30万近い金を支払い、入学式を済ませたのがお昼前。

空いている時間全てで学科を受けられるかと思いきや、時間割りどうりのスケジュール以外での学科は認められなかった。

世間で言う夏休みまであと2週間、その間になんとか免許を取ってしまおうという浅はかな思惑は、早くも座礁する事になる。

教習所でタイムロスが発生するとは…こんな事なら合宿にでもするべきだったか。

しかしキャンセルは効かないので、早速一時限目を受講、善は急げだ。

赤は止まれ。
黄色はなんたら。
青はかんたら。

ち、ちょっと待ってくれよ教官、この辺はいいから次頼むよお願いだから。

右にハンドルを切る右に。
左に切ると左に。
切らなければそのまままっすぐと車は前に進ん…。

次々…大丈夫だから…頼むよ、急いでるんだよ。

初日はハンドルの切り方まで受講しただけで修了…これではいつ卒業出来るか分かったモンではない。

しかも受講が終わってもまだ昼過ぎである…これでは確実に資金が枯渇してしまう、ギャンブルの蜜の味に溺れている俺には、衝動を押さえる術などありはしなかった。

だが奇跡はここからだった。

数年に一度訪れるビクトリーロード。

どうやらそれに突入した模様で、何をやろうがとにかく金が増えていく、しかも10万に程近い単位で。

GODだろうがなんだろうが、とにかく引けるのだ、ゾーンに入ったとでも言うべきか、教習に向かい、ちょろっと車に数時間乗り、終われば学科。

学科を済ませたらパチンコ、GOD やら牙狼やらと戯れ、みるみる増えていく不労所得。

まさしく追い風…エンペラータイム到来である。

そう確信した俺は、アポイントの日までひたすらこれを繰り返した。

慶次。
北斗。
GOD。
番長。

何も考えずに打ち散らかした。

無職7日目。

7戦7勝で迎えたアポイント当日、俺は新しいスーツを身に纏い、東京駅にいた。

教習は早くも2段階へと突入し、勝ち額は120万を越えた。

死ぬのではないだろうかと本気で考えたくらいである、それほどまでにこの1週は奇跡で充ち溢れていた。

しかし、ここである。
ここで負けたら何の意味もない。

手元の幸せより先の未来である、間違いなくここは自分の人生のターニングポイントであった、絶対に落とす訳にはいかない。

着慣れていないスーツの袖を捲り、アポイント場所へと向かう。

予定の時間より1時間以上前に到着、最低限のマナーである。

それともうひとつ…もしかしたら担当者の方も同じ考えで早い段階で待ち合わせ場所に現れ、素の候補者の品定めをするのではないか?

勘繰り過ぎではあるが、意外とこの手法は使われている。

時間のルーズさとか、待ち合わせ場所での店員さんへの態度とか、電話を掛けたりするマナーを持ち合わせているか?等々。

顔を合わせる前に客観的に素行を観察するのは、人間性を探る上で高い効果がある。

そんなのある訳がないと思うならそれで構わないが、あくまで可能性はあるというだけの事だ、可能性があるのならやれる事は全てやり尽くす、それが俺の転職における基本ポリシーなのだから。

そしてこの考えは見事に的中する。

入店してから30分程で、20分程前に来店した男性が、こちらに向かって来た。

ロハンさん?ですか?





次の日、俺は病院にいた。

18年働いたパン工場でのストレスから胃の半分を胃潰瘍にしてしまい、胃カメラを飲む必要があったからだ。

幸い昨日は打ち続けたおかげでメシも食っておらず、家に帰ってバタンキューだったので、体調的には絶好の胃カメラ日和、故あって胃カメラの列に朝から並んでいるのだ。

そもそも昨日の勝利で得た金は、こういう風に使いなさいと言われていると認識したので、この際だから有意義に使わせて貰う事に。

人生初の胃カメラ…ウエウエと嗚咽を繰り返しながら、先生にタバコはやめなさいとか野菜をちゃんと採りましょうとか言われたが、それよりもいち早く胃カメラを抜いて貰いたい一心だけが頭にあった。

