エピローグ ⑦ 「日本の桜を見るまで、 わたしは夢の中の花はアーモンドだと思っていたのよ。 それなのに五年間、 毎月アーモンドの花の咲く頃にも 私に会いに来てくれていたフィンを 夢の中の人だと思ったことは一度もないし 夢自体忘れていたわ」 キリーはアレックスのブルーの瞳を覗き込む。 「初めてパーティーであなたに会った時、 夢の中の人かもしれないと思った。 二度目に会った時やっぱりあなたなんだって確信したわ。 三度目はもう夢の再現でしかなった」 キリーはアレックスの体に手を回して抱きしめる。 「僕も夢を見た」 アレックスは初めてキリーに出会った後、 再び会えるまで毎晩見ていた悪夢を思い出す。 「自分に何が足りないのか、 何が欲しいのかさえわかっていなかった。 なのにきみを見た瞬間思ったんだ、 僕が捜し求めていたのはきみだって、 きみが僕に足りない物そのものなんだって。 きみを見失ったあのパーティーの夜を 再びきみに会えるまで毎晩悪夢のように見た。 追い駆けてもけっして手が届くことはなく、 きみはお別れの挨拶をすると吸い込まれるように 光の中に消え扉はかたく閉ざされ、 僕は孤独と絶望の闇に飲み込まれる」 キリーを強く抱きしめアレックスの表情は安らぐ。 「だが、再びきみを見失い 日本に発った飛行機の中で見た夢は少し違っていた。 悪夢の続き、 けっして辿り着くことのできなかった、 きみが消え固く閉ざされた扉の前に立っていた。 もう手遅れかもしれない、 この扉を開けてきみがいなければ 僕は本当に気が狂うかもしれないと思いながら 開けずにはいられなかった」