高校の同級生と3年ぶりに会った。

彼女とは高校一年時が同じクラスで

文字通りの同級生だ。

 

 

話が弾む最中に

不意に、友はスマホの画面を示した。

それは、一冊の本だった。

当時のクラスメイトの句集だと言う。

 

 

 

海面とおぼしき青色に

揺らめく、あえかな煌めきが美しい表紙と

『陽のかけら』というタイトルを見て

瞬時に、そのクラスメイトの面影が重なった。

 

 

彼女らしいとしか言いようのない作品。

あゝ彼女なら、これくらいのことをしてもおかしくはない。

いや、寧ろ、彼女が、こうして世に出ることは当たり前だろう。

野に埋もれる人ではない。

 

 

思いがけず、青春時代のクラスメイトの活躍を知り

嬉しくて泣きそうになった。

 

 

思い返せば

才豊かな同期生がひしめく中でも

とりわけ彼女には一目置いていた。

多くを語り合ったわけではない。

ただ何気ない会話の中にも

その慧眼に舌を巻き

彼女の迸しる才を

私は確かに感じ取っていたのだ。

 

 

あれからあまりにも長い年月が経ち

私は私の人生に必死で

すっかり彼女の存在を忘れ去っていたのだが

何故忘れ去っていたのか不思議なくらい

この思わぬ再会に衝撃を受けている自分がいた。

 

 

 

人類の降り立つ前の月しづか

 

自選十二句の一句。

アポロ11号が人類初の月面着陸を果たし

「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、

人類にとっては偉大な飛躍である」

という、人類史上初めて月に降り立った

アームストロング船長の言葉に

世界中が湧き上がった年に

生を受けた私たちは

あの年の高揚した空気感を

少なからず纏っているのかもしれない。

 

まさに私たちは同時代を生きてきた同級生なのだ

ということを実感する句だ。

 

 

 

純白の息をつきたるクレマチス

 

この句には、はっとした。

花に喩えるなら

彼女自身が

クレマチスのような人だから…

彼女を一言で言うなら

「高潔」という言葉が

一番ぴったりとくる。

奇しくもクレマチスの花言葉と一致する。

 

『白雪姫』という品種の純白のクレマチスは

彼女を彷彿とさせる。

 

奥ゆかしい美しさの中に

内に秘めた力強さを感じるクレマチス。

彼女は、きっと

今でもその高潔さを保っていることだろう。

 

 

 

一様に括られし図を薔薇厭ふ

 

自選十二句の中の一句。

アポロ11号の句と共にこの十二句は

あたかも彼女を彼女たらしめている魂の骨格を

浮き彫りにしているようだ。

 

その中にあって、この句は、

唯一無二の存在である

自分に対する高らかな宣言だ。

「私は私」「よもや十把一絡げにするなかれ」

という孤高の矜持を感じて小気味良い。

 

小匙ほどの毒気を伴うシニカルさも

魅力だった彼女の笑い声が聞こえてくるようだ。

 

 

 

 

アラフィフ世代の私にとって

期せずして蘇った彼女の存在は

クレマチスの吐息として

人生の午後を歩む上での

大きなエールとなることだろう。

 

 

彼女の消息を

根気良く辿ってくれた

友に感謝する。

 

 

 

 

 

 

 

《自選十二句》

 

春浅し羽搏きしては籠の鳥

 

花衣花の妖気を纏ひけり

 

一様に括られし図を薔薇厭ふ

 

潜りたるプールの青く音閉ざす

 

柔らかき言葉引き出し秋の蝶

 

秋茜旅の時計の針早し

 

人類の降り立つ前の月しづか

 

ひとつづつ魂なびく花野かな

 

月の色受け傾ぎけり薄原

 

降る雪を絵本の中に踏みしむる

 

厩より冬の星座は見上ぐべし

 

白鳥の隠れて降りし地の光

 

 

 

 

 

 

《勝手選十二句》

 

本人の自選十二句は、

さすがにどれも秀逸。

それ以外で選ばせてもらった私の勝手選は以下の十二句。

 

 

 

 

目覚ましのカノン優しき花の雨

 

二人乗りしたるふらここ空へ飛ぶ

 

平らかに波折り畳み春の浜

 

卯波立つ最後に払ふ砂小粒

 

水際の命の乱舞蛍の夜

 

きかんぼの独り占めせしさくらんぼ

 

来世も夏潮を飛ぶへと

 

湿りたる小路の匂ひ蝉時雨

 

来し方の記憶の揺らぎ金魚玉

 

梯子なき月に兎の上りけり

 

人は皆小さく眠る枯野かな

 

凍星の光まつすぐ孤高なり