Ⅹ ⑤ ついでに言えば昨日完成したばかりなの」 キリーは大好きなミルクティーを一口飲むと続ける。 「それはあなたに預けるわ」 うっとりするような笑みを見せるキリー。 「読んでも?」 驚きと期待で瞳を輝かせるフィンに苦笑するキリー。 「だめよ、 それは持って帰ってあなたのお仕事の時間にしてちょうだい。 今日は私に会いにきてくれたのでしょう? あなたに聞いて欲しいことがたくさんあるのよ」 聞いてくれないの?とでもいうような寂しそうな瞳で 見つめるキリーに肩をすくめるフィン。 「ごめんよ、ハニー。 けっしてきみのことを忘れたわけじゃあないんだ」 いつでも冷静なフィンが 珍しく焦っているのを見るのはとても楽しかった。 「大丈夫よ、ダーリン。 あなたがハデスの大ファンだって知っているもの」 フィンを驚かせることができてキリーは嬉しかった。 キリーの話からこれまでの状況を考えるフィン。 「キリー、作品を完成させたのに、 こんなに元気なきみを見るのは初めてだよ。 アレックスのおかげなんだね?」 うなずくキリー。 「それとアレックスの望みが関係しているんだね」 花のように微笑みながらキリーは話し始める。 以前ここでフィンと別れたあとに起きた アレックスとのやり取りから、 帰国する前日にアレックスと交わした約束まで。 「アレックスが日本に来た翌朝、 目覚めるとハデスの作品ができていたの。 それで完成させるために帰国することにしたのだけど、 アレックスがわたしと離れることを頑として認めてくれないので、 わたしを預けることにしたの。 手のかかるわたしと結婚したら大変だということを実感したら、 結婚を思い止まってくれるかもしれないと願いながらね」