デジっていうベース弾く人
Amebaでブログを始めよう!
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>

バイクで事故起こしそうになったときの小説第二回。

 関越自動車道を降りて碓氷峠に入るころ、雨は止んでいた。目的地に早く着くためなら高速道路を走ったほうがいいが、それよりも優先するべきことがあった。男は夜の峠が好きだった。街灯は無く、濡れた路面に月の光が反射し、男はまるで世界に自分一人しかいないような感覚を覚えた。この孤独が好きだった。誰にも邪魔されることのない、先の見えないこの不安を、男は心地よく思った。冷たく濡れたライダースジャケットの重みさえ、不思議と嬉しく感じていた。エンジンは好調。スロットルを大きく開けると小気味よくエキゾーストが反応し、ぬれた路面を蹴ってバイクは峠を上って行った。
 峠を越えた先にある巨大なパチンコ屋の駐車場で、缶コーヒーを片手に愛機を眺める。引き締まった精悍なシルエットがこのバイクの魅力だ。単気筒エンジンはピークパワーこそ少ないが、車体の軽さとズ太いトルクで峠道を軽快に走ることができた。目的地まではあと二時間ほどで到着するだろう。目的地、といってもたいした用事があるわけでもなく、ただ古い友人に挨拶しに行くだけだった。そんな些末な用事はバイクに乗る為の口実でしかなかった。
「すこしトばしすぎたかな」
単気筒の振動による手の痺れと微かな疲労を感じ、男は独りごちた。仕事の関係で明日の昼前には東京に戻る必要があるが、まだまだ時間はじゅうぶんにある。
 男は再びバイクに跨り、漆黒の闇にテールライトの光を残して消えていった。

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>