナーからのギブアップ宣言が出され、


それでも次回のコレクションを


めざし、パタンナーや、服飾デザインーを探し、


日々模索をしていた。





同時進行でおこちゃま向けのデザインは、

デザイナーである、彼に全てを任せ、

頑張って5-6デザインを年2回作る条件で放置していた。


この年お子ちゃま向けのデザインは、

なんだかんだ言いながらも、

きっちり年2回の約束を守り、

それなりの評価を受け、

次回作に期待を寄せる例の超有名店からは、

4年目も継続してお願いしますとの約束を貰い、



よっしゃぁ、頑張るぞ!

っと勢い込んだその年の年末。



デザイナーから1本の電話が入ります…



ここからは覚えている限り忠実に書いてます…





もしもし。



おう!俺!俺!

元気?



おう!どうした?



あのさ…



うん?なに?



あのさ…

俺隠し事するの嫌いだし、

お前なら分かってくれるだろうと思うから全て言うけど…



ふんふん、なになに?



OX商事って知ってんだろ?

(これって、おいらの地元のコンペティターね!

あ、同業他社ってこと!)



おう知ってるよ!

だって、そこにもうちのオリジナル商品卸してるし、

ずっと買ってくれてるじゃん。



そう!

そうなんだよ!

でさ、そこの社長と俺が仲良い事も知ってるよな?



うん、知ってるよ。

で、それが?



何回かさ、その人と一緒にゴルフしたわけよ。



ふんふん。



そしたらさ、たまたまゴルフしたときに、

おれ達のオリジナルの話になってさ、

俺知らなかったんだけど、ここの会社も

例の超有名店に口座があってさぁ、



(そうです、おいら達のオリジナル商品のお子ちゃま向け

デザインを購入してくれている、例の超有名店です)



今は大人向け商品しか卸してないんだけど、

ここの超有名店から、新しくお子ちゃま向けデザインを

やって欲しいって依頼があったんだって。



ほー…

それで…



でさ、こっからが要件なんだけど…

俺にそのデザインを頼むって言うんだよ…


ほぉ~良かったじゃん!

更に新しいブランドのデザインの発注でしょ?


まぁ、確かに良かったんだけど…


何?何か問題でも?



なんかさぁ、俺は良くわかんないだけど、

うちらのお子ちゃま向けデザインって、今違う会社を通して、

この超有名店に卸してんじゃん?



(そうなんです。この時はおいらの知り合いの人が、

この超有名店と蜜月関係にあったので、舞い込んできた話で、

その後もおいら達はこの知り合いに商品を卸していて、

この超有名店とは直接の取引はしてなかったんです。)



おう!それで?



なんかさぁ、おまえの知り合いの人がさぁ、

この超有名店ともめたらしくて、

バイヤーがこれ以上その人と商売したくないって

言い出してるらしいんだ!



はぁ?

その人が揉めてもおいら達には関係ないでしょ?



う~ん…


それが、その人がさぁ、おれ等のオリジナルブランドは

その人を通さないと買わせないって言ってるらしくて…



はぁ?

買わせない?

関係ないじゃん?

俺らがその人に売らずに直接卸せば良いんでしょ?



それこそOX商事経由で買ってもらって、

卸せば良い訳でしょ?



う~ん…

そこが問題で、

一度けちが着いた物は先方さん買いたくないらしくて、

でも、今までやっていたお子ちゃま向けデザインは

捨てがたいらしく、結論から言うと、

新しいお子ちゃま向けデザインを立ち上げ欲しいと…


ふーん…

じゃぁ仕方ないね?

条件は?


条件はデザイナーを変えずに、名前を変えて、

雰囲気をもうちょっと変更して、この店の定番

お子ちゃま向け商品にするらしい!


あ、そう!

定番かぁ…

安定して供給できるからいいよなぁ。



で、いつから?



次回のコレクションからだから、

来年の2月からかな。



おっけぇぇぇぇ!

これから大変だな?

ボディーとかはいつもの感じでいいの?

価格とかはいくら設定なの?







ん?どした?



あのさぁ、怒んないで聞いてくれよ。



おう!



俺だけデザイナーとして引き抜かれたんだよ。



へ?



お前に隠し事したくねぇし、

嘘ついて仕事するのも嫌だし、

OX商事には嘘ついて抜ければ?

って言われたんだけど、

それは絶対に出来ないって言って、

お前なら絶対に分ってくれるからちゃんと説明するって

言って、今日電話したんだよ。

なぁ、分ってくれるよな?



要するに今のお子ちゃま向けはやめて、

新しく君のデザインで、俺抜きで違う会社と組んで、

ここの超有名店と定番的に商品を作っていくって訳ね?



うん、まぁ、そんな感じかな?



で、君はそれでOKしたの?

っていうかしたから今日電話してきたんでしょ?



うん…



ふ~ん…

だったら良いんじゃないの?

自分の思ったとおりにすれば?



ほんと?

いいの?



いいも悪いも最後は君の選択でしょ?



いやぁ~正直怒られるかと思ってひやひやしたよ…



怒る?おいらが?なんで?


このとき、このデザイナーに心底愛想が尽きて

もはや怒る事よりも、一刻もはやく、この電話を切りたくて、

切りたくて仕方ありませんでした。



だってさぁ、二人で立ち上げたブランドじゃん?

それをこんな形で終わりにするなんて…



終わる?何が?

このブランドが?

まさか!

これからは…


いや、なんでもない…


正直ここまで常識知らずというか、

おバカだとは思いもせず、よくもこんな奴と3年間も

やってこれたもんだと、つくづく自分が情けなくなり、


それでも、普通なら3年間も共にこのブランドをやってきて、

逆の立場ならおいらは迷わずこのデザイナーと

一緒じゃなきゃやりませんって言えるんだけど…


おいらはここでばっさり切られたわけで…

喉元まで出掛かった言葉を思いっきり飲み込んで…


まぁ、これからは別々の道だけどお互い頑張ろう!


おう…


それがおいらが搾り出した最後の言葉でした…