ずっと前のこと、買い上げた文袋を
ご自分のお店に置き
売りに出してくださったかたがありました。

しかし残念なことに
その文袋はずっとそこにあるのでした。
それを見て、あたしは、肩身狭く
どうにも申し訳なく思ったのでした。

文袋ひとつがそこにあって
ずーっとそこにあって
買いたいと思う人が現れないその現実に
自分の力不足を切なく思い知らされました。

それは、それ以後、
文袋をどなたかの手にお預けするときの
ためらいや不安のもととなったのでした。



それから数年が経ち
今年一月、ポシェット百個をつくり
それをズラっと並べて見て
ああ、と気づいたのは
数の力とその方向性の力でした。

ひとつひとつはほんとに小さいポシェットが
広い会場にずらりと並ぶと
なにか違うもののように
意味を持ち始めるように思えてきて
なんとなく
レオレオーニ作の絵本『スイミー』に出てくる
小さな魚の群れを思い起こさせるのでした。

つまりそれは
姿を変えた文袋のありようであり
その後の進むべき道への
道しるべになるものようにも思えました。


文袋ひとつは非力な小魚と同じで
他人のふんどしで相撲を取る
つまらないものかもしれないんだけど
たくさんが寄せ集まってひと塊になって
それが同じ方向を指していたら
なんというか
世の中と向かいあえるような気がしてくるのです。


~ひとつのテーマに集まるたくさんの文袋~

ここのところずっと
そんな文袋のありようを思案しています。