エピローグ ⑤ 「幼い頃、父に連れられてよく森を散歩したものよ。 父はこの森の木すべての名前、 ヘスティアの一族の名前と歴史を すべて把握している一族の当主なの。 アーモンドの花が大好きだった初代の当主が 子供の生まれた日に一本の木を植えたことが始まりで、 今では毎年、 一族のものは子供が生まれると木を植えに来る。 いつの間にかアーモンドが収穫できるくらいの森になったので、 父は農場主のような仕事もしているけど……」 キリーは肩をすくめ首を振る。 「わたしは、 秘書の資格をとった時に父に勧められて、 父の仕事を少し手伝ったことがあるけど、 その仕事の多用さに父が本当は何の仕事をしているのか さっぱりわからなかったわ」 軽い吐息をつくキリー。 アレックスは思い出す。 初めてキリーに出会った後、 フィン・マックル以外にも手がかりがないかと キリー・ヘスティアの名前で調査をしたが 何もわからなかった。 そんな人間は存在しないとでも言うような 手がかりのなさだった。 見渡す限りのアーモンドの森を見てアレックスは考える。 これがヘスティア一族の幹だと考えると、 その財力、権力、知力は一国家に匹敵するだろう。 そして、 キリーはヘスティア家のプリンセスなのだ。 そこまで考えて、 アレックスはふと思い至る。 大切なプリンセスを優秀だからと言う理由で 縁も所縁もない医師やエージェントに託すだろうか? 「ケインやフィン・マックルは一族なのか?」 アレックスの質問に キリーは遠い記憶を 呼び覚まそうとしているかのように答える。