確かに、昔はがっついていた。キスは全力で唇を吸引するものだと思っていたから、終わった後、相手の女は焼きそばを全然すすれなかった。すすろうと思っても、口からすべてこぼれ落ちるのだ。「あせらないで」といなされたこともある。でもそういうことが経験値をあげていくのだから、仕方がない。キスをするとき目を閉じるのは、気まずいからではない。瞳が合わせ鏡になるからではない。相手が恐ろしい形相だからではない。恋は盲目だからでもない。情報の8割は視覚に頼っているのだから、それをシャットアウトして、残された感覚だけに頼るのだ。とりわけ味覚を存分に味わいたいから目を閉じて強制暗室になるのだ。そんなことはBjorkのAll Is Full Of Loveのアンドロイドでも知っているのだ。 ドイツで男女を3メートル四方の暗室と明るい部屋に閉じ込め、性的興奮を実験した結果は一目瞭然だったそうな。 しかし暗室効果は、別に暗室に入らなくても、目を閉じるだけでいいのだ。
とにかく人は、セックスに至るまでの五感の共有の段階で、味覚が最後に来るということを知っている。最終的には恋人を味わいたいのだ(その味はワインより美味いのだ)。 それではどうぞ I dream of your first kiss, and then, I feel upon my lips again, A taste of honey... tasting much sweeter than wine.