『もうご飯の支度しなくていいから!』

どうして?

お母さんは更年期になって

時々急に怒りだす事がある。

でも、

理不尽だと思っても

どうしょうもない現実だとここでも思う。

それに山田に相談したら

『いいじゃん。お母さんが生きていてくれるんだから

俺んちなんか、おふくろ 父さんの浪費に嫌気がさして

家出しちゃってさ

そのまま他に男ができて

帰ってこなくなったんだよ。

それに、おふくろその男に騙されて

今では消息不明。

お前に言わなかったっけ。

俺いつも

学校ではおちゃらけてるけど、

笑ってばかりいるけど

本当はいつも

泣きそうな時に笑うんだよ。

これみてよ。

俺と父さんとおふくろ3人で撮った

後楽園での写真。

綺麗に撮れてるだろ?

この頃は父さんも真面目だった。

現場監督の仕事してるんだけど

上司のミスを全部自分のせいにされて

首になって

職をうしなって

酒とギャンブルに溺れて

しまいには

おふくろの貯金にまで手を出して

人が良いって損だよな。

お人良しっていいうか

だました奴に

騙された人の気持ちなんてわかんねぇだろうな。ははは・・・。

だから俺、愛とか夢とか大嫌い。

信じたくもねぇよ。

俺なんかじゃ相談になんて乗って

やれないかと思ったけど、

世の中にはいろんな人が居るって事忘れんなよ。若林。

かぁさんが居て

とぅさんが居て

ずっと、

一緒に暮らせる事がどれほど幸せな事か

わかってんだろ?俺に聞くなよ。

母親の更年期くらい支えてやれ。

お前は俺に比べたら

とるにたらない悩みだよ。

俺ね、

かぁさんの事

一生懸命働いて

見つけ出して

もう一度抱きしめてやりてぇんだ。

あんな親父でもお袋でも

俺の親だよ!