検査後、売店でジャムパンを食べた…これがものすごく美味しかったのを俺は一生忘れないだろう。

しかし結果が出るまで5時間…。

辺りにあるのは田んぼと昨日のパチンコ屋だけである、こんなバカな選択肢ってないよなと思いながらも脚は自然とパチンコ屋へ…我ながらバカな男である。

自動ドアを抜け店内に入ると、いきなりメールが届いた、スカウトメールの返信である。

落ちて当然くらいで応募したのだ、お祈りメールお疲れ様です!みたいなノリで内容に目を通す、すると…。

お疲れ様です。
株式会社○○○○○○
採用担当の○○と申します。

今回職務経歴書を拝見しまして、是非ともロハン様とお話しをしたいと思いまして、御連絡させていただきました。

これは面接の確約ではありません、あくまで私個人でアポイントを取りロハン様とお話ししたいと判断しました。

よってどうか気軽にお越しいただければ幸いです、私もプライベートで行きますのでw

東京あたりでいかがでしょうか?

御連絡お待ちしております。

採用担当○○

…願ったり叶ったりである。

それに文面からすると、定形文で作成しているとは思えなかった。

wはないでしょ、だって。

となると経歴書で興味を持って貰えた公算が非常に高い、採用の可能性は比較的高いのでは?と俺は思った。

直ぐ様折り返しの電話を入れ、アポイントを取る、実はこの電話も30分以上の長電話で、業務内容や、俺個人の考え、スキル、仕事上最も大切だと考えているモノ等、世間話を織り混ぜながらの電話となった。

ボロが出ると考える方もいるだろうが、ここは自分を売り込む先制チャンスだと俺は考えた。

アポイントが数日後という事は、その間採用担当の方は何人かの候補者とアポイントを取り話す事になるハズである、よって順番を飛ばして好印象を持たせる絶好の機会であった、そういう意味では一次面接と同等の価値はあったと思う。

アポイントを取り店内に戻る、ぶっちゃけこの時点でもう勝負はどうでもよかった、だがしかし!

デジャヴ!!

昨日の再現!!!

入店数分で確変を引き当て、夕方過ぎには身動きの出来ぬ程の出玉を獲得、8万発程の大量出玉を獲得し、日が沈む頃には家で晩酌という至福の展開を迎える事となった。

検査結果の電話が何回も掛かってきてはいたがそれどころではない、こうして無職2日目にして70万を越える月収を手にした俺は、プチプチとスマホをいじくっていた。

自動車教習所。

お恥ずかしい話、この歳までバイクの免許だけで生きてきたので、ここは思いきって免許を取ろうそうしよう、みたいな感じである。

という訳で無職3日目、ロハン41歳、入学します、ウフフ♪









…まるっきり出ない。

当たり前の様に一万円が無くなる、しかしこれはいつもの光景である。

一万円等は準備体操みたいなモノ、メソメソするなら家に居ればいいだけの話。

とは言うものの、ヤケクソで打っていたのが正直な所であった。

ぬるいコーヒーを買い、気分をリフレッシュ!!!

…する訳もなく、淡々とレバーを叩く。

大あくびをしながらレバーをガコガコとひたすら叩く作業…ところが…。

突然フリーズが降臨…言うなれば万枚の大チャンス到来である。

万枚が出れば、日当換算で月の生活費を叩き出す事が出来る…ここは正念場である、ロハンの全身全霊を込めて、勝負に望まねばならない。

しかし俺は知っている。

こういう時はショボい結末で終わるのだ。
今まで散々チャンスをフイにした経験から、なんとなくそう感じていた。

しかし…。

これが夕方を過ぎてもメダルの放出が止まる所を知らず、予想外の展開を迎える事になる。

揃ったら大変な事になるプレミアム役が7回も揃い、それらを閉店30分前に全て取り切るという結末を迎え、獲得メダル22000枚、金額換算で44万円となる嬉しい大誤算でフィニッシュ!!!

…神様はいるんだな、ちゃんと見ているんだなと生まれて初めて実感しての帰宅となった。

そして…。

この日を境に俺の人生は少しばかり狂い始めていくのだった…いや、もう充分狂ってるよな実際。