今回は日常生活ではなく、激しいスポーツや肉体労働などで大量の汗をかく場合の水分補給について考えていきます
特にアスリートというわけでなくとも、草野球やテニス、ゴルフ、学生の部活動なども該当しますし、屋外や空調のない場所での労働作業など、大量に汗をかく状況全てに該当します
少量の汗で失うのは主に水分だけですが、大量の汗では同時にカリウムやナトリウムといった「電解質」やマグネシウム・カルシウムといった「ミネラル」も多く失うことになります
特に細胞外液に多く含まれるナトリウムは発汗で失われやすく、ナトリウムが大量に失われると細胞外液自体の量が減ってしまいます。
そうするといわゆる「ドロドロ血液」の状態になりますし、細胞内液/外液のカリウム/ナトリウムのイオンバランスが崩れてしまい、体調不良を起こすことになってしまいます
この状態で、もし「水だけ」を大量に摂取すると体液のナトリウム濃度はどんどん薄くなり、極端な場合は低ナトリウム血症というものになってしまい、命の危険にさらされることにもなりかねません
ではどうすればいいのか?
まずは水分と同時にナトリウムの摂取をすることです。
失われた水分とともにナトリウムを速やかに摂取することで体液量の著しい減少は防げます
他にも失われるカリウムやミネラルは特に急いで摂取しなくても大丈夫ですので、それらは家に帰って夕飯などでちゃんと補えばOKです
ナトリウムを補給するには、つまり飲み物に塩分を加えるということですが、これは少なすぎても多すぎても駄目なわけで、目安としては飲み物の0.2~0.5%程度です。
1Lの水分に2~5gの食塩を入れるということになります
長時間にわたる大量の発汗では、1日に20g以上もの塩分が失われることもありますので、そういったことも考えると、長時間大量に汗をかく人は2L以上の水分に10g程度の塩分が含まれた飲み物を摂取する必要があります。
のどの渇きを感じてからでは吸収されるまでにタイムラグが出来てしまうので手遅れです。
15~30分おきに定期的に水分補給が必要です
また、速やかな水分補給にはその温度も大事です。
よくある勘違いですが、水分は口や胃では吸収されません。
腸で吸収されます
素早い水分補給のポイントは、いかに早く胃を通過させられるかが大事です。
常温の水分や、がぶ飲みは胃での滞留時間を長くします
少量のよく冷えた水分が胃を早く通過しますので、5~10度ぐらいのものが適しています
冷たいものを飲むと胃がビックリするから常温のものを飲むように言う人もいますが、心配しなくても胃はかき氷でもビックリしないので大丈夫です
長時間大量に汗をかく場合の水分補給をまとめると・・・
・よく冷えたものを
・こまめに少しずつ
・塩分を0.2~0.5%入れて
・水分2L以上、塩分5~10g程度
そして家に帰ってから、他に失われたミネラルやカリウムが含まれる食品をタップリと摂りましょう。
特にカリウムは水分補給で摂りすぎたかもしれない塩分を排泄し体内の濃度を調節してくれる働きがあるので大事です
基本的に運動時などの水分補給はこれでOKです
しかし、アスリートなど競技パフォーマンスやスタミナのアップが求められる状況では、実はこれではちょっと物足りません
さらにプラスアルファの補給をすることが大事になってくるのです。
競技成績を向上させたいアスリートは日々厳しい練習を重ねています。
そういった練習でより質の高いトレーニングをするためにも、試合本番で持っている力を100%出し切るためにも、水分補給というのは『水分』を『補給』する意味以上のものが必要です
具体的にはアミノ酸と糖質です
まず、アミノ酸には20種類あるわけですが、特にBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)やグルタミンといったものは、筋たんぱくの分解を防ぎ速やかにエネルギー源として使われる為、長時間の運動時には体の受けるダメージを低減させてくれます
持久力の向上が望め、疲労からの回復を早める効果も期待できます
また、中枢神経系の疲労も軽減する可能性がないこともないと(笑)言われてもいますので、精神的な疲労を軽減し、集中力のアップも期待できるかもしれません。(これには反対派の意見も多数ありますが、だからといってマイナスになることはありません)
アミノ酸の摂取は、運動開始前から運動終了後まで常に血中のアミノ酸濃度を高く保っておくべきですから、運動前・中・後と合わせて20g(20000mg)前後をタップリと摂取するのが効果的だと思われます。
次に糖質です。
よくある勘違いですが、糖質というのは糖分という意味ではないですよ。
炭水化物から食物繊維を除いたものが『糖質』です
糖質は体内でグリコーゲンというエネルギーとして使われます
グリコーゲンは体内に大量に保存しておくことは出来ないので、高強度/長時間の運動時には補給しなければなりません。
トレーニングや試合前に必要量を補給しておくことで体のエネルギーを満たしておけます。
また、エネルギーが減ってきたころにも補給してあげることでスタミナ切れを予防できます。
さらにトレーニング後に補給することで、失ったグリコーゲンを速やかに筋肉や肝臓に貯蔵させることが出来ます
摂取する糖質の量は、食事との兼ね合いや活動で消費した量にもよりますので一概には言えませんが、4~10g程度/体重1kgあたりを運動前・中・後で摂取するのが望ましいと思います。
また、摂取する飲料の糖濃度は吸収速度(胃の通過速度)に影響を与えますので、運動中に飲むものは2~8%の範囲内程度で調整するのがいいと思います
あと、運動前に摂取するものにはGI値への考慮も必要になります
GI値とはグリセミックインデックスの略で、血糖値のあがりやすさを示します。
運動前にGI値の高いものを摂取すると、場合によってはインスリンショックを引き起こしますので、吸収は早いがインスリンの急激な分泌を引き起こさない類の糖質が望ましいのです
具体的な量やタイミングは競技によっても異なりますし、各選手の体格や体質などによっても異なります。
自分にピッタリ最適化された処方を知りたい人は、お近くの(マシンインストラクターではなく)パーソナルトレーナーや、(運動生理学に詳しい)管理栄養士さんに聞いてみてください
では、水分補給を科学していくのはこのあたりにしておきたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます