Ⅸ ⑫ 「まあ、キリー。 お仕事はもう終わったの?残念だわ。 あなたの準備を手伝うのを毎朝楽しみにしていたのに」 「おかげさまで早めに終えることができました。 お母様とアレックスのおかげですわ」 キリーの言葉にバーバラは勝ち誇ったように笑い、 アレックスは渋い顔をした。 「ですって、アレックス。 聞いた?早めに終わることができたのよ。 あと二、三回くらいわたしに預けてくれたもよかったのに……」 バーバラの言葉を途中で遮り 冗談じゃないとでもいうように大きく首を横に振るアレックス。 「母さんに預けたら二回とも キリーの作品はちっとも進んでいなかったじゃないか!」 アレックスの怒りをひしひしと感じながら とんだところにかわいらしい伏兵がいたことを知って おかしくてくすくすと笑いだすキリー。 「それで、 お母様はわたしをどこへ連れて行ってくれたんですか?」 アレックスと違って自分のことなのに 怒ることなく微笑みながら尋ねるキリーに うっかり口を滑らせるバーバラ。 「とても楽しかったのよ。夢が叶ったわ。 あなたは何を着てもかわいいから服を買うのも 食事をするのも楽しかったわ。 みんなあなたのことを かわいらしいお嬢様ですねって褒めてくれるのよ」 思い出してうっとりしているバーバラに アレックスの瞳が怪しく光る。 「やっと白状したな母さん。 あの日のキリーの様子から何かおかしいと思っていたのに、 僕がいくら問い詰めてもはぐらかしてばかりだった。 でもキリーに嘘はつけないんだな」 火花を散らしあい険悪なムードでにらみ合う親子を 愛しく思いながらキリーが笑う。