「 先生は 今はもう
描いてないんですか? 」
僕の相談に乗ってくれるくらい
的確な構図の案をくれる
挿絵担当だった 先輩の絵
何冊か分見たことがある
繊細で エロい
大人なタッチで
カラ―が凄く 綺麗だった
「 描いてるところ 見たいなぁ 」
それは ずっと思っていた願望で
なぜだか
今 頼めば 叶いそうな気がした
…それは 先輩の仕草が
何かを隠してる時の それで
知られたくない事の代償に
少々の難問でも 叶えてくれそうな
…そんな目を 先輩がしてるから
僕は期待した
いいよ って言って…
そう 期待一杯で 先輩を見つめる
「 描いてない 」
…バッサリ 拒否られた…
「 お前 教室帰れ 」
そう言うと 先輩は机に向かった
「 一応 腹痛って事にしといてやる
でも ここへ来る 頻度が…
兎に角 授業は 休むな
マークされると 顧問がうるさいぞ 」
…先生らしい尤もな事を言う
「 先生 もう全然描かないの? 」
僕は 自分でもしつこいと 思いつつ
聞いてしまう
「 描いてるとこ 見たいんです 」
願望の押し付け これは 要求だ
机に向かっていた先輩が
クルリと椅子を回し
僕を見据えてくる
「 教室へ戻れ 」
僕の為に言ってくれている
それは分かってる けど
どこかで ムキになる自分が居て
「 やだ 描いてるとこ
見せてくれるって
約束してくれないなら
僕 動かない 」
…子供過ぎる…
自分で言いつつ 呆れてしまった
「 なに? それ 」
案の定 先輩も 呆れてる
本当は
少しでも先輩と一緒に居たい
…本音は それだけの事
「 好きにしろ 」
先輩は 再び机に向き直した
その後姿を ボンヤリ見つめていると
耳の後ろにも 赤い痕
…相手は誰なんだろう…
「 僕の知ってる人なのかなぁ… 」
不意に 思った事を口にした
先輩は聞こえてもいない態…
なんだか 意地悪な気分になって
僕は先輩の後ろ姿に近付くと
耳の後ろの赤い痕を 指で触れた
ビクッとした先輩が
振り向きざま 「 なに? 」
…不機嫌な声
「 …これ キスの痕だよ
残した人って 僕の知ってる人? 」
マメくらう鳩ポッポ状態で
先輩の 表情が変わった
―――――――