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15:朝飯前

色々な事を色々な人に話し、協力を仰がなければならない。その自覚はあった。

まず僕は、ほぼ全ての事をサフラナに説明した。ベルルが旧魔王の娘だと言うのは知っていたから、大魔獣の事と、銀河病の事。
大魔獣たちを連れて、彼女の前で紹介したのだ。

するとサフラナは目をぱちくりさせながらも何かに納得した様に頷き、こう言った。

「良く分かりました坊ちゃん。たまに、お部屋から賑やかな声がすると思っていたのです。……しかしそうですか、あのマルちゃんがこんなお嬢さんだったとは」

「……サフラナ」

サフラナはマルさん(子犬バージョン)をとても可愛がっていた。
人型のマルさんは少しばかり頬を染め耳を垂らし、一度尻尾を振った。

もっと驚くと思っていたが、案外そうでもなく、サフラナは力強い表情をしていた。ミネさんの看病に関してもお任せくださいと言ってくれ、また銀河病の特効薬の開発という大きな決意を語ると彼女に強く背を叩かれた。

「しっかりなさいませ、坊ちゃん」

いつも、何度も言われて来たこの台詞が、とても心強いと思った。
サフラナはいつだって僕の味方で居てくれる。



次に、僕はレッドバルト伯爵の元を訪れた。
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に、現魔王とミネさんの容態を説明し、銀河病の特効薬の開発にこの3ヶ月を費やしたいと申し出てた。夏の間に売れる薬は、十分売ったので、あとは冬に向けて新しい商品開発でも始めようかと話していた所だったが、銀河病の特効薬を作るまでは難しいかもしれない、と。

「……なるほど、それは大事だ。現魔王の依頼とあれば、私も何かと手助けをする必要がありそうだな。なあ、カルメンよ」

「ほほ……そうですわね」

側に控えていたカルメンさんが、実は大魔獣であったと知ったのは、この時であった。
レッドバルト伯爵は僕に一つ提案した。

「リノよ、そのような一大事、自分一人で抱え込む必要は無い。これは一つ提案なのだが……いっそ国王に協力を仰いでみてはどうか?」

「……国王に、ですか?」

「ああ。私も口添えしよう」

いったい何の協力を仰げば良いと言うのか。
レッドバルト伯爵は意味深にニヤリと微笑んで、カルメンさんにタバコを持ってくる様言っていた。

「あ、そうそうリノ。銀河病の特効薬を、現魔王は買い付けると言っていたんだろう?」

「え、ええ。そうですね、そう言う話で依頼が来てますけど……僕は、ミネさんを助けたいと思って……」

別に、商品として価値があるから作ろうと思った訳ではない。
しかし伯爵は指を振って、チッチッと。

「まあお前はその意気込みで頑張れば良い。ただ、その薬が出来たあかつきには、ぜひともレッドバルト商会からの経由で東の最果てに売り込みたいものだ。開発の為の資金提供は勿論するぞ?」

「……あ、はい」

流石伯爵。
僕は真顔で頷くしか無かった。



3ヶ月もの間、王宮魔術師としての立場を休むことになった。
流石に室長は渋い顔をしたが、レッドバルト伯爵が国王に何か口添えをしたのか、すんなり認められ、僕は少しホッとする。下手をしたら王宮魔術師を辞めなければならなくなると思っていたからだ。

「ただ、休暇がすんだら馬車馬の様に働いてもらうぞ、リノ」

室長の笑顔の言葉が、ただただ怖かったと言うのは、まあまだ深く考えない様にしよう。








銀河病。
それは、魔界の魔獣たちが死に、その遺骸が地中の中で“魔黒結晶”という魔法鉱物になる寸前に生まれる、もっとも危うい“穢れ”を浴び発病する病。

魔黒結晶の過度な採取の結果、本来地中の中に留まる穢れが地上に放出してしまい、大地は人のすむ場所ではなくなったとローク様が言っていた。そのため、清らかな土地を巡って、戦争が起こっているのだとか。

ローク様は、魔獣を穢らわしいものだと言った。
それは“死”があるからこそ、そうなのだ、と。

「……魔獣の……死……か」

特効薬を開発するにも、いったいどの方向から薬を開発していけばいいのか頭をひねらせていた。
そもそも穢れって何だろう。
自然発生した毒ガスの様なものなのか、はたまた魔法式を介した呪いなのか。

人にうつるものでは無いとローク様が言っていたから、病原菌があるものではないのだろうが……。

「……?」

ベルルが調剤室の扉をこそっと開いて、こちらを覗いていた。
それに気がついた時、僕は思わず固まってしまったのだ。

「な、なんだいベルル。どうしてそんな所で、覗いているんだい?」

「……分からなかったの。今お声をかけていいかどうか……」

扉から顔半分を覗かせるベルル。
困り顔が相変わらず愛らしい。

僕は彼女に「お入り」と言って、手招きする。
ベルルはそそっと遠慮がちに入って来て、僕の隣にやってきた。
そして、資料やら秘術書やら、薬草やらが並べられている机の端に、ちょこんと小皿を置いた。

そこには、いびつな形のクルミのクッキーが、ちょんちょんと数枚並べられている。

「……これは……ベルルが作ったのかい?」

「ええ。前に、クッキーを爆発させちゃった事があったでしょう? 私あれから、なかなかクッキーを作る勇気がなかったのだけど、旦那様が頑張っているのだからって、もう一度挑戦してみたの。……ごらんの通りよ、いまいち、綺麗じゃないのだけど……。でも、頑張ったの。味は、悪くないと思うのよ。旦那様、お忙しいからクッキーなんで食べている場合では無いかと思ったのだけど……でも、旦那様、クルミのクッキーが好きだって聞いていたから、少しでも喜んでもらえたらって思って……」

自分の両手の人差し指を押し合ったりして、どこか遠慮がちに言うベルル。
僕の為に作ってくれたのに、今の僕に迷惑にならないかなどと、彼女なりに難しく考えたのだろう。

当の僕はと言うと、少々考えが煮詰まっていた事もあり、枯れた脳内に水が与えられた様な感覚だ。
ベルルは僕の潤いである。

「ベルル、食べても良いかい?」

「……食べてくれるの?」

「勿論だよ」

僕は彼女に、隣の木椅子に座る促した。
そして、クルミのクッキーの並べられた小皿を手前に持って来て、その一つを口に入れる。

「……」

ベルルが目を丸くして、僕がクッキーを食べる様子を見ている。
僕の膝に手を置いて、自ずと僕に近寄って。

僕はその香ばしい味を、しばらく楽しんでいた。

「ど……どうかしら?」

「うん、よく出来ているじゃないか! 香ばしくて、サクサクしていて、とても好みだよ」

「……本当?」

「ああ、美味しいよ」

ベルルはホッとした様子で、胸に手を当て頬を染めた。
どれだけ緊張していたんだろう。そんなに、自信がなかったと言うんだろうか。

確かに形はいびつで少々焼きすぎた感じはあったが、それが逆に、僕の好みではあった。
以前の爆発クッキーから、大した進歩を感じて、僕は彼女の頭を何度も撫でて褒めた。

「ベルルは凄いなあ。ベルルがこんなに頑張っているんなら、僕も頑張らないとなあ」

「……うふふっ、良かったわぁ~……嬉しい旦那様」

ベルルは手を合わせて、肩を竦め、そのように言う。
しかしすぐにはっとした様子で立ち上がると「あんまりお邪魔出来ないわ」と慌てるので、僕は「落ち着いてくれ」と彼女の手を取った。

「ベルル……ありがとう。励みになるよ」

「……旦那様」

ベルルの目を見て、お礼を言った。
彼女は僕の手を両手で包む様に、ぎゅっと握る。

「旦那様……私にして欲しい事があったら、何だって言ってね。私旦那様のためなら、何でもするわ。ううん、何だって出来るのっ」

「……ベルル」

何故か僕の手をぎゅっと握ったり力を弱めたり、かと思ったらまたギュッと握ったり。
ベルルがあまりに健気で愛らしいので、僕は彼女を腰を引き寄せ、椅子に座ったまま抱き締めた。

ぎゅーっと。

「ありがとうベルル。ベルルがずっと側に居てくれるなら、僕も何だって頑張れるよ」

「まあ、旦那様の側にずっと居るなんて……そんなの当たり前よっ。朝飯前と言う奴よ?」

「はは……朝飯前と言うのは、なんか変な感じがするな」

「そう? 本当はもっともっと、一緒の場所に居たいくらいだもの。……旦那様、旦那様がお薬の研究を頑張る姿を見ていると、私も苦手な事から逃げられないって思っちゃうの」

「苦手な事?」

「ええ。色々よ。難しい文字の小さな本を読んだり、ブラックコーヒーを飲んだり、お昼寝を我慢したり!」

「あはははは」

思わず笑ってしまった。
ベルルは何と戦っているんだろう。

「……旦那様、頑張ってね。きっと何だって出来るわ」

ベルルはそう言うと、ぎゅーっと、僕の頭を抱いた。

疲れや不安は、全部ベルルがどこかへやってくれるらしい。
彼女の羽の様な軽やかな声は、僕をはまり込んだドツボから引っ張り上げてくれる。






ベルルの持って来てくれたクルミのクッキーをかじりながら、僕は再び秘術書を読んでいた。
白の秘術書も、赤の秘術書も。

もぐもぐと口を動かしつつ、あれそう言えばベルルは何でクッキーを爆発させたんだっけ? と考えた。

「……えーと……たしか」

確か、魔法結晶の中の隠居した妖精と、まだ活動している妖精が出会い、何かしらの力が働いたからだ。

「何かしらって何だろう」

テール博士は、そこを詳しくは教えてくれなかった。確か、妖精と妖精が会話したからとだけ言ってたっけ。魔法結晶の魔力が、爆発を生んだんだろうか。

「……」

僕はそんな事を考えながら、ふっと手を止めた。
なぜか、父と母の事を思い出したのだ。

父と母の死の原因は、モナリエル国のレイモーア鉱山での落石事故だ。レイモーアは魔法結晶である鉱物の一種。両親はレイモーアの研究員として、ちょうどその鉱山へ赴いていた。
しかし実際は、レイモーアの鉱山で研究員の一人がこの石の扱いを誤ったから爆発が起きたのだと聞いた。だと言うなら、どういった誤りのせいで爆発が起きたのだろう?
ベルルのクッキーのときの様に、妖精と魔法結晶が会話したのか? いやしかし、いくら妖精が気まぐれだとはいえ、そんな大惨事を引き起こすとは思えない。

聞いた話によると、研究員たちはレイモーアの原石を前に口論していたらしいが、いったい何を口論していたと言うんだろう。何を前にして?

「……」

ああ、駄目だ。
銀河病の特効薬から全然違う所に意識が向かっている。

僕は眉間をぐりぐり押して、くるみのクッキーをもう一つ摘まんで、口にした。
集中しなければならない。