100回泣くこと  中村 航


  交際して3年の恋人に求婚し、練習期間といことで同棲をはじめた僕だったが、その恋人が急に重い病に倒れてしまう。悪性の病で日に日に弱っていく恋人を見て、なにもできない僕が苦悩しながらも励ましつづける。あの「セカチュー」にも似ているけど、こっちは後半部が格段にいい。

病に苦しむ愛する人のために何ができるのかを自問自答する僕。
「僕にできること。彼女ためにできること。彼女のためにあろうとすること。手を握り、抱きしめること」
死んだ恋人を思って泣き続ける僕。
「彼女が元気になりたいと言って泣いたとき、僕は大丈夫と馬鹿みたいに繰り返すだけだった。彼女といっしょに死ぬつもりになって泣けばよかった。そうすれば彼女の悲しみを半分にできかもしれないのに」

恋人とのほんのひと時の幸せな同棲生活の場面があるせいで、後半の恋人の死期がせまる部分、あまりにもせつなく泣かせる。

これまでの「リレキショ」「夏休み」「ぐるぐる回るすべり台」もよかったが、本書は中村航の最高傑作。下期の芥川賞は最有力候補だ。
採点★★★★☆