カギ
ストーブの前に正座をし、両のコブシを握りひざの上に置いている。
ほんのりと赤らんだコブシを何となく見やり「愛おしい」と思う。
普段なら、こんな事思いもしない。
左の手の甲を、右手でくるくるとなでてみる。
一瞬白くなったかと思うと、ほんのわずかの時間で先ほどより赤みを増す。
つやつやして、赤くて、何だか可愛い。
けっして大人らしくはない手、どちらかというと肉付いてむちむちした手、
ここ最近潤いをなくしかけ、ちょっとカサついた手。
それでも何だか可愛いのだ。
理由は、私の心が今の瞬間「素直」だから。
私も
日ごろは「自分」という型にはまり、感情をコントロールし、何気ない振りをし、
面白くない事でも面白く笑い、理不尽な事でも「そんな事もあるもんだ」と受け流す。
ホントの私はとてもワガママで、とても甘えん坊で、とても怖がりで、とても弱い。
鎧のカギをはずし、ホントの自分を解放し、「素直」な瞬間が訪れる時がある。
そのカギは、黄金色の発砲した魅惑のドリンク。
私の楽しみの一つである、週末ビール。
日ごろ己を締め付けている、「自分」という型から解放するための手段。
魅惑の液体の力を借り、私は自分の型から少しだけ解放される。
ゴロンと寝転がり、手足をユラユラとタコのようにくねらせる感覚。
その力を借りて私は、今の瞬間とても「素直」なのだ。
普段なら何とも思わない自分の両のコブシを
「がんばってるね」
と本当に愛おしくなでた。