表面被覆工の問題点
                   ㈱大昌エンジニアリング
                                 太田 忠良
[初めに]
 表面被覆工の問題点については、当ホームページに記載した「ウレタン等による表面
被覆の有害性」で指摘してきたが、今回国土交通省某橋梁補修にかかわる中で、「剥
落防止」及び「遮水性能」のために行われた表面被覆工の10年後を観察できたので、
以下レポートする。
[有機系塗料=「一部無機系」とメーカーは説明]の現実]
 
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 1、「遮水性」塗料構成の伸びで「剥落防止性能」があるとされているが、桁内部に
クラックが生じている。内部鉄筋が発錆し爆裂。
 2、鉄筋の現実


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① 該当部分のコンクリートをハツリとると内部の鉄筋は腐食している。
② しかし、被膜があるのでこれを除去しないと実際のクラックの観察ができない。隠蔽物になっている。
③ 除去は、エポキシ系およびウレタン系除去剤では除去できない。ドライアイス吹付もしくは、高熱(150℃)でとるか、サンダーケレンで削るしか方法がない。ドライアイスは二酸化炭素をコンクリート中にも浸透させるので、コンクリートを中性化させる。若しこの方法を採用するとすれば、ケイ酸リチウムもしくは亜硝酸リチウムでアルカリ付与が必要になる。
[旧施工方法の問題点]
1、 橋面はシート防水が施工されていたが、現実には橋面から雨水が桁に浸透。被膜があるため、かえって桁内部に水が浸透。鉄筋を腐食から守るどころか、促進要因と化している。橋梁長命化には有害。
2、 これまでの経験則および、旧道路公団土木研究所の大橋論文で明らかにされているように、シート防水の効果はあまり期待できない。施工時間が短いために切削機で舗装を剥ぎ取り不陸しないうちにシートを張るので、舗装に載荷重が頻繁にかかると切れ・こすれで損傷が生じる。雨天時に足場を組んで観察すると、旧来のフィンガージョイント部だけではなく、桁・床版に相当量の雨水が浸透している例が多い。
[補修方法]
1、 橋面防水工。比較的コンクリートとの接着力のあるカチコートをプライマーとして使用した塗膜系防水。
2、 桁ハツリ⇒亜硝酸リチウム入りセメントペーストによる鉄筋防錆(この段階で
中性化部分はすべて除去)⇒型枠・無収縮モルタル充填⇒パーミエイト(水蒸気透過・二酸化炭素不透過膜)による表面被覆。
 本来はハツリ除去しない場所に亜硝酸リチウム塗布等が望ましいが塗膜の全面除去が条件になり今回はできなかった。
3、 いずれにしても、橋面防水には寿命があり、定期的観察後、必要に応じて再施工が必要。


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    橋面の舗装の痛み

                                 2012/9/20

 地域業界事情 鳥取県建築編

【土木建設業界の人材育成~コンクリートは人が作る~】


[土木施工管理技士会]

 6月中旬鳥取市内で土木施工に関係する小さな私的会合が開かれた。「鳥取県東部土木施工管理技士会」の役員を退任する方々の慰労と感謝の宴である。
 土木施工管理技士会は、昭和44年の建設業法の大改革の一つである「土木施工管理技士制度」の発足に数年遅れて誕生した。
現在は県下に1600人以上の会員を有する組織である。

 会の目的は「技術の研鑽による社会資本の構築への責任および管理技士の社会的地位の向上」である。昭和45年(1970年)土木工事の技術をつかさどる国家資格として1級土木施工管理技士(制度)が生まれ、土木工事の品質保証が施工側からも保障されることになった。

 今回退任された人々は、鳥取県技士会発足時からのメンバーで、所属する企業こそ違うものの、これまで40年前後の間鳥取県のインフラストラクチャーをその肉体と頭脳で支えてきたのである。 会合にはすでに引退されて久しい80歳になるOBも出席、今後を担う若い技士会リーダーたちに昔話と叱咤激励を飛ばし、全体として土木屋の責務と誇りを確認しあったのである。


[地位の下落]

 40年前土木工事はようやく機械化が始まったころで、ブルドーザーやダンプを使うオペレーターは花形職種。機械構造が単純な分、運転技術は高度なものが要求され、事故も多発していた時代であった。測量機械は原始的で、電子計算機はなく、手回し計算機を使用していた。
 したがって、技術も経験と勘によるところが大きく、現在のように数ミリの誤差なく橋などの構造物を構築するという精度は持ち合わせず、それぞれが工夫をしながら精度を高めていた時代である。
 土木に携わる人々が社会的に優遇されていたわけではない。引退する諸氏もまた飯場の味噌汁つくりから土木の世界に入ったのである。
 土木の技術者、作業員がそれなりの生活を得るようになったのは、田中内閣時代の「列島改造」を第一段階としてバブル末期の小渕内閣の景気対策までである。ケインズ型の「市場の人為的創出=財政出動」によってのみ一定の経済的恩恵を享受できたのである。
同時にその時代を生きてきた技術者は飛躍的に成長する科学、機械・工法・管理技術に遅れないようにあるいは先取りしながら施工責任者として努力研鑽してきたのである。