負けんな若林!』

バシ!!って山田に肩を叩かれた。

━─━─━─━─━─

その時私は山田に相談してよかったと思った。

だから、こんどは恋愛の事も

相談したいと思った。それが正直な感想だ。

若林の強さ、に

全身に電流が走ったよ。

【結婚のBOSS】











『ただいまぁ』

家についても誰もいない

もう彼女と別れてから3か月がたった頃の事だ

僕は、こんな事を思ってた。

オフィスでは

次から次へと

女性社員から

恋文メールやお弁当を作ってもらっているけど

僕にとって

元彼女は

たやすく忘れ事の出来ない存在である事が

苦しくてしかたない

現在が証明してる。

下請けの取引先で

何もしらない

何も出来ない

彼女と出会った。

だけど

誰よりも純粋で

優しい子だと思ってた

笑顔が誰よりも可愛くて

出来ないなら出来ないなりに

一生懸命で

僕に頼らないで

誰よりも早くオフィスに来て

誰よりも遅くに自宅に帰った

朝方マンションに帰ってふらふらになってしまってるのを見て

一度激怒して

自分の体を大事にしろ!と叱った事も

あったが

彼女は

泣きながら

介護しなければいけない

糖尿病の母親の事を

身の上の事を話した

一日も早く母親に

痛みを感じない病室で

介護に徹して徹したいから

今は少しでも働かせて欲しい事を

泣きながら訴えた

そう、母の命はそう長くない事を

肩をふるわせながら

僕に訴えた。

もう、糖尿病が悪化して

目が見えてなくて

彼女の事すらよくわからなくて

大学も奨学金を借りで卒業したから

働いて

一人前になって

母さんが大好きだった

京都に連れていって着物をきせてあげたいと

例え目が見えてなくても

母さんの夢だった

日本舞踊を見せてあげたいと

思ってると

一度でいいから

親孝行して

若いころ迷惑かけたから

母さんを泣かせたいと

何度も何度も僕に頭を下げた。

僕は彼女の事をよく知らないくせに

激怒して

怒鳴ってしまった事を

深く後悔した

そう、告げると彼女はその場に

倒れて、

僕はその場で抱きかかえた

そう、恋人になってからも

彼女を抱きしめたのは

それが最初で最後。

恋人になっても

他の女性とは違って

触れる事ですら

罪悪感を感じてしまうくらい

彼女が

愛しくて

愛しくて

たまらなかった。

唇を重ねたいと感じた事は何度もあったけど、

結局出来なかった。

笑ってくれ。

四六時中キスなんて挨拶だと思ってた僕が

本命には

触れる事ですら出来ないなんて。

追いかけても

追いかけても

腕の中から彼女は

スルリと逃げてしまうようで

砂漠の砂をつかむような気持ちだった

そう

いつも

いつも

そう恋したのは5年前の7月。

僕には

彼女じゃないけど

完璧な女性と結婚して

第二子にも恵まれた。

でも、

僕の本当の気持ちは、

立川 乙葉

君を妻にしたかった。

今でも君を愛してる。

【結婚のBOSS】



















朝方 目覚めると

家には誰もいなくて

父も母も姉も

仕事に出かけてた

僕のうちはどこにでもある

普通の家庭で

どちらかと言えば裕福な家庭で

働き者の家族は

文句一言もらさず

朝から晩まで働いた

父は気象庁で

母は理事長

姉は大学病院の院長で

僕はというと

自分で天文学者になる事が

小さい頃からの夢だった

星が大好きだったから

天文学を大学院で研究する毎日を送ってる。

ずっと、こんな日が続くものだと思ってたし

家族そろって毎月記念写真を撮る事も

続くものだと思ってた

何不自由なく生活出来た事も

それぞれの道を切り開く事が出来た事も

全て

家族のおかげであったという事を

僕は一生忘れない

父が秋葉原の通り魔に合うまでは━─━─━─━─━─・・。

2008年(平成20年)6月8日

父と最後に会話をした事は

父の誕生日も近かった事もあって

ネクタイなら何色が好きかなんて

聞いたりしてた

父は玄関で母と

いつものキスをすると

行って来ると言ったっきり

帰らぬ人となった

傷口は浅かったけど

大動脈をしっかり切っていて

流血の止血も遅く

血まみれの手には

家族で先月撮った写真を握りしめていた。

報道陣が次々に家をおとずれ

家族のプライバシーもなくなり

家の中では母も姉も嗚咽しているにのに

大きく取り上げられ

ネタにされ

幸せだった僕の家庭はあの日を境に崩れ去ったんだ。

起きた事を

覆す事ができなくとも

静かにしてくれないか?

僕んちの事何を知ってるんだ?

頼むから帰ってくれ。

報道に救われる事もあっても

報道に苦しむ事もある。

それ以来僕の家で

父の腹の底から出すような

大きな笑い声が

響き渡る事はなくなった━─━─━─━─━─。

そして今日も僕は秋葉原にいる

仕事に行く途中に毎朝花を手向けにくるんだ。

『僕、来年の春この家を出るんだ

父さん、

7年間付き合った彼女との間に子供が出来て

彼女と婚約した。

でも、

父さんに紹介出来なくてごめん。

ねぇさんもかぁさんも

喜んでくれて

父さんに一番に報告して来なさいって

言われたんだ。

だから父さんの名前、

つけてもいいかな?

太陽に向かって

強く行きぬける

強い男になって欲しいから


 【日向】

【陽田 日向】

天文学の研究室では、

新しい発見や

喜びが

満ち溢れてて

よく父さんの話が出てくるんだ。

同じ傷を負って僕たち家族は

一度は生きる気力を失ったけど

父さんのように強い男になって

僕は家族を全力で守るよ。

だから、その時は━─━─━─━─━─、

父さんの事日向に

話して

弱い立場の人を守る子供を育てても

いいかな?

新しい時代の報道を夢みてもいいですか?

