2.トモダチ3-1 | 隣の彼

隣の彼

あたしの隣の、あのひと。……高校生の恋愛模様。



 この暑い季節に冷たい彼女の華奢な手が、何も言うことなくあたしの手を引いて。あたしも口を噤み、導かれるまま彼女の少し後ろを歩いた。
 階段を下りていく。一階まで来ると、ひと気のない昇降口へと向かう。校舎を出たところで、彼女ははっとしたようにあたしの手を急に離して足を止めた。そして振り向いたと同時に深く頭が下げられた。
「ごめんなさい!」
 いきなり謝られて、あたしは呆気に取られる。彼女のつむじを見ながら、数秒の間、なんのことだろうと考えた。けれど、理由が解らない。
「沢木さん、何で? 何で謝るの?」
 彼女はパッと顔を上げて。眉を寄せた俯き加減の顔で、瞳だけ上目遣いにあたしを見る。
「……だって、楠原さんたちに絡まれてたの、私のせいでしょ? アオとの変な噂が立ったのも……。私が考えなしに、アオに沢木さんを家まで送らせたから……」
「別に、沢木さんのせいじゃないよ」
「でも」
「ホントに! 沢木さん、気にしすぎだよ。全然、沢木さんのせいじゃないから。それに、どうせその前にだって、アイツにお姫様抱っこされたのも皆に見られてるんだし」
 あたしの言葉に、彼女はどこか驚いたような顔をして。そして困ったようにはにかんだ。
「……沢木さんは、優しいね」
「……え」
 言葉の意味を図りかねていると、ぐうううううう、と、あたしのお腹は盛大な音を鳴らした。昨日といい今日といい、堪え性のない腹に、あたしは真っ赤になった。
「……っ、凄い音、鳴っちゃった」
 恥ずかしさを誤魔化すように、舌を出し苦笑いしてみせた。沢木さんは呆れた顔ひとつせずに、にっこりと微笑んだ。
「私のおにぎりで良ければ、食べない? どうせ、いつも食べ切れなくて余らせちゃうの。それに、今日のからあげは自分で作ってきたから、味見してくれると嬉しいな」
「……え」
「私が強引に連れ出しちゃったから、沢木さん、お弁当もお財布も教室に置いてきちゃったでしょ?」
 ごめんなさいと、もう一度謝罪の言葉を述べた彼女は、あたしの手を再度取って、石段の木陰へと促した。






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