 懇談の中で中堅建設会社の専務の「15年前に引き抜いた技術屋の年俸が700万。その人が今年定年退職した時は300万。それでも会社の赤字体質から抜けられない」という慨嘆は、誰にでもわかっている禁句として黙殺された。一方で技術者は毎日現場作業が終了した後、管理資料作りで夜10時過ぎになることが当たり前のような世界なのである。
 今回女性部会長を永年勤めた方も役員を後継者に引き継いだのだが、低賃金よりも長時間労働が必要とされる中では、育児にかかわる女性が活躍できる前提が事実上封殺されているといってよいだろう。


[後継者養成システムの崩壊と再生の可能性]

 鳥取県東部の土木技術者は県立西工業高校と県立高等専門校土木科出身者が圧倒的比率を占めている。
 鳥取西工業高校昭和42年卒業の1期生は丁度定年になった。そして、伝統の高校は数年前に閉鎖・統合され土木科は廃止された。
 一方高等専門校は県職員の技術者が教師として1年間指導するシステムであったが、かつて30人程度いた入学者が今や1名いるかいないかという現実である。「高卒後ただちに仕事に就く」という社会環境と「親の家業を引き継ぐ」といく動機の消滅、何よりも土木工事に従事する魅力を喪失したことが大きな要因といえよう。

 土木工事は、元請側の技術者と測量士、機械オペレーター、型枠大工、鉄筋工、とび工、左官等の職人集団、生コン、2次製品などのメーカーの共同作業である。
 したがって、個人がどれだけすぐれていたとしても、それが組織的成果として結実できない限り良い完成品を作ることはできない。
 組織として完成品を作る中で個人もまた教育され、自ら努力して成長していくのである。経験の中でより難易な仕事に巡り合い、チャレンジし仲間とともに完成を祝うのである。先に述べた技士会は企業の枠を超えて情報を交換し、切磋琢磨を可能にしている。ただし、夢の実現だけでは食べていけない。

 教育機関がなくなったことに問題があるのではなく、「安くなければ受注できない」ので受注工事費が激減する中でギリギリの成果を要求されるため、現場に「余剰人員=見習い」を抱える余裕を失い、「即戦力」を求めてきた結果、「即戦力」も伸びきったゴムのように消耗し、企業の力量が衰退してきたのである。
 価格競争は本来新技術を生み出す本質を有していなければならないが、公共事業費は物価調査と労務費調査をベースにした「予定価格」(いいかえれば発注側による指値)からいかに安く受注するかというものにすぎないため、労務費がどんどん下落するということを結果する。
 労働と努力の結果として賃金が上昇することがなくなり、わずかな夢と誇りを奪われ、モチベーションが低下し続けているのである。
 このしわ寄せは下請け集団にもっとも過酷に集中している。職人は「親方」のもとで「手元」として出発し技術を身に着けていくのであるが、親方は従業員の厚生年金等保険料を納付する企業体力を喪失し、「一人親方」化している。

 かつては事業を「子供がひきついでくれる」ことを願った職人たちは「別の道」へ進むことを勧めるのである。
 技術が進み機械化が進んでも、人間が手を下すことなしに工事を完成に導くことはできない。コンクリートもまた人によって作られ、人によって有用な製品に仕上がるのである。平均年齢が50歳を超えるような土木の現場の現実は危機を顕在化させる一歩手前にある。
 「人は育てなければ育たない」というあまりにも当たり前の原点を保証しない限り発注量を増やしたとしてもよい製品を結果することはできないのである。



帝国ニュース山陰版No.980   2012年7月9日
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㈱大昌エンジニアリング
代表取締役 太田忠良

http://daishou-eng.com/


現在の役職:
1.(社)日本労働安全衛生コンサルタント会鳥取支部監事
2.(財)建設業振興基金監理技術者講習講師
3.厚生労働省委嘱(中小規模事業場を対象としたリスクアセスメント安全衛生診断員)
4.㈱ 大昌エンジニアリング【総合コンサルタント業】代表取締役
5.建設災害防止協会(中国四国ブロック)鳥取支部長
6.(社)鳥取県土木施工管理技士会理事・技術委員(前副会長・技術委員長)



地域業界事情 鳥取県建築編

JV入札制度の限界 ~ある工事入札事情~ 




[不況下にあえぐ建設業]

 建設業は鳥取県の基幹産業であり労働人口の10%前後を占め、関連する卸売・小売業等を含めるとその動向はわが県の経済に大きな影響を与えている。特に『激戦地』東部地区では採算度外視の「叩き合い」の状況が続き企業利益を圧迫した結果、健全性に問題のある企業が増加しているのが現状である。

 問題は、個別企業の健全性に影響を与えるだけでなく、工事に参加する協力会社(下請け)代金の下落、労働賃金の低下、物価の下落など大きな社会問題に発展する要素を内包しているところまで事態は進行しているというところにある。

 一例をあげれば県が入札時に使用する「積算基準価格」において、土木構造物の基礎をなす鉄筋コンクリート用の生コン価格は、東部地区では11,400/㎥であるのに対して、隣の旧泊村では16,050/㎥と5,000円の価格差が生じている。これは基本的に全く同じものである。一歩の距離が莫大な価格差を生み出すということは、通常の物価においてはあり得ないが、入札制度のひずみがこの現実を生み出しているのである。




JV型入札]


 JV=ジョイントベンチャー(特定建設共同企業体)型発注はわが県において、トンネル工事、ダム工事、橋梁上部工事など工事額が大きい工事において採用されている。

 この場合、地元業者同士のJVとゼネコンと地元のJVの二種類がある。前者は受注金額が大きいので受注機会を少しでも均等にするという精神から行われ、後者はゼネコン等技術力のある企業に地元企業が「子」(代表者ではない参加企業)として加わり、技術を取得し、やがて自ら代表者になりうるようにという「育成」の意味合いが含められている。



WTOの余波]

522日岩美道路のトンネル工事の調達公告が行われた。これまでは、ゼネコンと地元JVという組み合わせで公募されたが、今回は国内外の企業の組み合わせならどこでもよい、という形式である。これはWTO加盟国である我が国において、194千万円を超える工事は門戸を開かなければならないという理由による。

かつては県内のトップ企業はゼネコンから声がかかるのを楽しみにし、誇りを持って入札に参加した。土木屋である以上トンネル工事に主体的に参加できることは企業としての有形無形の財産になるからである。しかし今、疲弊にあえいでいる県内企業はこの競争に参加することが困難である。

なぜならば、トンネル工事にJVの一員として参加したとしても、将来トンネル工事に代表者として入札参加する可能性が全くないこと。これは橋梁工事にJVとして参加してその後PC工事を単独受注できるようになったこととは大きな違いである。もう一つは、ゼネコンも受注競争が激しく、低価格受注を余儀なくされるのでJVが必ず工事利益を残せる保証がないこと。場合によっては赤字を共同で負担しなければならないが、「子」である地元は積算業務から外される場合が多く見積もり行為から排除されるため、見通しが立たないこと。技術者を一人ないし二人張り付けて、赤字ではたまったものではない。しかし最大の理由はJV受注金額が入札時の「受注減点」にカウントされ、その後の地元対象の工事受注に少なからぬ不利として作用するということである。これらの理由から、JVに参加するデメリットがあまりにも大きいと受け止められるのである。





[「東部地区の発注額前年比30%増し」の中身]

わが県の本年度土木工事発注予定額はおおむね300億円超であるが、その三分の一程度の約103億円が東部総合事務所管内に投下される。しかしその主要な中身は山陰道建設関連であり、トンネル、橋梁上部工など、ゼネコン絡み物件が大きな割合を占めている。今回のトンネル工事は単年執行ではないとはいえ43億円超である。したがって地元向け物件はむしろ少ない。

トンネルJVの県内参加資格である経営事項審査評価点数(P点)930点以上の業者は県内にわずか29社、東部地区は8社であり県内業界のトップリーダーの位置にある。

全国の工事業者が群れをなして低価格で仕事をとり合う中で、リーダー達が、どのような判断を下すのかは、建設業界のみならず県の経済に大きな影響を与える。


地元の土木工事を何らかの形で受注し、その後のメンテナンスを含め見守るのは、地元建設業者の責務である。しかし、発注量が少なく受注が期待できないのだからJVに参加して薄利もしくは赤字覚悟で叩き合い受注し、他の工事の受注機会を放棄するか、JV参加を見送り今後発注されるであろう工事の単独受注に期待するか、選べる範囲はあまりにも狭いのである。

しかし、土木入札参加資格を持つ県内548社にとっては選択など初めから問題にならず、自社が向かえる入札に手当たり次第に向かい、得意分野とは無関係に受注を目指すほかはなく、最も大事な企業としての戦略性も計画性も立てることができないのが現実なのである。

 我が国は自然災害から自由ではなく、災害復旧のために迅速に対処する地元建設業者が健全に存在することが安全・安心な社会の基本である。また、災害を甚大化させないために計画的に防災活動として土木工事を行い、一方交通網の整備などの社会資本を充実させていく必要がある。

 事業は計画性の中で人材を育成し技術を高めていかなければならない。建設業に携わる労働者の高齢化率(50歳以上の労働者が全体数に占める割合)は43.5%40歳以上が65%という現実の中で、若者が夢を持ち技術を引き継いでいけるようにするためには、発注=入札制度も転換期に来ているのではないだろうか。

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帝国ニュース山陰版No.980 2012/6/4



㈱大昌エンジニアリング

代表取締役 太田忠良 

http://daishou-eng.com/


現在の役職: 

1.()日本労働安全衛生コンサルタント会鳥取支部監事 

2.()建設業振興基金監理技術者講習講師 

3.厚生労働省委嘱(中小規模事業場を対象としたリスクアセスメント安全衛生診断員) 

4. 大昌エンジニアリング【総合コンサルタント業】代表取締役 

5.建設災害防止協会(中国四国ブロック)鳥取支部長 

6.(社)鳥取県土木施工管理技士会理事・技術委員(前副会長・技術委員長)