僕にとって父さんは

最高のヒーローでした。

僕は父さんの子で幸せでした。

【結婚のBOSS】















そう、僕は信じてる

赤子の君と

いつか抱きしめる事が出来ると言う事を

時は戦国時代

次々に戦国武将が姿をあらわし

女子供は人質になっていた

そんな時代に生まれた僕は

貧しい小作人の家で産声をあげた

たった一人の跡取り息子だった。

服も買えず

ご飯もろくに食べる事が出来なくて

朝から晩まで、

畑仕事に精を出した

でもケンカだけは

誰よりも強くて

刀をもてば

息の根を

引きとめる

確実なさばき方を

心得ていた

誰かに教わったわけじゃない

ただ、

もの心ついた時から

誰よりも

強かった

そう沢庵が大好きで

成人してからは

家内がつくる沢庵を

必ず口にしてから

暗殺者として

仕事とする武将にまで上り詰めた

そう、

刀は生き物で

魔物が住んでいる

だから

この刀と共に

最後まで

伊江門様に使える覚悟だった

そう、小作人だった

僕を

救いあげて

僕に生きる道を与えてくれた

僕に生きる一筋の

可能性を与えてくれた

だから

この命伊江門様の為なら

朽ち果てても

悔いはない

そして今日も

天下統一の為に

次々暗殺を繰り返す

切っても切っても

魑魅魍魎は

僕の前に立ちはだかる

でも、

負けるわけにはいけないんだ。

だって僕は生きた暗殺者だから

でも━─━─━─━─━─・・・。

愛とか夢とか

人生にはとるに足らないものだと

信じなかった僕に

家内は愛を与えてくれた

信じる気持ちを与えてくれた

唯一僕の居場所になってくれた

これも伊江門様の紹介で

人生最大の

恋に落ち

暗殺もいつかは

止める事が出来るものだと

安心して

家内と共に過ごす事が出来るものだと

そう、海辺で一人で願ったんだ。

いつかは子供も欲しい。

そう、願った事が間違いか?


教えてくれ━─━─━─━─━─・・。

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!』家内の声だ

ついに

隠れ家が見つかってしまった。

『家内に触るんじゃねぇ!!!!ぶっ殺してやる!!』

うわわわぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ。

斬!

天下統一

そういつか、伊江門様と見たかった。

幼い赤子を抱きたかった

それじゃ駄目か?

教えてくれ。

家内を愛してるよ。

この日を最後に

天下統一への道を見る事が出来なくなった。

そう、

運命の恋━─━─━─━─━─。



【結婚のBOSS】











一言だって悪口は言った事がない

僕は産まれた時からスパルタ教育で

友達と遊びに言ったことがない

親が俗に言う

かなりの大財閥で

あれをしなさい

これをしなさい

友情なんて信じるんじゃないって

愛とか夢とか

バカバカしい

そんな風に育った

だから

みんなが学校で口ぐちに言う

はやりのおもちゃとか

はやってる歌とか

全然わかんなくて

ただ

僕にとっての

最高の親友はストップウオッチだった

時間が大好きで

いつも

なにをするにも

時間をはかって

幼いころ

時間を競って

遊んでくれた親父の優しかった時の事を思い出したりしてた

親父が優しかった時は

そんな時だけで

親の仕事を継ぐ為に

寝る時間もなく

朝から晩までスパルタ教育を受けた

だから

俺は一度だって

心のそこから笑った事がない

だから

同じクラスになった

あいつが

俺のもってないものを持ってるようで

少しだけ

ひがんだ気持ちがあった

あいつは

いつも

服も同じで

穴まであいてて

靴だって

きついの我慢してはいてて

妹や弟の為に自分の給食まで

残して

ガリガリで

俗世間でいう

エリートでおばっちゃまだから

俺とは対照的だった

いつも友達に囲まれて

本当何をしても気に入らなかった

俺の一番欲しい金では買えないものを持ってたから

だから

俺は最低な事をしてしまった

あいつが

誰よりも大事にしてた

あいつの

母親の形見の鏡を

取り上げて

みんなのみてる前で馬鹿にして

割ってやった。

俺は生涯悔やんでも悔やみきれない

あいつは一言だって

俺に対して

言い返してこなかった

ただ、半分泣きそうな顔で

笑うんだよ

笑いながら

割れた鏡をひろうんだよ。

その鏡にどんなエピソードがあったかと思うと

俺は、

俺は━─━─━─━─━─・・・、

もう言葉がでないんだよ。

その鏡はあいつは寝ないで働いて

母親の為に

空き缶拾って

やっとの思いで買った初めてのプレゼントで

そのプレゼントを渡す事なく

母親は他界してしまった

だから、

あいつはいつか

天国に言ったらわたすんだ

僕にとって初めて

働いたお金で買った

鏡だからって。

笑いながら言ってたって

あぁそうか。

俺はとんでもない事をしてしまったと

初めてそこで気がついた。

俺、

ごめんな。

謝りもしなかったよな。

でも、いまでは

お前と俺はトップを争うライバル会社で

負けるわけにはいかないけど

俺を憎んでるかもしれないけど

一度だけ

謝らせてくれ

そうでもしないと

俺は悔やみくれなくて

天国に心よく行けないんだよ。

だから、

俺、

俺━─━─━─━─━─・・・。

もう一度産まれ変わったら

お前みたいに

生きてみたいな。

そんとき

一緒に

心の底から笑ってくれないか?

楽しみにしてるよ。

【結婚のBOSS】